冒険者編3
○オレたちが冒険者ギルドを立ち上げて約1ヶ月が経過した。
周辺の集落には結構、好評で驚いている。
今では毎日のように依頼があり、オレたちは忙しく働いている。
正直、ここまで需要があるとは思ってなかったよ。
あの山賊たちはゴブリンを追い払ってはいたけど倒すまではしていなかったようだ。
まぁ、やつらにすればゴブリンが集落の人たちを脅かしている方が都合が良かったのだろう。
ここらで最大の集落から近くで巨大な足跡を見つけたので調べてほしいと依頼された。
巨大な足跡ってトロールかな?
トロールだとかなり危険なのでオレと優子さん、さとるさんに香織さんの四人で調べに来た。
さとるさんが一緒なのはトロールだった場合、詳しく調べてもらう為だ。
この集落は大きな団地を利用して生活している。
この団地は高台に建設されており周囲をフェンスに囲まれているからゴブリン程度なら防ぐことが出来る。
お話を聞くと夜には交代で見回りもしているそうだ。
ここも当初は20人ぐらいの避難してきた生存者で生活していたそうだが、逃げてきた人を受け入れている内にここまで人数が増えたのだそうだ。
人数が増えた方が個々の負担は減るのだが、それまでの畑だけでは食料が足りなくなってしまいそうなので、少し離れた森も開墾している。
そこで大きな足跡を見つけたそうだ。
安全を確認しないと開墾が出来ない。そうするとこのままでは食料が足りなくなるかもしれない。
それでオレたちに依頼することにしたそうだ。
この集落の村長的な存在は元々この団地が出来た当初からここで暮らしていたおじいさんだ。
ここでうれしいお話も聞く事が出来た。
ここにいる人たちは多くがばらばらに避難してきた人なのだが、ここで知り合い夫婦というかパートナーになった人もいて、その女性の一人が妊娠している可能性があるそうだ。
これまで、ウイルスに感染した人が妊娠した事は無い。
さとるさんの予想では妊娠可能となっていたが実例は初めてだ。
ここにいる人は全員がさとるさん判定基準でのCクラスの変異者だ。
本当に妊娠しているのなら香織さんやお姉さんたちも妊娠出来るって事になる。
もしそうなら、未来は明るいね。
ここにいるのは全員幹部なので相談して、今回の依頼料に関しては無料にする事にした。
本当はトロールかもしれない危険な変異体モンスターを相手にするならかなり高額な依頼料を貰わなければいけないんだけど、それで妊婦さんの食料事情が悪化しては困る。
これは生まれてくる赤ちゃんへのお祝いだ。
さとるさんが妊婦かもしれない人の検診をしている間にオレたちは村長さんの案内で巨大な足跡を発見した森まで行ってみる。
そこで見たのは確かに大きな足跡だけどトロールの足跡では無かった。
オレ以外、トロールを実際に見た人はいないけどやつの足は例えるならでかい人間の足だ。
間違っても肉球はついていない。
「クマでしょうか?」
う~ん、確かにそれっぽい感じがするけどこの足跡、オレの掌より大きい。そんなにでかいクマがここいらにいるかな?
