冒険者編11
○オレの眼前で香織さんとラミアさんが抱き締め合っている。
「それは大変でしたね」
「みなさんも大変だったんですね~」
ラミアさんの悲鳴を聞き付けた香織さんたちはその声を頼りにここまでやって来てくれた。
そこでオレと話すラミアさんを発見したのだ。
さすがに最初はその姿に少し驚いた香織さんたちだったが、オレが簡単な事情を説明しラミアさんから話を聞くとラミアさんの状況に同情し受け入れてくれた。
「そういえばホブゴブリンはどうなったの?」
オレは隣で2人を見つめている京子さんにそっと聞いてみる。
「うん、無事に退治出来たよ」
京子さんは腰につけた袋をポンポンと叩く。
オレと別れた後ホブゴブリンを追跡した香織さんたちは昼過ぎにホブゴブリンを発見し倒したそうだ。
「いや~、香織がすごい気合いでホブを追いかけてね。おかげで真人さんがナンパしている間、ワタシたちは休憩無しだったよ」
いや、京子さん、ナンパなんてしてないから。
「女性に声をかけて自分の家に連れ帰る。ナンパ以外なんて言うんだい?」
・・・ナンパです。はい。
「しかし、おもしろいね。彼女」
香織さんと手を握りあってお互いの境遇を話しているラミアさんを指差す。
あの姿じゃ普通の集落ではなかなか受け入れるのは難しいだろうなぁ。
「うん。苦労してきたみたいだね」
「いや、ワタシが言ってるのはそういう意味じゃない」
京子さんが見た限り、彼女は自分の姿を受け入れている。それがおもしろいそうだ。
「ん?どういう事?」
自分なんだから受け入れるしか無いような感じがするけど?
「自身の肉体があそこまで変異したんだよ。普通なら受け入れられず自殺などの手段にはしる可能性もあるとワタシは思うけどね」
京子さんが肩をすくめる。
なるほど。オレやさとるさんなど大きな変異をしたら、自分を受け入れられずに悩む人もいそうだな。
「じゃあ、変異しても受け入れられなくて命を捨てた人もいるのかな?」
「ワタシはいると思うよ。正確にはそういう人もいただろうね」
そう考えるとラミアさんとここで会ったのは良かったな。
まぁ、あのラミアさんはけっこう自分の肉体を気に入ってるみたいだけどね。
そのからオレたちは今後の予定を話し合う。
ラミアさんは基地に来てくれるそうだ。良かった。
しかし、依頼中なのでホブゴブリンを退治した事を集落に伝えないといけない。
普通の集落にいきなりラミアさんを連れていくのはちょっと問題があるだろう。
無用な騒ぎは避けるべきだ。
そこで、香織さんたちが集落にホブゴブリンを退治した事を報告に行き、オレとラミアさんは先に基地に向かう事にした。
「いいですね。この道から離れてはいけませんよ」
香織さんが基地に繋がる道までオレを案内して注意する。
いくらなんでもこんなとこで迷子になんかならないよ、オレ。
「まぁ、ここからならなんとか大丈夫だろう」
京子さんまで不安そうな顔をしないでくれないかな?
「大丈夫ですよ~。自衛隊の基地なら自分も知ってますから」
「くれぐれも真人さんから目を離さないでくださいね。さくやさん」
ラミアさんの名前はさくやというそうだ。いいお名前だね。
でも、香織さん、基地から来たオレよりなんでさくやさんの方を信用してるの?
「自衛隊の基地がそんなことになってるなんて知りませんでした~」
オレとさくやさんは香織さんたちと別れ、基地に向かう。
さくやさんは一度、自衛隊の基地を見に行った事があるそうだ。
だが、その時にはさくやさんの姿を見た人たちに驚かれてしまい彼女も驚いて逃げ出してしまったそうだ。
となると山賊が来る前にさくやさんは基地に行ったのか。
「その時、自衛隊の人はいなかったの?」
「はい~、普通の人が避難していただけで自衛隊の人はいなかったと思います」
そっか。
避難していた人はその後やって来た山賊どもに追い出されて周辺で集落を作って生活してるけど、自衛隊の人はどこに行ったんだろう?
「でも、真人さんギルドなんてすごい事してるんですね~」
さくやさんが感心したような声を出す。
「いや、考えたのは他の人だし思い付いたのも他の人だよ」
さとるさんや美咲ちゃんがいなければギルドなんてやってなかっただろう。
もし、ギルドなんてしてなかったらさくやさんを保護しようなんて思わなかったかもしれない。
そうなればさくやさんは今も山中でさびしく暮らしていたのかもしれないなぁ。
ギルドを思い付いてくれた美咲ちゃんやギルドで変異者の保護などをしようと考えてくれたさとるさんに感謝だね。
オレたちはそのまま無事、基地にたどり着いた。
オレは香織さんたちが思うほど方向音痴でない事がこれで証明された。
「いや~、近道しようとしたのは失敗でしたけどね」
し~、さくやさんそれは内緒で頼みます。
「みなさん、これからよろしくお願いします~」
食堂でさくやさんがみんなにあいさつをする。
みんながそれを笑顔で見ている。
最初にさくやさんを見たときはみんなも少し驚いたようだが大丈夫そうだね。
「さくや君、よく来てくれたね。これからは儂らが君の仲間だ。気楽に過ごしておくれ」
ギルド長を勤める大先生がさくやさんの頭を撫でる。
「はい~、ありがとうございます」
大先生に頭を撫でられてさくやさんもうれしそうだ。
「真人くん、いい人を連れて来てくれましたね」
隣に座るさとるさんの目がちょっと怖い。
マッドモードに移行してないよね。大丈夫かな?
