冒険者編4
○オレたちは顔を見合わせる。
「まぁオレの勝手な予想だから、逃げてきた虎かもしんないけど」
ちょっと暗くなってきた空気を払う為に言い訳してみる。
「いえ、真人くんの予想がもっとも可能性が高いでしょう」
どっかから虎が逃げてきたよりは可能性があるか。
しかし、そうなるとまずい状況になるな。
今、ここで足跡を発見させた意図はオレたちをおびき寄せる為なんじゃないだろうか。
これまでこんな足跡、見つからなかったからね。
「我々の行動は見張られているんでしょうか?」
どうだろう?
さとるさんの質問を優子さんに確認してみる。
「これまで変な気配や物音はしなかったよ」
う~ん、見張ってる訳じゃないのかな?
だとすると目的はやはりオレたち?
正確には殺し損なったオレかな?
今更、集落を襲ってもあんまり意味が無いような気がするし、基地を襲って奪い返しても仲間がいない。
わざわざ、オレを殺す為に行動しているのか。
動物は一度狙った獲物に執着するっていうからそれと同じ感覚なんだろうか?
これはみんなから離れた方がいいかもしれないな。
そんな事を考えていると優子さんが抱きついてきた。
「真人、一人でなんとかしようとしたらほんとに怒るからね」
でも、優子さんやみんなを巻き込むのはなぁ。
「いえ、ここは全員で協力した方がいいでしょう」
ここまで金髪の思い通りに動かされているならオレが一人で動くのも予想しているかもしれない。
それならその予想を裏切る行動をするべきだ。
それがさとるさんの考えだった。
オレたちは周囲を警戒しながら車座になって話し合った。
ここで金髪を警戒して基地に戻ると、オレたちを誘き寄せる為に集落を襲うかもしれないので、それは出来ない。
やつは一人だ。
オレたち全員を同時に監視する事は出来ない。
それを利用するのだ。
オレと優子さん、さとるさんと香織さんに別れて行動する事にした。
オレと優子さんは森の中に、さとるさんたちは一度集落に戻って準備をする。
金髪の目的がオレならさとるさんたちを監視する事は出来ない。
その間にさとるさんたちが罠を準備するのだ。
オレたちは森をぐるりと一周しながらさとるさんたちが罠を仕掛けているポイントに向かう。
香織さんは罠を仕掛けるのが上手い。周囲の竹や植物の蔓などを利用して罠を仕掛ける事も出来る。
今回はここに来るまでにあった竹ヤブを罠ポイントに設定してみた。
「あの金髪さん、どうして真人を狙ってるのかな?」
う~ん、オレたちが基地を襲ったから?
でも、それならオレをピンポイントで狙うのはおかしいような気がする。
まさか、マスターの同類?それなら、被害なんて構わずに逃げたいなぁ。
「どっちかっていうとオレが撃たれてるんだから、オレの方が狙う立場のような気がするけどね」
「真人、傷は大丈夫?」
撃たれた傷はもう完全に塞がっている。
優子さんたちのおかげだね。ありがとう。
オレは感謝を込めて優子さんの頭をなでなでする。
優子さんは嬉しそうに目を細める。優子さんはかわいいなぁ。
「最近、香織さんたちも元気になってるね」
冒険者稼業をはじめてから、お姉さんたちが明るくなってきた感じがする。
「みんな、人助け出来てうれしいんだよ」
優子さんの言葉にうなずく。
これまでもオレたちを助けてくれてたけど、より多くの人から感謝されてうれしくないはずはない。
それがお姉さんたちを癒しているのか。
「それに香織は真人と一緒にいれてうれしいだろうしね」
ん?それはどういう意味?
オレが首かしげていると優子さんが呆れたようにため息をつく。
「真人、香織の目に気づいてないんだ」
香織さんの目?なにそれ?
オレがなにも分かってないので優子さんが説明してくれた。
優子さんから見ると香織さんはいつもオレを目で追っているらしい。
「それはオレがデカいから」
それで追ってるように見えるだけなんじゃ?
優子さんは首を横に振る。
「あれは恋する乙女の目だよ。間違いない」
優子さんが断言する。
そうなのかなぁ?
優子さんはオレに対する評価が高すぎる事があるからな。
香織さんか・・・香織さんは村のお姉さんたちのリーダー的な存在だ。
やや波打った髪に小麦色に焼けた肌。弓の訓練や畑仕事で肉体は筋肉質に引き締まって見える。
そうでありながら女性特有の柔らかさを失っていない。
・・・それに優子さんより明らかに胸が大きい。
いや、それは関係ないか。
そんな女性がオレを好き?ありえなくない?
オレは決してイケメンな訳じゃない。どっちかというと怖い顔だと思うよ。
そんなにモテるとは思えない。
「もしそうなら真人はどうするの?」
いや、どうするって香織さんが本当にそうなのかも不明なんだから想像も出来ないよ。
オレには優子さんがいるし、優子さんと別れるなんてのは考慮するまでもない。
優子さんはすでにオレの半身だ。別れるなんて出来る訳がない。
「優子さんはどう思うの?」
オレの質問に優子さんも考え込む。
「香織はもう私の親友だし、真人と別れるのもあり得ないもん」
そうだよね。優子さんと香織さんは一番仲がいいコンビだ。
「香織がそうなら真人ががんばらないといけないんだよ」
それ、どういう意味?
