移住編2
○オレたちは、さとるさんとマスターの二人を探しに村の全員とともに出発した。
幸い、探しに行った町でバスを発見することが出来た。
先頭車両にはオレと優子さん、そして田中さんと村のお姉さんの中から数名が乗っている。
後続車は大先生を筆頭に美咲ちゃんやいまだに名前がないあの子と他のお姉さんたちが乗っている。
先頭車がフォワードで後続車がバックスって感じだ。
「二人はこの自衛隊の基地が目的地だったんですよね?」
地図を確認しながら二人が通った可能性が高い道を探す。
自衛隊はマスターも元職場だ。同僚だった人もいるかもしれない。
それなりに距離がある為、これまで未探索になっていたが探索範囲の拡大が決まった時にマスターが探索を希望したのだ。
自衛隊は日本国内で最も強力な武装集団だ。
武器類は普段は厳重に管理されているそうだが、現在はどうなっているのか?
また、自衛隊そのものはどうなったのか?
警察は内部にゴブリンウイルスの感染者が出て内部崩壊のような形になってしまったが、自衛隊はどうなったのだろう。
これまで救助などの組織的な活動は確認できないので自衛隊がそのままの形で残っている可能性はない。
隊員全員がゴブリン化したとは思えないので残った隊員はどうしたのだろう?
そのまま基地を放棄したんだろうか?
それらの疑問を解決する為に二人は基地に向かったのだ。
「まぁ自衛隊が山賊みたいになっとることはあるまい」
うん、オレもそれは考えてない。
日本の自衛隊は世界的、歴史的にみても極めて統制のとれた軍隊といっていいだろう。
だから自衛隊が山賊やゲリラのようになって地域を実効支配している可能性は低いと思っている。
でも、基地の中の武器を奪ったなにものかがそうしている可能性は捨てきれない。
気をつけて進もう。
二人は安全性と距離の問題から今回は車で探索に行っている。
生存者も探していたが、今回の探索の目的は自衛隊の確認だ。
あまり寄り道をせずに進んだと考えられる。
それならこの道を通ったはずだ。
オレたちはほとんどノンストップでバスを走らせる。
もちろんトイレ休憩はするし、運転も交代で行い体力の消耗を出来るだけ抑える。
二人になにかあったと仮定すればあの二人で対処出来なかった問題が起きたということになる。
その問題に消耗したオレたちが対応出来るとは思えない。
後続車にはツラいだろうが今は二人の発見を最優先する。
美咲ちゃんも子供もがんばってくれている。
そうしてオレたちは二日で二人が目指した自衛隊の基地近くまでたどり着いた。
ここまでの道程に二人が対処出来ないような問題は無かったと思う。
道に障害物がころがったりはしていたが、二人が使用していたワンボックスなら通れただろう。
それならここから基地までの間になにか問題が起きたのだろう。
考えたくないが自衛隊の武器を奪った者がいるかもしれない。
それなら相手はこちらより強力な武装をしていると考えられる。
ここからは慎重に行動する必要がある。
後続のメンバーと作戦会議をする。
「ここからは全員で動かん方が安全じゃろうな」
オレも田中さんの意見と同じだ。
「まず私と真人が偵察に行きます」
う~ん、どうなのかな?
偵察は必要だと思うが偵察に行った者になにかがあれば状況が悪化するような気がする。
でも、偵察もせずに全員で行ってなにかあったら意味がない。
どっちがいいんだろう?
こういうのはあの二人がいないと判断が出来ないんだよね。
「オレと優子さんが偵察から24時間経っても戻らなかったらみんなは田中さんの島に避難してほしい」
それが一番ましじゃないかな?
