交流編1
○翌日、早朝にさとるさんたちが怪我をしていない自警団団員と共に彼らの集落に旅立っていった。
「それじゃ、行ってくるわね~」
マスターの言葉にはハートマークが飛んでいる。
同行する彼ら自警団は全身、男性なのだ。
あの人、大丈夫か?いや、むしろ同行する自警団の人たちは大丈夫なのだろうか?
まぁ、さとるさんと友美さんが一緒なので大丈夫だと思うが、マスターから目を離さないでもらいたい。
「それじゃ、私もそろそろ行くね」
優子さんが愛用の弓を手にバックパックを背負う。
優子さんはこれから2人のギルドメンバーと新たな集落を発見する為に旅立たなくてはいけない。
これまで、ギルドでは行動する際は4人体制だったのだが出来るだけ広範囲を探索する為に今回は3人体制で動く事になった。
様々な経験を積んでいるので大丈夫だと思うが、やっぱり不安だ。
「うきゃっ」
後ろから突然抱きしめたので優子さんから変な声があがる。
「無理だけはしないでね」
優子さんをぎゅっと抱きしめる。
「うん、大丈夫。絶対に無理はしないから」
「約束だよ」
優子さんがオレの頬を撫でる。
「それじゃ、行ってきま~す!」
優子さんが大きく手を振り旅立った。
「わたしもそろそろ島に向かいますね」
一緒に優子さんを見送った香織さんもこれから田中さんたちと島に旅立たなくてはいけない。
「香織さんも気をつけてね」
オレは香織さんを抱きしめる。
「はい、ありがとうございます」
香織さんもオレを抱きしめてくれる。
う~ん、やっぱり胸、おっきいね。
「帰ったらいっぱい愛し合おうね」
「・・・はい!絶対!」
香織さんは顔を少し赤くしながら田中さんたちと旅立った。
オレもさとるさんたちが戻ったら集落探しに出発する。
「すっかり寂しくなっちゃいましたね」
後ろから美咲ちゃんに声をかけられた。
「・・・そうだね。でも、みんなすぐに戻ってくるし、また賑やかになるよ!」
「はいっ!」
美咲ちゃんが笑顔でうなずく。
・・・よかった。さっきのは聞こえなかったみたいだね。
「真人さん、やり過ぎないようにしてくださいね」
美咲ちゃんににっこり注意された。
・・・聞こえてたのね。
それから、5日後にさとるさんたちが無事に帰還した。
「彼らは移住計画を受け入れてくれました」
元々、自警団が移住に反対していただけで集落の人たちは移住に前向きだったそうだ。
基地周辺集落の人たちも彼らの受け入れを了承してくれている。
この近辺には耕作地が多いのだが人手が足りず手付かずになっている。
そこを利用すれば彼らの受け入れは可能だ。
問題はそこで作物が収穫出来るようになるまでの期間だ。
「人口が増えれば出来る事も増えますし安全にもなります」
人口が増えればゴブリンはもちろん、以前の山賊のような集団にも対抗できる。
友美さんのように、これまで活かされなかった才能を発揮する場も増える。
「ここで収穫が出来るようになればかなり大きな集落が形成されます。そうなれば自然と人口が増えていくでしょう」
さとるさんが眼下に広がる土地を見てつぶやく。
この冬を乗り切ればそうなるだろう。
「ここに大集落が出来れば他の集落からも移住希望者が出るでしょうし、数年すればここには都市が出来ます」
うん、そうなるかな?
「人が集まれば様々な問題が起きます。それを解決するギルドの発言力は強くなるでしょう」
まぁ、人が増えればトラブルも増えるだろうし、その解決をギルドがするのも分かるよ。
でも、発言力を強くしてどうするの?
「ここに都市国家が出来た時、最大の武力を持つのは我々ギルドになります」
都市国家?武力?
「我々は今、大きな分岐点に立っているのかもしれません」
え~っと、オレたちが立ってるのは基地の前だよ。
「まだ先の話ですが、それほど遠い未来でもありませんよ」
さとるさんがオレを見ながら微笑む。
「期待していますよ。真人くん」
ん?なにを期待してるの?
