冒険者編6
○オレは旅立ちの準備をしている。
といっても目的地は田中さんの島だ。
マスターとさとるさんがさらわれ、それを助けに来たら山賊退治になり、そのままここに移住して冒険者ギルドを始めた。
それがこの2ヶ月弱の出来事になる。
連続的に事件が起こりそれに合わせ状況が変化した為に、田中さんの島に事情を説明する事が出来なかった。
その後も依頼をこなすのに精一杯で、なかなか島まで行く事が出来なかった。
しかし、これからどんどん寒くなる。
そうなれば、大先生やさとるさんは睡眠時間が長くなり、ますます田中さんは忙しくなる事が予想される。
これでは、いつまで経っても島に行く事が出来ない。
大先生の提案で、少々強引に島に向かう事になった。
依頼をこなすのが大変になるが、みんなも休み返上でがんばってくれる。
オレたちもがんばらないと。
今回、島に行くのはオレと田中さん、そしてマスターの三人だけだ。
島に事情を説明する田中さんを守るのがオレとマスターの役目だ。
もっとも、マスターの目的は他にもある。
各集落に武器の扱い方などを教えに行っていると基地に移住を希望する人が出てきた。
しかし、その希望者が全員女性だった事がマスターには面白くないらしい。
「あたしたちは冒険者なのよ。もっと汗くさい男が来てもいいじゃない!」
それがマスターの主張だ。
「でも、こっちは女性が多いんだから仕方ないよ」
しかも、幹部以外の男性といえばあの子供だけで、実際に集落に行くのはほとんどがお姉さんになる。
そこに仲間入りするのはけっこう勇気がいると思う。
女性の集団ってちょっと怖いからね。
「一人ぐらい男が来てもいいじゃない」
マスターには内緒にしてるが男性の希望者も多少はいたらしい。
しかし、どうもなにか勘違いをした男性たちだったらしく香織さんたちにハードなトレーニングを課せられ、一日でギブアップしたそうだ。
「あんな根性無しに冒険者は勤まりません」
香織さんの言葉にお姉さんたち一同が深くうなずいていたので怖くて逆らえなかったよ。
そこで、マスターは島から男性集団を移住させようと目論んでいるらしい。
うまくいけばいいけど、失敗してもオレは知らない。
オレの目的はお刺身だ。肉もいいがたまには魚も食べたい。
以前にもらった干物はすでに食べてしまった。
ブラックバスやブルーギル、鯉になまず。
この辺の河や池でもそんな魚は採れる。
あれはあれでいいが刺身する事は危なくて出来ない。
やはり刺身は海の魚に限る。
それにさとるさんから塩の製造を島にお願いするように頼まれている。
人が生きるのに塩は絶対に必要だ。
今は街の廃墟から見つけた塩があるがそれもいつまで有るか分からない。
そこで島で塩を作ってもらいたいのだ。
その為の設計図や計画書はさとるさんと田中さんが相談して作成してくれた。
島で安定的に塩を作ってもらえれば食料の保存などにも使う事が出来る。
それをお願いする為にこちらは現在実用化しているトイレ肥料施設などの技術を島に提供する。
田中さんの島の近くには塩の名産地もあるので塩の製造は可能だろう。
あとはそれを島の人たちが受け入れてくれるかだ。
今回、優子さんが不参加なのは看護師でもある優子さんはさとるさんや大先生が実施している妊婦さんや他の人たちの定期検診に同行しなくてはいけないからだ。
残念だがこの仕事は優子さんの力がないと出来ない。
もっとも優子さんは妊婦さんが気になるので今回は不参加のつもりだったそうだ。
正直、オレとしてはマスターより優子さんに参加してほしかった。
う~ん、残念だ。お土産をたくさん持って帰ろう。
この基地は以前のお屋敷より島から離れている。
今回は往復で10日間ぐらいの予定になる。
ここからお屋敷までの道もお屋敷から島までの道も分かっている。
それにマスターと田中さんが一緒だから迷子になる事はないだろう。
向こうでの交渉が上手くいけばそれほど長引かないだろう。
10日間も優子さんと離れるのは初めてなので、香織さんや美咲ちゃん、それにあの子にもくれぐれも優子さんが無理をしないように頼んでおく。
そしたら、その後ろで田中さんやマスターにオレが迷子にならないように頼んでいる優子さんがいた。
あれ?
心配なのはお互い様だったようだ。少し、心配の内容に温度差があったけどね。
準備の出来たオレたちは早朝、みんなに見送られて基地を出発した。
「真人ちゃん、くれぐれも一人で動いちゃダメよ。優子ちゃんに怒られるからね」
笑いながら運転席のマスターに注意される。
あのね、オレは子供じゃないんだよ。少し方向音痴なのは認めるけど。
「そうだぞ。迷子になるのは一人で動くからだからな」
助手席に座ってる田中さんにも笑いながら注意された。
・・・優子さん、なに言ったの?