「でも、私たちだけが逃げるのならここに来た意味がありません」
村のお姉さんは反対のようだ。
ん?この人さとるさんに熱い視線を送ってた人だよね。
気持ちはわかるけどここはなんとか我慢してほしい。
「いや、真人くんの意見が正しいじゃろう。わしらがここにおるのはみんなの力で問題が解決できる場合に協力する為で玉砕する為ではないんじゃ」
みんなでなんとかなるんならもちろん協力をお願いするが、もうどうにもならない事態になっている可能性もある。
その時にあの子や美咲ちゃんまで巻き込む事は出来ない。
島の若社長や先生ならみんなを受け入れてくれるだろう。
田中さんもオレの顔を見てうなずいてくれる。
これで受け入れの問題は無くなった。
田中さんがなにがあっても受け入れるようにしてくれる。
オレと優子さんはマントを被って偵察に向かう。
バスの窓から不安そうな美咲ちゃんと美咲ちゃんに抱っこされたあの子が見えた。
オレたち二人は道から外れ林の中を進む。
オレたちはマスターからトレーニングを受けているが相手の能力も未知数だ。
相手の方が実力は上と判断して慎重に進む。
基本的にこういう時は感覚の優れた優子さんが先頭に立ちオレがその後ろに続く。
こうすれば優子さんは前方の視界を確保できるし、後ろからの不意打ちにはオレの肉体が盾になる。
前を進む優子さんがゆっくりと姿勢を低くする。
オレに視線で前方を示す。
オレもゆっくり動きながら優子さんの頭の上から前方を確認する。
こんな状況だけど優子さんの髪からいい匂いがするなぁ。
見るとライフルのような銃を持った男二人が歩いている。
着ている服は迷彩服だ。
自衛隊の生き残りだろうか?
しかし、歩き方がなんかだらだらしてて素人っぽい。
自衛隊かなぁ?あれ?
もう少し近付きたいがここから先は野原になっていて視線を遮る物がない。
これ以上の接近は不可能だろう。
迷彩服の男たちはなにか話しているがここからではオレには聞き取れない。
視線で優子さんに確認するとうなずいた。
優子さんの耳には聞き取れているようだ。
それなら今はこのままじっとしてよう。
まずはやつらが何者か知りたい。
ここにいる以上マスターたちと無関係ではないだろう。
しばらく見てると男たちは建物の向こうに歩いて行く。
それを確認して優子さんがオレをつつく。
うん、一度戻った方がいいね。
オレたちは基地から1キロほど離れた民家に侵入する。
みんなの所に戻るのは優子さんの話しを聞いてからでいいだろう。
「優子さん、あいつらがなにを話してたのか教えて」
話してたっていうよりダベってたって感じだったけどね。
優子さんは怖い顔で黙っている。
どうしたんだろう?なにかあの二人の事で悪い話でも聞いたのだろうか?
オレの暗い表情に気付いた優子さんが慌てて説明してくれる。
あの二人はマスターたちの事はなにも言ってなかった。
良かった。ライフルを持ってたから、もしかしてと思ったんだ。
あれって○○式小銃とかいうやつだよね。たぶん。
男たちは女性の事でかなり卑猥な話しをしていたそうだ。
具合がどうとか後ろの穴がどうとか・・・
まぁそれはいい。いや、良くないけど。
会話の中でここに来てラッキーだったとか言ってたらしいので、やはり自衛隊員じゃないのだろう。
「それで下っ端はツラいから早く獲物を捕まえたいとか言ってたの」
獲物に下っ端か。
この会話から推察できる事はあそこには女性がいて、ある程度組織化された集団って事かな。
そして少なくとも下っ端は本職の自衛隊員じゃないって事か。
おそらく獲物を捕まえ上位者に貢ぐ事で、組織内での立場が上がっていくのだろう。
その獲物ってのが気になるな。
内部に女性がいることから女性なんじゃないだろうか?
