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崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


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接触編5

○風呂から出たオレは子供を優子さんに預ける。


風呂に入る時にボロボロだった服を破いてしまったので優子さんに着替えを用意してもらう。

バスタオルで包んだ子供を受け取った優子さんがオレたちの部屋に向かう途中、

「きれいになったね。髪もあとで切ったげるね」

子供に頬擦りしながら話しかける。


あっ、言うの忘れてた。

オレは慌てて優子さんを追いかける。

「その子ショックで名前を忘れてるんだ。聞かないでやって」

そっと優子さんに耳打ちする。

優子さんは一瞬泣きそうな顔になったけど、力強く頷いてくれた。


そして、じとっとした目でオレを見る。

ん?なに?

「真人は裸で出て来ないで」

おう、慌ててたからタオルも持って来てない。


まぁ自宅みたいなもんだし、いっか。

とりあえず、服を着替えに風呂場に戻る。

その途中、マスターに出くわした。

「いや~ん。真人ちゃんたらご立派ねぇ」

オレの下半身を見ながら、アホな事を言うマスターの手を掴む。

「えっ浮気はダメよ」

さらにアホな発言をするマスターに心の声であの子の事を伝える。

マスター相手だとこれが一番早い。

マスターはオレの心の声を聞いて、真剣な表情になる。

「分かったわ。みんなにあの子の名前を聞かないように言っとく。

それとさとるちゃんと大先生に記憶の事も相談しとくわ。安心して」

良かった。これで大丈夫だろう。


その時、屋敷に来ていた村のお姉さんたち二人に見られた。

あの子が風呂から出るのを待っててくれたんだろう。

二人がハッとしたように顔を逸らす。

え~っと、今のオレは全裸でマスターの手を掴み、真剣な顔で見つめ合ってる。

・・・誤解しないでね。そうじゃないんだよ。違うからね。

オレが弁解する前に二人がパタパタと早足で去っていく。

・・・マスター、こっちの誤解も解いておいてね。

「それは無理ね」

なんでだよ!