「大丈夫です。興味は否定しませんがね」
オレの視線を受けさとるさんが苦笑する。
最初にさくやさんと会った時のさとるさんは大興奮してたもんなぁ。
「真人ちゃん、どうしてまた女なの。なんかあたしに恨みでもあるの?」
反対側に座っているマスターは若干へこんでいる。
集落からも女性たちがギルドに仲間入りしたから、ますますお姉さんが増えたのがショックみたいだ。
それはしらん。
そこからはみんなでお食事会みたいな感じになった。
さくやさんの後ろをずっと美咲ちゃんがついて歩いている。
鱗マニアには堪らない鱗らしい。
「これぞ正当派です」
さくやさんの尻尾を撫でながら美咲ちゃんは恍惚としている。
隣で子供も一緒に撫でているのは、鱗マニアに弟子入りしたからじゃないよね。
てか、お前それが女性の下半身って分かってるのか?
あんまり撫でると失礼になるぞ。
「えぇ、そんな!」
香織さんが大きな声を出し優子さんに口を押さえられ、じたばたしている。
あっちはあっちでなにしてんだろうね?
優子さん、鼻まで押さえると窒息するよ。
じたばたしてた香織さんがなんかぐったりしてきたから解放したげてね。
それからちょっとした部屋割りの変更があった。
香織さんと同室だったお姉さんが京子さんたちの部屋に移動してさくやさんが香織さんの同室となる。
「まぁ、たいてい京子さんの部屋で寝てましたからね。あの子は」
優子さんから無事解放された、香織さんは苦笑している。
あぁ、ピンク御殿の住人だったもんね。あの子。
京子さんは両手に花でご機嫌だ。
「ずるいわよ。なんであんたばっかり!」
マスターが京子さんに絡んでいる。
「人徳とワタシの魅力ですね」
京子さんは勝者の余裕だ。
「来月、島に行く時はさとるくんに同行してもらおうと思っとるんですが、どうですかな?」
田中さんは大先生とこれからの事を話し合っている。
「うむ、気温が下がる前に一度あいさつに行かせた方がいいじゃろう」
田中さんが一緒なら島の人がさとるさんを見ても大丈夫だ。
う~ん、なんかいい感じだね。
オレはみんなの姿を見ながらそう思う。
この時は大事な事を忘れてたんだよね。
それから、お食事会が終わりみんな徐々に部屋に戻って行く。
そろそろオレたちも部屋に戻ろうと思って優子さんに声をかけた。
「あっ真人は先に戻ってて。私はちょっと用事を片付けてくるから」
優子さんにそう言われ1人で部屋に戻る。
用事ってなんだろう?
オレは少し疑問を感じながら服を脱ぎ布団に入る。
オレは重量があるから寝るときは床の上なんだよね~
ベッドで優子さんと一緒だと眠れなくなる事も多いしね。
そんな事を考えていると部屋のドアが開いた。
優子さん、戻ったか。
オレはそう思い、優子さんを出迎える。
しかし、ドアの前には顔を真っ赤にした香織さんが立っていた。
「あっあの優子さんが今日はここで寝るようにって」
香織さんが消え入りそうな声でオレに言う。
「あ~、そうなんだ。で、優子さんは?」
優子さんは香織さんの部屋で寝るそうだ。
優子さ~ん、これは強引すぎない?
「あの、やっぱり、わたし戻ります」
香織さんが部屋を出ていこうとする。
「いや、待って。オレも香織さんとゆっくり話したいことがあるんだ」
オレは香織さんにお茶を出す。
優子さん秘蔵のお茶だけどこれぐらいいいよね。
「あのすいません」
香織さんが小さくなっている。
「いや、悪いのはぐずぐずしてたオレだから」
優子さんは悪くないよなぁ。もちろん、香織さんも。
「あ~、なんて言ったらいいのか分からないけど、オレは優子さんを愛してる」
「はっはい、それは分かってます」
「でも、香織さんの事は嫌いじゃない」
「はっはい、ありがとうございます」
う~ん、こういう言い方は卑怯だな。
オレは覚悟を決める。
「オレは優子さんを愛してるけど香織さんの事も好きだ」
これで浮気者って嫌われても構わない。
正直に自分の気持ちを伝えよう。
決めるのは香織さんだ。
「香織さんに対する気持ちは優子さんに対する気持ちとは違う。でも、香織さんの事を好きなのも本当なんだ。それが愛情なのか欲情なのかよく分かんないけど香織さんも間違いなく好きだ」
オレの言葉を聞いて香織さんは息を飲む。
それから、ゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「わたしはさらわれて汚された女です。でも、真人さんに助けられて、真人さんの事をずっと見て、どんどん気持ちが大きくなって、がまんしようと思ったけど無理でした」
香織さんがオレをまっすぐに見る。
「わたしはあなたが好きです」
オレは香織さんをまっすぐに見つめる。
視線が絡み合う。
オレは香織さんの頬に手を当てる。
「わたしは汚れてます」
近づくオレの顔を香織さんが止める。
「それならオレがキレイにするよ」
オレは香織さんの手をどけて口づけを交わす。