生き残っている女性を探しだし捕らえ基地に連れていく。
そして性処理に使ったりしているのだろう。
おそらく、食事などの雑用もさせているのだろう。
ふむ、まんま山賊の活動だな。
問題はあそこにマスターたちが要るのかどうかだ。
女性たちは救ってあげたいが、まずはあの二人の事が知りたい。
あいつらが基地に要る以上、マスターたちと無関係とは思えない。
う~ん、どうしよう?
一度、報告に戻るべきかな?
でも、二人の情報はなにも無いんだよなぁ。
このまま偵察を続けると発見される危険性が高まるのは確実だ。
やつらが持っていた小銃が危ない。
あれって軍用のアサルトライフルってやつだよね。
あんなのをフルオートで撃ちまくられたら、いくらなんでも死んでしまう。
男なら素手でこいと言いたいが通用しないよなぁ。
オレが悩んでいると不意に優子さんがオレの腕を掴んだ。
優子さんは厳しい表情で耳を澄ましている。
やつらか?
オレは優子さんの先導で民家から静かに出る。
そのまま移動するが、優子さんが腕を立て拳を握る
動くなのハンドサインだ。
近いのかな?
そのままじっと息を潜めていると話し声が聞こえてきた。
「ここらにはもう食いもんなんてないぜ」
「家の中を探せばまだ少しぐらいは残ってるかもしれないだろ」
声と足音からして2名のようだ。
どうやら食べる物を探しに来たらしい。
さすがに食事が自己負担とは思えないのでサボって探しに来ているのだろうか?
軍隊などで最小単位の二人一組ツーマンセルで動いているというより一人でサボるのが怖かったのだろう。
だとすると相手組織の食料事情は悪く統制は低いんじゃないだろうか?
オレたちは物陰に隠れて二人の様子を窺う。
鉈のような物は持っているが、少なくとも小銃は持っていない。
二人はオレたちが居た家の隣に割れた窓から入っていく。
今の内に移動しようとして、ふと思う。
これってチャンスなんじゃないかな?
援護もなにもなく、敵が二人だけで目と鼻の先にいる。
こいつらを捕まえれば内部の情報が分かる。
もちろん危険はあるが、ノーリスクハイリターンは不可能だ。
今ならローリスクハイリターンぐらいにはなるかもしれない。
オレは優子さんに二人、人質とハンドサインを送る。
捕まえるなんてハンドサインは習ってないんだよね。
ってか、そんなハンドサインあるのかな?
優子さんはオレのハンドサインで分かってくれたようだ。
少し悩んでOKサインをする。
オレたちはやつらが出てくるのを家の陰で待ち伏せする。
優子さんが静かに弓を引き絞る。
オレは槍を構える。
ここからなら玄関も窓もカバーできる。
どちらかが生きていれば情報は取れる。
そしてやつらが出てきた。
優子さんが放った矢が先頭の男の腹を射抜く。
オレが突き出した槍が後ろの男の頭を貫く。
チッ加減を間違えた。槍を振るスペースがなかったので突いたのだが予想以上に力が入ってしまった。
でも、一人は生きてるのでいいか。
オレは射抜かれてポカンと自分の腹を見ている男の首を素早く掴む。
悲鳴を上げられるとやっかいだ。
そして、もう一度家の中に戻す。
結論から言えば、やはりあの基地に二人は捕らえられている。
どうやら組織のリーダーは、二人の知識と戦闘能力に目を付けたようだ。
あの二人は襲撃された時に弓と槍で10人以上を倒したらしい。
相手は小銃を持っていたのにすごいね。
しかし多勢に無勢で結局、最後は投降したそうだ。
投降した二人を殺そうとするメンバーをリーダーが押し止め二人を勧誘した。
そして、二人はその勧誘にのったみたいだ。
もちろん生き延びる為の方便だろう。
リーダーもそれを疑い、現在二人は監禁されている。
監視され自由は無いが無事ではある。
良かった。いい情報を教えてくれた彼の死体をお友だちと一緒に家の中に隠しておく。
一度、みんなの所に戻って救出作戦を相談しよう。