食堂であの子が来るのをみんなで待っている。

オレたちを見た二人が赤い顔でチラチラこっちを見てるのが気になるなぁ。

マスター、ちゃんと誤解解いてくれたよね。

オレの隣のマスターが笑顔でサムズアップしてる。

大丈夫か?その笑顔が怖い。


そのことはひとまず置いといて、気になることを大先生とさとるさんに相談する。

「あの子が名前を忘れたのってショックが原因なんでしょうか?」

「まだ、ちゃんと診察した訳じゃないからなんとも言えんが、おそらくそうだろう。

子供が一人で生きておったんだ、日々の事が精一杯で自分の名前など思い出す暇もなかっただろうしな」

大先生が腕組みしながら答えてくれる。

「これから思い出しますか?」

「それは分かりませんが、周囲の期待はプレッシャーやストレスになって逆効果です。

真人くんが無理に聞き出さずにそっとしたのは正しい対応でしたよ」

さとるさんが誉めてくれる。

気がつくとみんながこっちの会話に注目してる。

中には涙目になってる人もいる。

オレの隣にも約1名いる。

「子供一人でよくがんばったわね、あの子」

鼻水出てるよ、マスター。


あの子はまだ2階で着替えてる。

美咲ちゃんがいないのは、あの子に服を選んであげてるからだろう。

ここのメンバーの中で、あの子に一番体型が近いのは美咲ちゃんだ。

仲良くなってくれればいいなぁ。


しばらくしてあの子と優子さんたちが降りてきた。

ボサボサだった髪がさっぱりしてる。

時間がかかったのは着替えだけじゃなく髪も切ってたからか。

ありがとう、優子さん。

それに服をあげてくれて、ありがとう。美咲ちゃん。


「さっぱりしたな」

オレのとこに走り寄ってきた子供の頭を撫でる。

子供が照れ臭そうに笑う。

それを見て、みんな微笑んでいる。


「よし、それじゃメシにするか」

オレの隣に子供を座らせる。まだ、みんなとは初対面に近い。

オレの側の方がいいだろう。

さっきまで隣にいたマスターは押し退ける。

今日はこの子の歓迎会でもあるので、村の料理自慢のお姉さんがごはんを作ってくれた。

「おじちゃんの島で採れたお魚もあるから食べてみてくれ」

田中さんも笑顔で子供に話しかける。

みんなもそれぞれ、食事を始める。

さすがに全員が座れないので、半分立食パーティーみたいな感じだ。

行った事ないから分からないけどね。

押し退けたマスターも当然立ってる。

ちょっと悪かったかな?まぁ、マスターだからいっか。


みんな子供にどんどん食事を持ってきて、一言二言話してる。

えらいねとかがんばったね、もう大丈夫とか簡単な言葉だけど温かい言葉だ。

もっとも子供の方は食べるのに夢中であんま聞いてないみたいだけどね。


この村にはちょっとした不文律がある。

それは過去の事を聞かないって事だ。

ここにいる村の女性たちはさらわれて来た人たちだ。

恋人がいた人。

結婚してた人。

子供がいた人もいるかもしれない。

でも、全員がここに住んでいる。

つまり、そういう事なんだろう。

だから、相手が話すまではなにも聞かない。

みんな、この子になにか特別な想いがあるかもしれない。

子供が一人で生き、無事ここに来た。

それはすごい事なんだ。


「おまえは幸せになるよ。間違いない」

オレは笑いながら、子供の頭をグリグリ撫でる。

いきなり撫でられた子供は訳が分からなかっただろうが、口いっぱいに食べ物を頬張って笑っている。


「そのでかい奴が気になるな」

田中さんが唸るように呟く。


満腹になった子供はそのまま眠りはじめてしまったので、2階に優子さんが連れて行った。

村のみんなも帰っていった。何人かの少し寂しそうな笑顔がちょっと気になった。

優子さんは子供が吐瀉すると危ないので、そのまま見てるそうだ。

あいつ、目一杯食ってたからなぁ。


「聞いとるか、でかいの」

田中さんににらまれる。

どうも、あの子に気を取られてしまうな。

「あの子の話だと1体だけみたいです。こことはそれなりに距離があるんで大丈夫かと思うんですが」

ここからは責任ある大人の時間だ。気合いを入れないと。

「うむ、しかし食べるもんが無くなったら移動するんじゃないか?」

そうなんだよね。

ある程度の縄張りはあると思うけど、その中に食べ物が無くなれば食べる物を探して徘徊するだろう。

問題はどこに向かうかだ。

オレたちは腕組みをして悩む。

「ひとまず、夜行性みたいだから夜間の外出は禁止ね。それにあたしたちで夜間も見張りをしましょう」

「オレたちが見張りするのはいいけど、トイレはどうすんの?」

下水施設の稼働が見込めない現在、トイレは外になってる。

溜まったモノはさとるさん考案、オレとマスター作の沈殿池に廃棄するのだ。

さとるさんは廃棄物を最終的には肥料として利用するつもりらしい。すごいね。

ちなみにこの施設も田中さんが島に持ち帰る知恵のひとつだ。

「う~ん、室内にバケツかなにかを持ち込んでそこにするしかないわね。

それで朝に捨てに行くのはどう?」

マスターのアイデアにさとるさんが待ったをかける。

「排泄物は伝染病の温床となります。それは危険です」

この状況で伝染病なんて危なすぎるな。

「しばらく夜間はトイレを使ってもらいましょう。タンクに水を入れておけば詰まる事はないでしょう」

「とりあえずトイレの問題はそれでいいとして、そのでかい奴は本当に1体だけなのか?」

子供が見たのは1体だけみたいだけど?

「あの子を疑っとるわけじゃない。そういう変異をしたのが1体だけかって事だ。

大先生、どう思います?」

田中さんの質問に大先生は難しい顔だ。

「1体だけじゃないじゃろう。変異の可能性は低いようだが1体だけの特別変異の可能性の方が低いじゃろうな」

そんなのが何体もいるのか。いやな世の中になったもんだ。


「村のみなさんの武装も強化しましょう」

武装の強化?でも銃は無理だよね。

さとるさん、どうするんだろう?

