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サバイバル  作者: 伊右衛門


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接触編6

○「いただだ!」

オレが意識を取り戻したのは数日後ではなく、意識を失った直後だった。

しかも、激痛で!

ここまだ外じゃん。

こういうのって数日後に優しく起こされるんじゃないの?

みんなが涙を浮かべた感じで!

想像とちょっと違うよ!これ!


オレの首辺りに優子さんが馬乗りになってる。

いや、それはいいんだ。

素晴らしい景色にいい匂いがするし。

でも、左腕には激痛がはしり右腕はなんか気色悪い感触がする。

頭が優子さんの太ももと膝でがっちり固定されているので、視線だけで確認するとマスターと田中さんが右腕に馬乗りになっている。

するとこの感触は、つまり・・・

「イヤだ。離れてくれ~」

視線を動かし左腕を見ると、大先生とさとるさんがオレの曲がった腕をおもいっきり曲げている。

「痛いからやめて~」

「真人!じっとしなさい!」

優子さんに怒鳴られる。


でも、痛いんだよ。

気がつくと身体中に重さを感じる。

こっちは所々、気持ちいい感触を感じる。

確認すると村のお姉さんたちがオレの身体に乗っている。

うつ伏せで押さえたり馬乗りになっている。

うん、こっちはいい。

優子さんからは感じられない柔らかな弾力を感じる。

もうちょっと、ぎゅっとしてもいいよ。


「真人!じっとしてなさい!」

いや、じっとしてるよ。

もうあんまり痛くないし。

痛みのピークを過ぎたのか。単に痛みにマヒしたのかな?


オレの左腕を大先生とさとるさんが触って確認してる。

「おじいさん、どうです?」

「うむ、きっちりつながったみたいじゃな」

やっぱり、腕を治してくれてたんだ。

さっきまで曲がってた左腕がまっすぐになってる。

めちゃめちゃ痛かったけど、ありがとう。


「皆さん、もう大丈夫です。ご協力ありがとうございます」

さとるさんの言葉で身体に乗ってたお姉さんたちが降りていく。

いや、まだ乗っててもいいんだよ。

いつまでも腕に乗ってないで、マスターは早く降りてくれ。


優子さんがオレの目をにらみつけてる。

「ごめんなさいでした」

仰向けに倒れているオレに覆い被さって優子さんが泣き出した。

なんか、さっきの子供みたいだ。

オレは無事な右腕で優子さんの頭を撫でる。

今日はみんなよく泣く日だなぁ。

うん、原因は全部オレだね。

オレは優子さんを抱き抱え、奴の首を抱き抱えてる子供と屋敷に戻った。



屋敷でオレは優子さんにふんどし一丁の姿にひんむかれた。

これが寝室ならうれしいけど、オレを見ているのはさとるさんと大先生だ。

もちろん、マスターもいるけどね。

オレのケガを調べてくれてるんだけど、

「これ全部、奴の返り血だから大丈夫だよ、オレ」

いや、奴を倒した後、首を持って帰ろうとしたんだけど適当な刃物がなくって首を引きちぎったら、血が吹き出しちゃってね。

「まったく、なにしてたの」

優子さんに叱られながら説明する。


「奴を探して倒して首を持って帰って来た」

簡単に言えばこれだけなんだよね。


もちろんそんな説明でみんなが納得してくれる訳はない。

「今日はお疲れでしょうから詳しい話しは後にしましょう」

さとるさんがオレの腕に添え木をしながら、常識的な提案をしてくれた。

そうだよね。詳しい話しはまた今度にしよう。

じじぃになったら、昔はオレも悪かったって感じで面白おかしく話すから。

「やめた方がいいわよ。うやむやにしてごまかす気満々だから」

ちっ、マスターが居たのを忘れてた。


「それに約2名が納得しないと思うわ」

ん?2名?

一人はこっちを涙目でにらんでる優子さんだろうけど、もう一人は?

マスター?

