接触編4
○オレと子供は一路、村を目指して出発した。
それから、3時間ほど走った。
うん、走ったんだよ。
オレは今、車外に出て地図を確認している。
ずっと、車内にいると狭くてツラい。
それだけだ。
念のために地図で現在位置を確認してるだけだ。
「・・・迷子?」
子供が車の窓から顔をだしてオレに話しかける。
「迷子じゃない。確認してるだけだ」
えっと、あの山の向こうがさっき来た方だから、今居るのはここだよな。
太陽があっちで地図の上が北だから、村はあの山の向こうかその向こうだよな。
う~む、最近、運転は優子さんかマスターに任せっきりだったからなぁ。
しかも、ここらには来たことがない。
それにパニック以降、木々が元気で道路標識を見逃した。
自分の足で歩いてると大体分かるんだが・・・
たぶん、向こうに行けばいいはずだ。たぶん・・・
これって遭難じゃないよね?
「よし、行くぞ」
車に乗り込んで確認した方へ向かう。
「大丈夫?」
子供もだいぶ言葉が滑らかになってきた。
良かった。良かった。
「大丈夫?」
しかも、人を気遣う優しい心の持ち主のようだ。
感心。感心。
「大丈夫?」
・・・・・・
「大丈夫?」
結局、大丈夫じゃなかった。
2回ほどガソリンを継ぎ足し、さんざん迷って、ようやく見覚えのある風景に出くわしたのは夜になってからだった。
夜にライトを点けて走行するのは危険だ。
ゴブリンやホブゴブリンを呼び寄せるし、子供が見たでかいのがこの辺にもいるかもしれない。
今日はここらで野営しよう。
別に夜、走ってまた迷うのが怖かった訳ではない。
米は今朝、全部使ったので、晩めしは茹でたじゃがいもと薫製の猪肉だ。
「ゆっくり噛んで食うんだぞ。おまえの胃は弱ってるはずだからな」
今日は適当に見つけた倉庫で休む事にする。
室内でたき火をするのは危険だが、子供がいるので野外の方が危険だ。
天井を槍で突いて穴をいくつか開けたので換気は大丈夫だと思う。
「いただきます」
子供はちゃんといただきますをしてから、茹でたいもを頬張った。
「明日の昼には村につくからな」
道が繋がってなかったら、もう車を捨てて子供を担いで歩く。
オレの体力ならこいつぐらい軽いもんだ。
そっちのが早いかもしれない。
しばらく、二人でもくもくといもを食う。
「そういえばおまえ名前は?」
これまでおまえで通じたので聞くの忘れてた。
オレの質問に子供が首を捻る。
ん?どうしたんだ?
「名前だよ。オレは真人。おまえは?」
やっぱり、子供は首を捻っているばかりで答えない。
「ん~、忘れた」
やっと答えたが忘れた?
「忘れたのか?自分の名前だぞ?」
「うん、忘れた」
記憶喪失とかじゃないよな。
ショックで忘れたのか?
あんまり聞くとショックがぶり返すかもしれない。
落ち着いたら思い出すのだろうか?
「んじゃ、今はおまえでいいけど思い出したら教えてくれ」
「うん」
オレから薫製の肉を受け取りながらうなずく。
まぁ、元気そうだし食欲もある。
思い出すのを待った方がいいだろう。
帰ったら大先生とさとるさんに相談しよう。
子供は車の中で休ませ、オレは車外で休む。
この辺のゴブリンは駆除しているので少ないはずだが、警戒はしておく。
夜中、子供の呻き声で目が覚めた。
夢を見ているのだろうか。
窓から腕を入れ、子供の頭を撫でてみる。
人の体温を感じて安心したのか、しばらくすると静かに眠りはじめた。
なんか、よほどショックな事があったのか?
まぁ、これまで一人で生き延びてきたんだ。
ショックな事だらけだっただろう。
村に着けば優子さんや美咲ちゃんも居る。
さとるさんや大先生にマスター、村の女性たちも優しくしてくれるのは間違いない。
そこでゆっくり心が癒えるのを願う。
オレには、それぐらいしか出来ないしなぁ。
子供の頭をそっと撫で続ける。
また、手が黒くなった。
戻ったらまず風呂に入れないとダメだな。
翌日、オレと子供は村にたどり着いた。
地図で確認すると、車で村に帰るにはかなりの大回りが必要だった。
結局、村に近づいたところで車を乗り捨て、子供を肩車して森の中を歩いて突破した。
自分で歩いてると地図がなくても村の位置というか優子さんの居場所が分かるんだけどなぁ。
どうも、さんざん迷ったのはオレが優子さんの居場所に直線的に移動しようとして曲がり角を間違えまくったのが原因らしい。
これも一種の帰巣本能か?
子供には内緒にしとこう。
「あそこがオレたちの村だ」
山の上から村が一望出来る。
お屋敷にすぐ下の数件の民家。そして近くに広がる畑。
その近くの田んぼが黒くなっているのは耕したからか?
村には、さとるさんとマスターの姿が見える。
この時間だと美咲ちゃんは大先生とお勉強中かな?
優子さんはどこだろう?
あっいた!お屋敷のベランダで洗濯物を干してる。
なんか、若奥様みたいだ。
あ~、帰ってきたって感じがする。
いつのまにか、ここがオレの住み処になっているんだなぁ。
オレは肩車している子供に村の事を説明しながら、山を降りていく。
「いいか。村の人たちはみんないい人だ。女の人ばっかだけど、弓を使えるし罠を仕掛けて猪とかを捕ってくれるし、畑でいろいろ作ってる」
村の女性たちもたくましくなったよね。
こいつはどこに住むんだろう?