「個人にはクロスボウを作って配布しましょう。そして、村の防備にはより大型のバリスタを設置します」

要は弓を強化する感じか。

「でも、扱いが難しいんじゃないですか?」

「引くのが大変なので狩りには使えないでしょうね」

発射状態で置いとくのか。

「相手の生命力が分からないので、念のために毒矢を配布します」

「毒矢って毒はどうするんです?」

そんな強力な毒ってどこにあるの?

「以前、森でトリカブトを見つけました。それを使用します」

そういえば、さとるさん見つけてたな。

「危ないんじゃない?」

「矢は赤く塗るなどしてはっきり区別できるようにします」

「それでも誤って傷つくかもしれんから、矢じりはビニールかラップで巻いとった方がええな。そうすりゃ刺さる時には破けて毒が効くじゃろう」

「クロスボウとバリスタ、どっちから作るの?」

「個人が優先です。クロスボウからの方がいいでしょう」

「うむ。いざとなれば、村や畑は捨てて逃げてもええからな」

「ええ。人がいれば何度でも作れますから」

「それじゃ、明日からクロスボウ作りね」

「僕が設計図をひきますから、何パターンか試作して最適な物を量産しましょう」

「それじゃ、わしは森でトリカブトを採ってこよう。島でも生えとったから見分けはつく」

「あたしは材料を集めるわ」

う~ん、すごいな。どんどん決まっていく。

田中さんも積極的に協力してくれるみたいだ。

こんな事態だから、島に帰ってもいいぐらいなのに。

オレが感心して眺めていると、2階から優子さんが降りてきた。


子供は大丈夫なのかな?

ん?優子さん、泣いてない?

「どうしたの?」

もし、あいつがイタズラでもしたんならオレが怒るよ。

それが兄の責任だしね。

まぁ、イタズラなんてしないだろうけど。


「あの子、寝言でご両親の事・・・」

泣いている優子さんからゆっくり事情を聞く。


優子さんが聞いた寝言から、あの子の両親は話題になっているでかい奴から子供をかばって殺されたらしい。

そして、おそらく喰われたようだ・・・


「あの子それを見たみたいなの」

泣いている優子さんを抱き締める。

そうか。それがショックで名前を忘れたのか。

子供の名前を一番呼ぶのは親だろうから・・・


みんな、しんみりしてる。

当たり前だよな。

しばらくして泣き止んだ優子さんが、フンッと鼻息荒く、気合いを入れる。

「一番、がんばったのはあの子だもんね。私もがんばる」

うん。それでこそオレの優子さんだ。


優子さんの言葉でみんなも気合いが入ったみたいだ。

「僕たちも精一杯がんばりましょう」

みんなで頷いて、今夜は解散する。

明日から大変だ。

みんなはね。


オレはその日の夜に、こっそり屋敷を抜け出した。



それから四日後、オレは村に戻って来た。

突然消え、突然戻ったオレに村はちょっとした騒ぎになった。

まぁ、騒ぎになってるのはそれだけじゃないだろうけど。


オレはそのまま屋敷に向かう。

騒ぎを聞き付け優子さんたちが走って来るが、オレの姿に立ちすくむ。


うん。結構、ボロボロになってしまった。

全身血だらけになったし、左腕は変な方向に曲がってしまった。

でも、まぁいい気分だ。


子供の姿を見つけ、オレは右手に持ったみやげを見せる。

「おまえの父ちゃんと母ちゃんの仇、取ったぞ」

オレのみやげは引きちぎってきた、でかい奴の首だ。


オレは奴の首を子供に柔らかく投げる。

首だけだけど、結構重いからね。

首を受け取った子供はぽかんとしてる。

ん?こいつだよな?

まさか、間違ったか?

子供はオレと生首を交互に見てる。

そして、奴の首を抱えて、大声で泣き出した。


良かった。間違いじゃないみたいだ。

これで間違ってたら、いくらなんでも恥ずかしい。

オレは子供の泣き声を聞きながら、仰向けに倒れた。

こいつが泣くのってはじめて見たな。


そんな事を考えながら、オレは意識を失った。

仰向けに見た青空が、えらく綺麗だった。




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