移住編1
○オレたちは探索の範囲を大幅に拡大する事にした。
理由は単独や少数で生存している人の保護と協力体制の確立。
そして、さまざまな変異の調査のためだ。
今回、子供を発見した町ではあのでかい奴がいた。
これまでの例に倣い、トロールと呼称する事にした。
これ以外の変異がある可能性は高い。
そのなかにはトロール以上に危険な変異があるかもしれない。
それを調べておくのだ。
「オーガにエルフにドラゴニュート、ゴブリン、ホブゴブリンにトロールかぁ」
すっかり世界がファンタジーになってる。
だれか魔法とか使えないかな?
やはり剣と魔法がファンタジーの鉄則だよね。
ちょっと、調べてみようかな?
村のお姉さんたちの中に魔法使いがいるかもしれない。
「あなた、魔法が使えませんか?」
・・・止めとこう。あまりに頭がイタい質問だ。
変質者扱いされかねない。
オレはケガの為、今回の探索は留守番だ。
今はマスターとさとるさんが1週間の予定で探索に出ている。
ケガの方はさとるさんと大先生の適切な治療のおかげで順調に回復していっている。
ちなみに、一人でアホな事をした罰として優子さんからしばらくのエッチ禁止が言い渡された。
そのダメージが一番でかい。でも、心配させたからしょうがないよね。
なにも言わなかったオレが悪いのだ。
愛想を尽かされなかっただけマシだろう。
トロールとの闘いでオレの血の昂りは少し解消された。
しかし、胸の奥の熱は消えていない。
これも変異の影響なんだろうか?
あの子は今、美咲ちゃんと一緒に大先生のとこでお勉強中だ。
あの子はまだ自分の名前を思い出していない。
あの首をプレゼントしてからうなされる事は無くなったので、これから思い出すだろう。
子供は午前中はお勉強、午後はオレや優子さんにくっついて仕事を手伝い、夜にはオレたちの部屋か美咲ちゃんの部屋で眠る。
村のお姉さんたちにも人気なのだが、本人は照れ臭いようだ。
うん、あれぐらいの年は女の人って照れるんだよね。
ちなみに、あの子の年は9才との自己申告だ。
オレは、午前の見回りを終えて村に戻った。
最近は村のお姉さんのがんばりでオレは少し見回るぐらいになっている。
すごいよね。作物を作り、弓を腕を磨き、罠を仕掛ける。
やっぱり、最後まで生き延びるのは女性だな。
軽く村のお姉さんたちと話して屋敷に戻る。
村の仕事を手伝いたいが片腕では出来ることが少ないし、お姉さんたちに気を使わせるのも悪い。
おとなしく屋敷で優子さんをみて心を癒し、子供の相手でもしよう。
田中さんはすっかり村に馴染み、今は畑の拡張や来年の田植えの準備に大忙しだ。
さとるさんは猪を家畜化する計画をしている。
うまくいけば、食料事情は大幅に改善される。
今でも食っていけてるけど、今後の為に必要になることだ。
これから冬になるとどうなるか分からないしね。
う~ん、平和なのはいいけど、ちょっと退屈だな。贅沢な悩みだよね。
それからしばらく、オレは平和な日々を満喫した。オレだけではなくみんなもだ。
しかし、それから10日経ってもマスターとさとるさんが戻ってこない。
マスターはああ見えて、このメンバーの中で最も戦闘能力が高い人だ。
そして、さとるさんは最も頭がいい人だ。
あの二人ならトロールが相手でも倒せるだろう。
その二人が予定を大幅に過ぎても戻って来ない。
なにかあったんだろうか?
「やっぱりオレが探しに行きますよ。腕もなんとか動くようになったし」
大先生は難しい顔だ。
今、村の代表のお姉さんも一緒にみんなで対応を相談中だ。
大先生は首を振る。
「もしもの話だがあの二人になにかあったんなら村も危険かもしれん。でかいのまで居ないとなるとわしらだけでは村のみんなを守りきれんかもしれんのだ」
今や大先生の補佐役といった感のある田中さんが難しい顔で言う。
あの二人がいないのにオレまで抜けると村の自衛能力は著しく低下してしまう。
しかし、なにかあったんなら早めに救援に行かないとますます危険だ。
そうすると村のみんなが危ないかもしれないし。
う~ん、どうすればいいんだろう?
そのとき、美咲ちゃんがおずおずと手を挙げる。
美咲ちゃんはおとなしいのでこういう場で発言するのは珍しい。
みんなの視線が集まって美咲ちゃんはちょっと顔を赤くしながら発言した。
「あのお話を聞いてて思ったんですけど分断するのが問題なら、みんなで探しに行ったらダメですか?」
ん?みんなで?
「今みんなでえっと20人ですから、バスがあればみんな乗れると思うんですけど」
田中さんが優しく美咲ちゃんに質問する。
「みんなってのは村のみんなもってことかね?」
「はい。お屋敷の人も村の人もみんなです」
田中さんも真剣に美咲ちゃんの提案を考えはじめた。
「近くの町まで行けばバスは見つかりそうだな」
分断するのが問題ならみんなで探しに行けばいいか。
大胆な意見だが、いいかもしれない。
「だめだ。あの二人の為に村の女性たちを危険にさらすことは出来ん」
大先生はそこにこだわっているようだ。
自分の孫であるさとるさんの為にみんなを危険な目に合わせたくないんだろう。
「あの、私たちはみなさんのおかげで今ここで生活することが出来ています。私たちがお役にたつか分かりませんが手伝わせてください」
村の代表のお姉さんが頭を下げる。
これで決まりだった。
それからは具体的な計画の相談をする。
オレと優子さんがバスを探しに行く。
二人で行くのは分乗するためだ。
「なにか危険なことがあったら、女性だけでも逃げてもらいたい」
それが大先生の条件だった。
うん、そうだね。なにかあった時に逃げる手段があるのはいいことだ。
バスが2台あればかなりの荷物も持って行ける。
バスだと今の荒れた道を走るのが大変かもしれないが障害物は力で排除しよう。
オレの腕も動くようになったしね。
まだ、トロールとの闘いから2週間ぐらいなのに腕はかなり回復している。
少しの無茶なら出来るだろう。
オレと優子さんが同時に抜けると村の戦力が一時的に下がるけど少しなら大丈夫だろう。
村のお姉さんたちはたくましいからね。
多分、トロールよりお姉さんたちの方が手強いと思うよ。
村の食料は出来るだけ持って行く。
水は現地調達する事にした。
日本は河川の多い国だし、現在稼働している工場なんてないから、水はかなりきれいだ。
煮沸すれば飲めるだろう。
もちろん弓も持って行くし、出来上がった分のクロスボウも全て持って行く。
オレたちがバスを探してる間にみんなは移動の準備をしてもらう。
さとるさん、マスター、待っててね。
これで何もなかったら、二人ともエライ目に合うだろうなぁ
実はそれもちょっと心配なんだよね、オレは。