しばらくはオレのそばに置いておくつもりだが、本人が望むなら村で生活してもいい。
「あとあの大きな家がお屋敷だ。オレや優子さんたちが住んでる」
こうしてみると、お屋敷はやっぱり広いんだなぁ。
オレは村に入る前に大事な事を伝えておく。
「いいか。絶対におばさんって言うなよ。なにがあっても絶対に言うんじゃないぞ」
オレの頭の上で子供がしっかりうなずくのを確認する。
これだけは、しっかり確認しておかないと村にもお屋敷にも連れていけない。
不用意な発言をすると、こいつじゃなくオレが責められる。
それはなんとか回避したい。
充分な準備をしていおけば回避出来る問題だ。
何事も準備が大事なのだ。
「あと、一人少し変わった人がいるけどいい人だから怖がらなくていい」
マスターは子供にはインパクトが強いかもしれない。
「それと、さとるさんと大先生はすごく頭が良くて何でも知ってるし、肉体はドラゴンみたいでかっこいいぞ」
子供ならさとるさんたちの事は怖がらないんじゃないかな?
むしろ、かっこいいからなつくかも?
「お屋敷にいるすごくきれいで優しいお姉さんが優子さんだ」
たまに怖いけど、それは言わない方がいいだろう。
「お屋敷には美咲ちゃんっておまえのお姉ちゃんがいるぞ」
オレはこいつのお兄ちゃんだから、美咲ちゃんとこいつも兄弟みたいなもんだよね。
村に近づくと、子供がじたばたしだした。
「ん?どうしたんだ?おしっこか?」
肩車中だからそこでするのは勘弁してね。
「降りる」
そっか。初対面で肩車は恥ずかしいよな。
子供はプライドが高いもんなぁ。
オレと子供は村に近づいていく。
子供の足に合わせてゆっくり進む。
村が見えてくると数人がオレの姿に気づいた。
子供はオレの後ろから隠れるように歩いている。
はじめて会う人たちだから、人見知りをしているようだ。
まぁ、これまで一人だったんだから当たり前か。
オレは手で騒がないように村の人に伝える。
子供なんて変異以降はじめて見るよね。
美咲ちゃんは大人じゃないが子供っていうのも微妙な年だしね。
あとで、みんなにも紹介しよう。
なんか大人気になりそうだ。
オレと子供はお屋敷に向かう。
でも、後ろからぞろぞろ村の女性たちがついて来てる。
みんな、子供に興味深々なんだろうなぁ。
みんな子供に気遣って静かについて来てるけど、なんか無言の圧力を感じるぞ。
子供は後ろからついて来る女性の集団に驚いて、オレの足にへばりついている。
「大丈夫だ。みんな、おまえを歓迎してるだけだから怖がらなくていい」
子供の頭を撫でながら説明しておく。
「みんな、おまえのお姉さんになる人だから」
オレの言葉に子供は後ろを振り向いてお姉さんたちを見る。
みんな笑顔だし、中には手を振ってる人もいる。
その姿に子供も少し安心したようだ。
はにかみながら、小さく手を振っている。
後ろでお姉さんたちが小さく歓声をあげている。
うん、気に入られたようだ。
そのまま、ぞろぞろみんなでお屋敷に入る。
玄関では優子さんたちが待っていてくれた。
あんだけ賑やかなら気づくよね。
優子さんは玄関に膝をついて目線を下ろし、子供に正対する。
「いらっしゃい。もう、大丈夫だからね」
優子さんがゆっくり子供を抱き締める。
一瞬、子供は驚いたみたいだが徐々に体の力が抜けていってる。
「優子お姉さん、よろしくお願いしますだ」
オレが子供に耳打ちする。
「ゆ、優子、お姉さん、お願い、します」
滑らかになってた言葉が緊張したのか、また、たどたどしくなってしまった。
「はい、こちらこそお願いします」
優子さんが子供をぎゅっと抱き締めた。
オレはマスターにお願いして風呂を準備してもらう。
この子、かなりの期間風呂なんて入ってないから、正直、汚い。
みんなへの紹介はきれいになってからの方がいいだろう。
オレもしばらく風呂に入ってないので、一緒に入ればいい。
オレと子供は風呂に向かう。
脱衣場でオレはさっさと服を脱ぐが、子供の方は着ていた服が、泥や汚れで固まってしまいうまく脱げないようだ。
仕方ない。
「服を破ってもいいか?」
この服は洗濯してもきれいにはならないだろう。
子供服なんて無いけど、服は大きければ着れるから大丈夫だろう。
子供がうなずくのを確認して服を破る。
うん、男の子だ。
これまでも立っておしっこしてたから男だと思ってたけど、これで最終確認出来た。
まだまだ子供だけどな。
風呂でごしごし子供を洗う。
お湯が真っ黒になるほど汚れてる。
髪も伸びてボサボサだけど、オレが切るとえらいことになりそうだから、あとで優子さんかマスターに頼もう。
ちなみにオレの髪も二人が切ってくれてる。
二人とも器用だよね。
子供と二人、湯船に浸かる。
「ぬわぁ〜」
久しぶりだけど、やっぱり風呂はいいなぁ。
子供も気持ち良さそうだ。
「みんないい人だろ」
子供がうなずく。
「もう大丈夫だ。メシも寝るとこもちゃんと用意してやるし、怖いのからはみんなが守ってくれる」
オレの膝に乗った子供の頭を撫でる。
うん、もう黒くならないな。
「よく、がんばったな」
オレは子供の頭を強く撫でた。
子供はちょっぴり泣いてた。
うん、涙が治まったら風呂から出ような。