もし、香織さんがオレの事を好きならオレがきちんとふらないといけないって事?
「そうじゃなくて真人が私たち二人を幸せにするの」
え~っと、それは二人同時に付き合うって事?
オレの言葉に優子さんはうなずく。
「私は香織なら構わないと思う。私が妊娠できるかもわからないし、香織なら真人の子供を妊娠出来る可能性が高いし」
まぁ、それは香織さん次第じゃないかな?
「香織は真人の子供が生めるなら喜ぶよ。絶対」
優子さんが断言する。
なんか思わぬ難題が発生してるような感じがする。
いや、香織さんを嫌いな訳じゃないんだけど同時にってのが理解出来ない。
この問題は優子さんの勘違いの可能性も高いし、香織さんの気持ちがはっきりしたら考えよう。
そう結論づけて思考を停止する。
卑怯?放っといてくれ。
こんな問題に簡単に答えなんか出せる訳がない。
オレと優子さんは竹ヤブに近づいていく。
金髪はオレたちを追ってるんだろうか?
それとも離れたところからオレたちを監視しているのだろうか?
わざわざ、オレたちをおびき寄せたのなら諦めるとは思えない。
オレたちはさとるさんたちと合流する。
香織さんが笑顔で迎えてくれる。
優子さんが変な事を言うから妙に緊張してしまう。
香織さんがちょっと変な顔でオレを見ていたけどバレてないよね。
金髪もおびき寄せたオレがこんな事を考えているなんて想像もしてないだろうなぁ。
オレたちは竹ヤブの中で金髪が現れるのをじっと待つ。
香織さんが仕掛けた罠は説明されてもオレにも優子さんにも見破る事が出来なかった。
香織さんの罠をカモフラージュする意味でさとるさんも罠を仕掛けているがそちらはなんとか見破る事が出来る。
さとるさんが罠を仕掛けるのが下手なのではなく、香織さんがすごすぎるのだ。
「本当に金髪は現れるんでしょうか?」
虎は人間を襲う時、背後から襲う事が多いらしい。
そこでオレたちは全員が背中会わせに待機している。
「これが罠であっても真人くんを倒す最大のチャンスである事は変わりません。向こうは出ざるをえないんです」
さとるさんが楽しそうに笑う。
金髪は自分でオレをおびき寄せたのにいつの間にか罠にハマっている。
さとるさん、あくどいなぁ。
それから数時間が経った。
「来たみたいだよ」
優子さんが長い耳を動かしながら周囲の音を聞いている。
金髪にしたら運が悪かったよな。
オレ一人なら不意打ちも出来たかもしれないのに、優子さんがいてはそれも出来ない。
さとるさんがいたから策にハマり、香織さんの罠は見破る事が出来ないだろう。
なんか金髪に同情してしまいそうだ。
竹ヤブの向こうから静かに茶色の巨体が近づいてくる。
それは大きな獅子の頭をした人型のなにかだった。
そうか、虎じゃなくライオンだったのか。
そんなの足跡で分からねーよ。
「忌々しいやつらだ。俺と同じ化け物なのに人なんぞと仲良くしやがって」
金髪改め獅子男はオレとさとるさんを睨みながら怒りの声をあげる。
声帯が変わっているからか声自体は聞き取りにくいのにはっきりと憎しみは伝わってくる。
「僕たちは化け物ではありませんよ。姿は変わりましたが人間です」
さとるさんが獅子男に応じる。
その背後で優子さんたちがそっと弓を構える。
「ふん、お前らが人であるなんて誰が認める?人間たちはお前たちを人とは認めんだろうよ」
獅子男が吐き捨てる。
なんかあったんだろうな、これは。
「オレが人か化け物かはオレが決める。人がどう思っても構わない」
オレは槍を構えさとるさんの前に出て、獅子男に対峙する。
「人に追われてもそう言えるか?」
「わたしたちが真人さんたちを追う事なんて絶対にあり得ません」
香織さんが弓の狙いを獅子男につけ断言する。
「人が自分と異質な者を排除しようとするのは本能です。それは否定しません」
さとるさんが静かに語りかける。
「しかし、人は自分と異質な者とも共存できます。こちらに充分な利用価値がある限りはですけどね」
さとるさん、シビアだなぁ。
「利用価値だと。道具として生きるのが望みか」
「いえ、元々人は利用価値が無ければ人ですら排除します。だから、僕は冒険者ギルドを結成して周囲の人に利益を与える事にしたんです。これならお互いに共存できますからね」
それでさとるさんは冒険者ギルドなんてものの設立に賛成したのか。
ちょっとおかしいと思ってたんだよね。さとるさんみたいな大人で頭のいい人がなんで冒険者ギルドなんてお遊びみたいなものの設立に賛成したのか。
「これから我々のように大きな変異をした者は人から追われるかもしれませんからね。ギルドはそのストッパーとして有効そうだったので」
視線に気づいたさとるさんがオレたちに説明してくれる。
「最初に人に追われたのは人の責任でしょうが、あなたはそれを自分で認めてしまったんです。それはあなた自身の責任に過ぎません」
さとるさんはそう言って獅子男に槍の穂先をつける。
オレとさとるさんに槍を突き付けられ、弓で狙われた獅子男は顔を歪め身を沈める。
攻撃体勢になったのだろう。
しかし、その歪んだ顔は泣いているようにオレには見えた。