それから日暮れまで走って夜営する事になった。
「そろそろ、ガソリンの補充が難しくなってきたな」
この辺の車にはもう余りガソリンが残っていない。
ガソリンスタンドのガソリンはパニックの時に、ほとんど空になっている。
「ドラム缶にでも見つけたガソリンを保存するべきかな?」
「う~ん、それも考えたんだけど、ガソリンは危ないから余り保存したくないのよ」
オレの提案にマスターが首を振る。
ガソリンも爆発物みたいなもんだからなぁ。
「そうなると今後は牛や馬を見つけないといかんかな?」
牛に荷を背負わせ、馬に乗るのか。
オレは、出来たらデカイ黒馬に乗りたいな。
「それが一番だと思うけど、牛や馬なんて生き残ってるのかしらね」
牛なんか牧場とかぐらいでしか見ないもんね。
それに馬も俗に言う競走馬では役にたたないだろう。
「そうなると人力か」
田中さんがそう言いながらオレを見る。
「それが現実的だと思うわ」
マスター、オレを見ながら言わないでくれ。
いや、もちろん頼まれればやるけどね。
「でも、オレが荷運びをする訳にはいかないんじゃない?」
オレたちには冒険者としての仕事がある。これはおろそかにしていい仕事じゃない。
これからの事を考えると、出来るだけギルドの信頼を高め規模を拡充する必要がある。
「そうだな。真人君に荷運びをやってもらうのは問題だな」
「でも、真人ちゃんより力がある人もいないし難しいわね」
「まぁ、わしらだけで結論を出すもんじゃないだろう。大先生やさとる君にも相談してみんとな」
でも、車が使えないと不便だよねぇ。
これって今後、結構大きな問題になりそうだな。
オレたちはそれから3日後に島にたどり着いた。
これを人力だと倍以上の日数がかかるだろうな。
途中に寄ったお屋敷はまだまだきれいだったが畑は猪などに荒らされちょっと悲しかった。
「ほう、少し変わったようだな」
田中さんが感心したように橋を見る。
以前は釘を打ち込んだ角材が無秩序に転がっていたのに、今はそれらが組み合わされ橋を完全に塞いでいる。
「これって通るときはあの紐を引いて立て掛けるんじゃないかしら?」
マスターが橋の欄干に伸びている紐を指差す。
「知恵があるものは通れるように仕掛けとるんだな」
これならゴブリンは通れないが避難者は通る事が出来る。
「それにあれって見張り台じゃないかな?」
以前、来た時には無かった塔のような物が見える。
「あぁ、間違いないわね。向こうも双眼鏡でこっちを見てるわ」
双眼鏡を見ながらマスターが確認する。
「それならわしの顔を確認できるようにして進んだ方がいいな」
田中さんを見れば攻撃される事はないだろう。
田中さんが車から降りて歩き、その後ろを車がついていく。
オレは釘付き角材進化版を紐を引いて欄干に立て掛ける。
「門も作ったみたいだな」
橋の出口には丸太を組み合わせたゲートが作られている。
その後ろに数人の男たちが立っているがこちらを攻撃する様子はない。
良かった。田中さんを確認してくれたようだ。
オレたちはそのままゆっくりと島に近づいていく。
ゲートの後ろにいた中の一人は田中さんのかつての相棒、佐藤さんだった。
「よう、久しぶりだな」
「田中さん、生きてたんですね。島を出たっきりになったので心配してました」
田中さんは佐藤さんに軽く謝りながら事情を説明する。
「なんか大変だったんですね。でも、無事で良かった。若社長も心配してますので会ってやってください」
佐藤さんがゲートを開けオレたちを島に入れてくれた。
「田中さん、心配しましたよ。無事でなによりです」
田中さんの姿を見た若社長が田中さんに走りよってくる。
「いやぁ、心配させて申し訳ない。あちらもバタバタしとって、なかなかこっちに来る暇がなかった」
田中さんが手を上げて若社長に謝る。
「無事ならいいんですよ。向こうはどうでしたか?」
相変わらず、腰の低い若社長に田中さんが状況を説明する。
「大変でしたね。ご相談の件は分かりましたがぼく一人では決められませんので、明日みなで話し合いましょう」
今日は若社長がみんなに軽く説明して明日、改めて田中さんやオレたちが説明する事になった。
「あ~若社長さん、来たばかりで悪いと思うんですけどお魚はありますか?」
オレの言葉にマスターが軽くあきれている。
いや、ここの刺身や魚料理は絶品なんだよ。
「もちろん、異変がおきてからの方が豊漁なぐらいですよ」
若社長は笑って許してくれた。
その日、オレたちは田中さんの生還記念の宴会に招かれ念願の刺身や魚料理に舌つづみを打った。
マスターもご満悦だ。
・・・男が多いからじゃないよね。