「それでは行ってらっしゃい。でも、必ず戻ってきてくださいね」
さとるさんに笑顔で見送られて、仲間と共にオレは基地を旅立った。
さとるさんのことだから、オレには想像も出来ないような考えがあるんだろうなぁ。
それから、約1か月後、オレは基地に戻ってきた。
さとるさんに指示された地域を探索すると確かに集落があった。
オレたち以外のメンバーも指示された地域で次々と集落を発見した。
特に優子さんたちは人口2000人を越す大集落を発見した。
これまでに6個の集落を発見する事が出来ている。
う~ん、さとるさんすごいな。
「これで彼らの受け入れは大丈夫ですね」
さとるさんがみんなからの報告を聞き笑みを浮かべる。
「むしろ、人数が足りないぐらいです」
優子さんが発見した集落では100名の受け入れを希望しているそうだ。
それ以外の集落でも10名から50名ぐらいの受け入れを希望している。
どこの集落も人手不足でこの冬だけの受け入れなら問題ないそうだ。
この冬の間に耕作地を広げて、収穫する時には受け入れた人たちはいない。
広がった耕作地の分、収穫が上がり豊かになる。
そう考えれば、食料に余裕があれば受け入れに動くだろう。
「島の方では人の受け入れは150人が限界だが、塩や食料は出来るだけ出してくれる」
島ではさとるさん考案の塩の製造施設がすでに稼働しており塩を増産している。
「それでは受け入れ先には塩や干物を持っていってもらいましょう。受け入れのお礼兼宣伝用に」
さとるさん、ちゃっかりしてるな。
「みんな、ご苦労じゃった。集落が見つかった事も嬉しいがみなが無事に戻ってくれた事がなによりじゃ」
「約1名、無事じゃないのもいますけどね」
オレは隣のマスターを指差す。
「うるさいわね!念願の!夢にまで見た男性ギルドメンバーが誕生するのよ!」
今回、自警団の中からギルドに入りたいと希望する者が出ているのだ。
もちろん、住民を監視していた方じゃなく食料を調達していた方からね。
「でも、そんなに簡単に受け入れていいんですか?ギルドメンバーになるなら、それに相応しい実力がないと」
香織さんがじと目でマスターを見る。
「ふんっ、あたしがなにがなんでもギルドに相応しく鍛えてみせるわ!ねぇ、カトリーヌ」
マスターが後ろに控える人物に声をかける。
「はい。アタシたちはエリーお姉さまの訓練に耐えてみせます」
カトリーヌ?どう見ても、丸坊主のお兄さんなんだけど・・・
「食料調達班のリーダーをしてた加藤さんです。すっかり洗脳されてますけど・・・」
そっと、友美さんが教えてくれた。
そうか、オレたちのいない間に彼の身にいったいナニがあったんだろう?
決して、知りたくはないが!
「まぁ、いいんじゃない?ずっと、男性メンバー探してたし」
「いえ、アタシは男ではありません!アタシはそんなモノは超越しました。そう!アタシはニュータイプなのです!」
あっそ。
オレは呆れたけど、マスターはうんうんとうなずいている。
優子さんや香織さんたちはげっそりとして、
「うっうっ、以前の加藤さんは食べ物を分けてくれたりした良い人だったのに、どうしてこうなっちゃったんでしょう?」
加藤さん時代を知る友美さんは泣きそうになっている。
「すいません。あの時、目を離さなければ・・・」
さとるさんが沈痛な面持ちで友美さんを慰める。
「これまでのアタシは性別なんて小さなモノに囚われた小さな人間でした。でも、真実の自分に目覚めた今、アタシは本当のアタシになったんです!」
「よく言ったわ。カトリーヌ、あなたに教える事はもうなにも無いわ!」
「エリーお姉さま!」
いや、教えてやってくれ。オレはイヤだから。
ひしと抱き合う2人を視界に入れないようにしてさとるさんに質問してみる。
「まさか、希望者全員がこうじゃないよね?」
まさかね。オレの質問にさとるさんはそっと目を逸らす。
「・・・」
さとるさん、なんとか言って!
「まぁ、危険はないようだし、訓練してもらえばいいんじゃないかね?」
田中さんが苦笑しながら提案する。
「ありがとうございます。田中のおじさま!」
カトリーヌが田中さんの手を両手でがっちりと握りながらお礼を言う。
「・・・わしも断りたくなってきたな」
ぼそっと田中さんが呟いたのはカトリーヌには聞こえなかったようだ。
多少の問題はあったが訓練をして試験に合格すればカトリーヌたちをギルドに受け入れる事になった。
「こうなった以上、ギルドが責任を取るしかありません。このまま、放置するのも問題ですから」
さとるさんの言葉にみんなが小さくうなずく。
「そっか、これが大きな分岐点ってやつか」
「断じて違います」
さとるさんの尻尾はうなだれていた。