「あたしも気になるけど当事者がいるでしょ」

奴の首を抱えたまま子供がこっちをじっと見てる。

自分で渡してなんだけど、シュールな光景だな。

持って帰る間に血抜き出来てるのが不幸中の幸いだな。


オレは右手で子供を膝の上に乗せる。

「聞きたいのか?あんまり気持ちいい話じゃないぞ」

子供はオレの目をみてはっきりとうなずいた。

仕方ないな。話すとするか。


あの夜、オレは歩いて村を抜け出した。

車を使わなかったのは音でみんなに気付かれるを防ぐためと、また迷子になるのがイヤだったからだ。

山の中を直線的に移動した方がオレには早い。

食い物が無くなれば、奴はどこかに移動してしまうだろう。

そうなれば、発見するのは不可能に近い。

オレは槍と薫製肉の固まりを掴んで山の中を走った。

薫製肉は後で働いて返します。


以前は周囲を探索しながらだったので数日かかったが、今はあの子が居た町に行くだけだ。

丸一日ほどで、あの川原についた。

オレは周囲を歩き回り、見つけたゴブリンやホブゴブリンを殺しまくった。

ここは奴の縄張りのはずだ。

縄張りはメスとエサを確保するための空間だ。

奴にメスがいるとは思えないのでこうしてエサを奪っていけば現れる。

子供に聞いた奴の体格からして、ネズミなどを食べているとは思えない。

人が居なくなった現在の奴の主食は、ほぼ確実にこいつらだ。

エサを奪われれば縄張りの主として黙っていられないだろう。


オレは殺したゴブリンどもの死体をある場所に積み上げた。

周囲は血と臓物の臭いでむせかえるほどだ。

これなら奴も気づくだろう。

オレは奴が来るのを薫製をかじりながら待った。


しばらくして重い足音を感じた。

気づいてくれて良かったよ。

夜行性だと聞いていたから昼間は現れないのかと心配になり始めてたんだ。

確かにオレよりでかくて大きいな。

奴は道路に立って校庭に居るオレを睨んでいる。

そう、ここは小学校の校庭だ。


あの子が通っていたのかもしれないが、それはあまり関係ない。

オレが必要としたのは、開けた空間だ。

ここなら周囲を高いフェンスに囲まれ、障害物もない。

オレと奴にはお誂え向けの場所だろう。

奴ははっきりと怒っている。

自分の縄張りを荒らしたオレが許せないのだろう。


別にオレ個人が奴に対して強い恨みがあるわけじゃない。

実際、こいつが居たからあの子は生き残れた側面もある。

奴が周辺のゴブリンやホブゴブリンを喰っていたからここらのゴブリンの密度が下がったのだろう。

だから、あの子は一人で生き延びたのだ。

じゃないと、子供が一人で生き残るのはいくらなんでも不可能だっただろう。

もちろん、あの子の努力と生きる才能があればだが。

奴はただ喰っていただけだろうしね。

そもそも、ここに来たのは半分以上オレの都合だ。

あの子から奴の話を聞いた時に強い興味を持った。

オレよりでかくて大きい相手は初めてだ。

あの時はあの子の安全が最優先だったので探しもしなかったが、実は目を付けていたんだ。


おまえをオレの獲物だ。


おまえならオレの血の昂りを抑えてくれるかもしれない。

おまえはあの子の親を殺して食った。

間違いなく倒していい相手だ。

だから、あの子の話を聞いた時に我慢出来なくなったんだ。


「ゴォォゥ」

奴が唸り声を上げながらオレに突進してくる。

「がぁぁ」

オレも唸りながら脇に抱えた槍を右から左に振る。

おおざっぱにいうと奴の身長は3メートル、体重は200キロを越えるだろう。

体格は筋肉質というより肥満体に近い。

空に逃げる事は出来ない。

オレが振るった槍が前傾して突っ込んでくる奴の左肩辺りに当たる。

奴は姿勢を崩し勢いが無くなったが、そのままオレに掴みかかってくる。

明らかに腕の方が脚より長い。

人間にはありえない体型だ。

「一時停止って書いてんだろが!」

オレの槍はその辺の道路標識をさとるさんが加工してくれた物だ。

車が衝突しても折れる事はない。

そのはずなのだが、ちょっと曲がってしまった。

奴の力というよりオレが降った力と奴の突進の衝撃だろう。

掴みかかってくる奴を槍を横手にして押さえる。

奴の爪は虎や熊のように鋭く尖っているわけではない。

肉を切り裂かれる事はないだろうが、奴が全力で握るとどれぐらいの力なのか不明だ。

「くそが!」

槍を奴の肉体の横に差し込み回転して奴をいなす。

「ふん!」

体勢が崩れた奴の頭に槍を降り下ろす。

奴の頭に命中したが降った距離が短く、威力が充分にでない。

それでも奴の頭部の槍が当たった箇所が少しへこむ。

しかし脳にダメージが入る程では無かったのだろう。

奴が腕を薙ぎ払う。

