マンション編4
オレが軽くパニックに陥っている間に、相手もオレを見て言葉を失っているのに気がついた。
いや相手も覚悟していたんだろうけど、扉を開けてオレが居たら、やっぱり驚くだろう。
少なくとも、オレは驚くね!
扉を開けたら、ほとんど、クマみたいのがいたんだもん。
いや、本州にいるのは月ノ輪熊だから、今のオレより小さいかもしれない。
「あっあの、私、北村優子です」
ハッ、なんか違う世界に行ってしまった。
相手の声で、ようやく我に返った。
「あっああ、はい。はじめまして。オレは立花真人です」
落ち着け、オレ!
相手は女一人でがんばってきたんだ。
ここでオレが動揺してどうする。
それからオレと北村さんは、これまでのことをお互いに話し合った。
こんな状況では危険かもしれないけど、生存者がいたことにオレも北村さんも軽い興奮状態になっていたんだと思う。
北村さんは看護師さんをしているとの事で、ゴブリンパニックの時も病院にいたそうだ。
だが、増え続けるゴブリン患者に病院は、ついにこれ以上の活動は不可能と判断して、北村さんたちを自宅待機にしたそうだ。
やむを得ない判断だと思う。
そもそも、ゴブリン患者を病院に連れて行っても治療は出来ないので拘束しておくぐらいしか出来ないだろうし。
北村さんはそれ以降この部屋に居たのだが、ある日オレと同じように体の節々が痛くなった。
看護師の北村さんは冷静に自分がゴブリン化するのを受け入れたそうだ。
一般人よりウイルスに接触していたので、仕方ないと思ったそうだ。
北村さん、すごいなぁ。
しばらくしてオレと同じように全身に激痛が走り、気が付くと耳が尖っていたそうだ。
だが、それ以外の変異は現在確認できないらしい。
話の途中に、
「あの失礼ですが、おいくつなんですか?」
と質問してみたら、
「もうすぐ、30歳になるおばさん予備軍です」
と、正確な年齢は教えてくれなかった。
セクハラな意味ではなく確認したかっただけなんだが。
しかし、この回答から北村さんは24歳のオレより少しお姉さんになる。
北村さんからも、
「立花さんは、おいくつなんですか?」
と、質問されたが、
「もうすぐ、25歳になります」
と、お返しに答えたら、北村さんがちょっとむくれていた。
少し年上だけどなんかかわいい。
「やっぱり感染に年齢や性別は関係無いんですよね」
「そうですね。私と同じ歳の女性や立花さんと同じ歳の男性も感染してましたし、関係は無いと思います」
やはりゴブリン化するのに年齢や性別は関係ないようだ。もしかしたらと淡い期待をしたのだが・・・現実は甘くないよね。
オレと北村さんがゴブリン以外に変異していることにも共通点がないように感じる。
オレと北村さんの共通点は同じマンションに住んでいるぐらいだし、それだけでゴブリン化が防げるとは思えない。
考えることは多いけど、まずはこの階の安全確認を行おう。
北村さんの観察では、隣の部屋には気配がなかったとの事。
しかし、その隣には誰かがいる気配があったらしい。
過去形なのはこの数日は気配がしないからだ。
さらにその隣は気配がしているそうだ!
北村さん異様に耳がいい感じだけど、それも肉体変異以降なのだそうだ。
ちなみにオレが6階に居た事にも気がついていたらしい。
しかし安全が確信出来なかったので、接触はしなかったそうだ。
当然の判断だろう。
オレが604号室から来たと名乗ったので北村さんは、出てきてくれたのだ。
とりあえず気配がする一番奥の部屋の確認を行おう。
だがその前に、北村さんにはオレの部屋で待ってもらう事にする。
なんせ、この部屋の鍵は開ける時に壊してしまった。
すいません。
まさかこんなに近くに生存者がいるとは思ってなかったので。
北村さんを守りながらとりあえず6階の自室に戻る。オレは再度、4階に戻り他の部屋を確認したら戻ってくる。
その際はチャイムを鳴らして名乗るので、安全を確認してからドアを開けるように簡単なルールを決めておく。
これだけでもゴブリン対策になるだろう。
北村さんをオレの部屋のダイニングに連れて行き4階に戻る。
北村さんがオレの寝室に入らないと信じておく。
大丈夫だよね。
寝室にはいろいろ女性に見せられないモノが…
いきなり生存者、しかも女性を発見すると思ってなかったから寝室は、かなりひどい状態なのだ。
オスが一人部屋にこもったらナニをするかなんてたかが知れている。
気を取り直して、北村さんが気配がすると言っていた部屋の前の立つ。
北村さんを信じてチャイムは鳴らさない。
耳をドアに付け、内部の様子を伺う。
確かに何かが動いている。
部屋の中を歩き回っているようだ。
これはゴブリンなのではないだろうか?
生存者ならゴブリンなどに見つからないように注意すると思う。
覚悟を決めてドアを開けないといけないようだ。
オレは一気にドアノブをひねりドアを開ける。
ダイニングに続く扉の前にいた!
ゴブリンだ!
ゴブリンがいると思っていたのでそれほど動揺はしなかった。
オレは驚くゴブリンに掴みかかる。
圧倒的な体格差で、ゴブリンを床に押さえつける。
ゴブリンが暴れるが、まるで小学生が暴れる程度の抵抗しか感じない。
オレは暴れるゴブリンに
「言葉は解るか?自分の名前を名乗れるか?」
と質問するがゴブリンは暴れるばかりで答えない。
急にオレに押さえつけられてパニック状態なのかも知れないので、何度か同じ質問をするがゴブリンは唸りながら暴れるばかりで、全く言葉を理解していないようだ。
このまま暴れられると他のゴブリンを呼び寄せてしまうかも知れない。
オレは覚悟を決めてゴブリンの首を握りしめ力を込める。
すると軽い音がしてあっさりとゴブリンの首が砕ける。
枯れ木を折ったような感じだ。あまりに軽い手応えにオレは驚く。
痙攣していたゴブリンはすぐに動きを止めた。
命をそれも元々は人間だった命を奪ったのにオレには、あまり動揺がない。
ん~、オレはゴブリンをゴブリン、つまり、モンスターとして認識しているようだ。
冷酷な感じがするが今後のことを考えると、これはこれで都合がいいように感じる。
・・・本当に冷酷だな、オレ。
これが、元々のオレの感覚なのか、肉体変異の影響なのかはわからない。
まぁ考えるのは後でいいか。
とりあえず部屋の中を観察する。
部屋はまさにゴブリンの汚部屋だった。
冷蔵庫の中の物や食べれる物は、ことごとく食われている。
・・・バックって食えるんだ。
さらに、部屋の片隅で異臭を放つのはゴブリンの糞だ。
どうやらゴブリンはトイレを理解できないらしい。
そこまで知能が低下するのに驚く。
ん~、オレゴブリンにならなくて良かった。
室内を軽く物色するが使えそうな物は無いみたいだ。
部屋を出る前にゴブリンの死体を蹴ってひっくり返した。
うん、動かない。完全に死んでる。
あれ、このゴブリン胸があるような?
ひっくり返して気が付いた。
ってことは4階に住んでたもう一人の女性の成れの果てか。
生前の顔がわからんけど。
一応ゴブリンが下半身に履いているボロ布を剥いでみる。
ん、メスだ。なんていうか全く興奮しない。
当たり前かも知れないけど元々は人間だったはずなのに、まるで猿かなにかのを見ているみたいな気分だ。
こう、本能的に別種族と感じる。
誤魔化しだが軽く手を合わせておく。
とりあえず部屋を出よう。