北海道とかならいるかもしれないけど。
見たこと無いけど、虎とかかな?猫の足跡に似てるような感じがする。
でも、虎ってもっといないよね。もしかして、動物園やサファリパークなんかから逃げ出した個体がいるのかもしれないけどね。
とりあえず、一度、団地集落に戻る事にする。おじいさんを送らないと危険だし、さとるさんから妊娠が本当かも早く聞きたい。
「本当に妊娠してるといいですね」
「うん、赤ちゃんが生まれるのってすごいよね」
優子さんと香織さんがきゃわきゃわしてる。
それをオレと村長のおじいさんは笑顔で見ている。
「山賊どもがここに来たときはどうしようもなかった。団地に住んどった者はだれも戦う事なんか出来んかった」
普通に生きてきた人たちだし、オレのように変異で肉体が強化された訳でもない。
仕方なかったのだろう。
「しかし、あんたたちがあいつらを追い出してくれて、ここの者も帰ってくる事が出来た。ありがとう」
おじいさんがオレのでかい手を握りそう言った。
「戻ってきた人たちの様子はどうですか?」
これまでつらい経験をしてきたのだから、今度は幸せになってほしいけど・・・
「まだショックを受けとる者が多い」
そうだろうなぁ。
戻ってきたから解決って訳にはならないだろうなぁ。
オレたちの話を聞いていた香織さんがじっと考え込んでいる。
自分と似た経験をした人たちの事を考えているのだろう。
「あの、もし、その人たちが望むならわたしたちの仲間になってもらってもいいでしょうか?」
香織さんが意を決したように発言する。
それを考えていたのか。
う~ん、どうだろう?オレ個人としてはいいと思うんだけど。
「私もいいと思うけど、一度みんなに相談してみよ」
うん、優子さんの言う通りだね。
今の時代、女性は自分の身を自分で守れないといろいろ危険な事がある。
加害者になる立場としては複雑な気分だ。
「まぁ、仲間まではいかなくても武器の扱い方とかを教えるのは問題ないですよね?」
村長さんも頷いてくれた。
この団地集落が自衛して自立すれば、周辺の他の集落も真似るんじゃないだろうか?
それはオレたちの目的とも一致する。
あくまでオレたちはお手伝いをするのが仕事だ。
「いい考えだと思いますよ」
女性の診察から戻ったさとるさんも賛成してくれた。
「んじゃ、ここの女の人にあとで話してみよう」
今はそれより女性の妊娠がどうだったのかが気になる。
優子さんたちもじっとさとるさんを見つめている。
さとるさんもそれが分かったのだろう。
「簡単な問診だけでしたが、ほぼ間違いないでしょう。彼女は妊娠しています」
その言葉を聞いた優子さんと香織さんが手を握りあって喜んでいる。
「あ~、さとるさん、その子のお父さんって?」
いやな質問だが聞いておきたい。
「大丈夫です。彼女はあそこには行っていません」
さとるさんの説明によるとその女性はやや高齢だったので免れたみたいだ。
「今後、定期的にここに検診に来ようと思います」
そうだね。みんなが望んだ新しい命だ。大事にしないと。
その為にはあの足跡の持ち主を特定しないといけない。
妊婦さんには栄養が必要だ。
オレたちは村長さんと別れ、再度、森に向かった。
「クマではありませんね。僕も見たことは無いんですが虎が一番近いように思います」
でも、虎って日本にはいないよね。どっから来たんだろう?
「変異した動物でしょうか?」
香織さんの質問にさとるさんも悩んでいる。
「あのウイルスは人間にしか感染しないようでした。霊長類なら感染するかもしれませんが」
猫が感染して巨大化した可能性はないか。
しかし、霊長類なら感染するのか。・・・ゴリラが感染したらそっくりになってたりして。
う~ん、これってなんの足跡だろう?
ん?でも、ひょっとして?
「・・・そういえばあの金髪はどうしたんだろうねぇ」
オレは足跡を指差しながらみんなに聞いてみる。
「この足跡があの山賊のリーダーって事?」
優子さんの質問にオレも首をかしげる。
オレも確信はないんだよね。
でも、オレを撃った時、あいつは笑っていた。
あの笑いは敗者の笑顔ではなかった。
あれはちゃんと勝算がある奴の笑いだ。
「彼は獣人だったという事ですか?」
そう、獣人、ライカンスロープ。
この場合は虎男って事かな。
もし、金髪がそうならあの笑顔の意味が分かる。
あの金髪は森で一人で生き残る自信があったんじゃないだろうか?
だから仲間を皆殺しにして一人で逃げたのではないだろうか?
そして、森の中ならオレたちに充分勝つ自信があるんじゃないかな。
・・・これって罠にハマったのかもしれないな。