槍を縦に構え防ぐが、衝撃でオレの肉体がずれる。

踏ん張っていたので靴が引きちぎれてしまう。

「ようやく見つけたんだぞ!」

オレの足に合う靴は珍しい。

腹立ちまぎれに奴の顔面を殴りつける。

奴の口から歯というより牙が折れて飛び出す。

ふらついた奴の腕を取って肘に拳を降り下ろす。

にぶい音がして奴の内碗から骨が付き出した。

その時、奴が拳を振るった。

とっさに肩を上げ顎をかばう。

奴の拳はオレの左腕に叩きつけられた。

体内ににぶい音が走る。

オレの左の上腕部が曲がっている。

チッ、奴の左肘とオレの上腕の交換になってしまった。

闘いの興奮で痛みは感じないが、完全に折れたな、これ。

オレは奴の目を怒りを込めて睨む。

奴はオレの目を憎しみを込めて睨む。

「ゴォォ」

奴が唸りながらオレに喰らいついてくる。

右手に持った槍で受けるが片手だと押し込まれる。

「口が臭えんだよ!」

筋肉で無理矢理、左手を動かし奴の喰らいついた槍を押し込む。

奴が右腕をめちゃくちゃに振り回すが無視して押し込み続ける。

左腕がにぶい悲鳴をあげるがそれも無視してさらに奴を押し込む。

オレの顔面を殴り滑った奴の右腕にオレが喰らいつく。

顎にも全力で力を込める。

ぞぶりとオレの歯が奴の右腕の肉を骨ごと喰いちぎる。

両腕が使えない奴は全体重をかけ、オレの頭に喰らいつこうとする。

奴の口を押し止める槍が徐々に曲がり始める。

それでもオレは槍を全力で押し込む。


ガクン!

衝撃とともににぶい音が校庭に鳴り響いた。


気がつくと、奴の首は90度以上後ろにひん曲がっている。

オレの力と奴の体重が集中した奴の首が耐えきれずにへし折れたのだ。

奴の目から光が徐々に失われていく。

オレはその目を睨み続けた。

奴の肉体が少しずつ下がっていく。

そして、完全に校庭に横たわった。


それを確認してオレも校庭に座りこむ。

曲がってしまった槍を投げ捨てる。

しばらくそのまま荒い呼吸を整える。



まぁ、こんな感じだったんだが、一番大変だったのは実はこの後なんだよね。


本当は奴の死体をまるごと持って帰るつもりだったんだ。予定では。

しかし、オレは左腕が使えない。しかも、時間が経つにつれ痛くなってきた。

奴を乗せれる車を探しに行くのも面倒くさい。


オレが倒したって言えばあの子は信じてくれると思うんだけど、こういうのは実感が必要だろう。

奴が間違いなく、混じりっけなし、純粋に100%倒されたって実感が。

悩んだ末にオレは奴の首だけを持って帰ることにした。


困ったのはそれからだ。

オレは槍しか持って来ていない。

しかも、オレの槍はむしろ鈍器に近く鋭い刃なんてない。

急いで来たからいつもなら持ってる斧も忘れた。

学校の工作室を探したけどのこぎりぐらいしか無い。


とりあえず、死ねば皆仏な感じがするので申し訳ないけど、オレはのこぎりで奴の首を落とそうとした。

でも、頸骨が固くてのこぎりがボロボロになってしまった。

仕方なく、オレは奴の首を右脇に抱え足を奴の両肩について、思いっきり、引っ張った。

そりゃもう、思いっきり。ここまできたら意地だ。

そして、スポーンって音がしてオレは後ろにひっくり返ってしまった。

そのオレの上に奴の臓物が降り注いだ。

驚いて抱えてた首を見ると、なんか長いのがついてる。

どうも脊椎ごと引っこ抜けたみたい。

ついでにくっついてた臓物がオレに降り注いだみたいなんだよね。

オレは全身に浴びた奴の臓物の臭いにうんざりしながら、奴の脊椎をもぎ取った。


「そうやって苦労して持って帰った首だから大事にしてくれ」

オレは膝の上に座る子供に注意する。

できたら家宝にして欲しいぐらいだ。

あつかましいのでそこまでは要求しないけどね。


オレの話を聞き終わった一同の表情がなんだか微妙だ。

なんだよ?ちゃんと話したよ。

「じゃあ。全身血塗れになっていたのはそいつの臓物なの?」

そうだよ。

「オレは腕が折れたけど、怪我はそれだけ。殴られたけど鼻血も出てない」

オレ、大丈夫って言ったよね。

「なんで倒れたの?」

ん?

「この四日間寝てないのと腹が減ったから」

行きも帰りも急いでたし、持っていった薫製もヌートリアの肉だったんだよね。

ヌートリア、うまいんだけど小さいんだよ。

「……」

あれ?みんな、どうしたの?


いきなり、優子さんに後頭部を殴られた。

なんで?オレ、槍も靴もボロボロになるほどがんばったよ。

「オオバカ!」

マスターの一言が胸をえぐる。






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