接触編3
○・・・子供?
生存者を探しに来たんだけど、子供?
子供だよな?
髪はボサボサの伸び放題で体中真っ黒だけど、人間の子供だよな。
あまりに予想外の事態にぼかんとする。
子供の方も、オレがいきなり跳ね起きたので驚いたのだろう。
お互い、顔を見合せ止まってしまう。
朝もやの空気がなんだか白く感じる。
はっとしたように子供が後ろを向いて逃げようとする。
いかん。
オレもあわてて、子供を捕まえる。
反射的に捕まえたけど、この子どうしよう?
「おっと」
子供が腰の後ろから包丁を取り出したので、子供の手を払い、包丁を捨てさせる。
錆びだらけで歪んでいるが包丁は危ない。
子供は体をバタバタさせて、なんとか逃げようとしている。
暴れてもオレが放さないので、子供はオレの手を噛みはじめた。
「噛むのはいいけど、気をつけないと歯が折れるぞ」
子供の顎の力ではオレの皮膚は破れないと思うよ。
とりあえず、子供が暴れるに任せて放っておく。
よく見てみると、子供の手足は痩せてガリガリになっている。
パニックが起きて、かれこれ半年以上が経っている。
そういえば、まだ一年経ってないんだよなぁ。
密度の濃い日々を過ごしているから、もう数年が経ったような感じがする。
う~む、感慨深いなぁ。
オレが感慨にふけっていると、子供がおとなしくなった。
暴れ疲れたのだろう。ずいぶんと痩せている。
これじゃスタミナもないだろう。
「おい、放すけど逃げるなよ」
オレが言うと、子供がこくこく頷く。
大丈夫かな?
オレがそっと地面に下ろすと、子供はじっとしている。
良かった。
下ろしたら逃げると思った。
子供はオレと手にした槍をチラチラ見ている。
あ~、なるほど。槍の範囲から逃げれないと考えたのか。
しかし、それが判断できるってことは、この子知性があるんだな。
さっきも言葉を理解していた。
う~ん、どうしよう?
生存者と会うことは想定してたけど、子供と会うことは考えてなかったんだよね。
しかし、この子一人でよく生きてたな。
一人だよね?まさか、この状況で大人が子供を一人で出歩かさせるとは思わない。
この子の汚れっぷりも一人であることを示唆していると思うんだけど。
「お前、一人なんだよな」
オレの問いかけに子供が頷く。
やっぱりか。
それに言葉もちゃんと理解してる。
「とりあえず、朝メシにするけど、お前も食うか?」
まずは食事で信頼を勝ち取ろう。
子供はオレの顔をじっと見ている。
これは食うってことだよね。
オレは飯ごうに米と干物を入れ、たき火の火にかける。
貴重な米だが、今が使い時だろう。
干物も一緒に入れればダシと塩味が出る。
子供は、しばらくまともな食事なんてしてないだろう。
さとるさんに聞いたけど、長く飢えていた人にいきなり普通の食事を満腹になるまでさせるとかえって体調を崩すことがあるらしい。
水の量をかなり多めにして、出来上がりが粥や雑炊になるようにする。
これなら大丈夫かな?
出来た雑炊を蓋に入れて、子供に渡す。
いきなりがっつこうとした子供の頭を掴んで止める。
「熱いから待て。それにいただきますは?」
「いた、だきます」
子供がたどたどしい言葉でいただきますをする。
よし、言葉はしゃべれるな。
「よし、全部食べていいから、ゆっくり食べるんだぞ」
子供はオレの許しが出たので、雑炊を食べはじめる。
言葉がたどたどしいのはしばらく話していなかったからだろう。
やっぱり、一人で生きてきたんだな。
オレは子供が食事を終えるのをじっと待つ。
朝食としては結構な量があったんだけど、みるみる子供の腹に収まっていく。
よっぽど腹が減ってたんだなぁ。
ヒマなので、さっき払い落とした子供の包丁を調べる。
錆びてぼろぼろで何ヵ所も歯こぼれしている。
普通の包丁を持ち歩いていたみたいだ。
ん?これって自衛用なのか?
子供なら包丁しか見つけられなかったのかもしれないが、自衛用の武器が必要ってことなのかな?
すべてを食べ終えた子供に質問してみる。
食後に悪いがなにを警戒していたのかが気になる。
ゴブリンだろうか?
「大きいのと小さいのが来るから、怖い」
小さいのってのはゴブリンのことなんだろうが大きいのってなんだ?
「子供みたいなのと大人みたいな奴のことか?」
子供は首をブンブン横に降って否定する。
「小さいのは子供みたいな奴か?」
ちょっと悩んだみたいだけど、子供は頷いて肯定する。
多分、ゴブリンなんだろうなぁ。
写真なんてないから自信がない。
すると大きいのってなんだ?ホブゴブリンのことかな?
「大きいってどれぐらい大きいんだ?オレぐらいか?」
子供が首をふる。
「オレよりでかいってことか?」
オレの身長は2メートルを越えてるんだけど。
子供がうなずく。
マジ?
オレよりでかい奴なんて変異して以降、見たことがない。
「どんなやつだ?クマとかじゃないんだろ?」
ここらにいるのは月ノ輪熊だ。2メートルはなかったはず。
「でっかいくて大きい」
でかいと大きいは同じじゃないのか?
しばらく話してなかったからたどたどしい上に子供だから語彙が乏しい。
頭自体は悪くなさそうだから、オレの聞き方の問題なんだよな。
「オレより大きくて分厚いってことか?」
子供がうなずく。
よし、大体分かった。
・・・ちょっとヤバくないか?ここ?
「それがたくさんいるのか?」
子供が首をふって、人差し指を出す。
1体ってことか。
ふ~む、なんだろ?そいつ。
「ちょっと、絵を描いてみてくれ」
オレは適当な枝を子供に渡す。
子供が地面にがりがり絵を描いてくれた。
「・・・え~と、これは頭がひとつに顔が二つあるのか?」
子供がブンブン首をふって否定する。
画伯系か、こいつ。
でも、一生懸命に描いてくれたので、なんとなく雰囲気はわかるぞ。
うん、こうして目を細めて離れて見れば、
「オレより大きくて太ってるって感じでいいか?」
子供が笑いながらうなずく。
笑ったのはじめて見たな。
しかし、なんだ?こいつ?
トロールってやつなのかな?
「こいつ、どこら辺にいるかわかるか?」
「夜になるとウロウロしてる」
夜行性なのかな?
「昼間は?見たことあるか?」
首をふって否定する。
とりあえず、昼間は安全かな?
しかし、子供のいう事だ。
信用しないわけじゃないが、警戒は必要だろう。
「おまえ、オレと一緒に来るか?オレは山をいくつか越えたとこに他の人と住んでる」
子供は難しい顔で悩みはじめる。
さっき、会ったばっかだもんなぁ。
「オレと女の人たちと男の人がいる。食い物もあるぞ」
子供がオレの顔を見てうなずく。
食い物に釣られたか。
まさか、女の人じゃないよな?
「おじさんと行く」
・・・おじさん?おじさん?
ふむ。オレは子供の頭を優しく撫でながら大事な事を教える。
「オレは20代でおじさんじゃないし、村の女の人を絶対におばさんなんて呼ぶなよ」
せっかく見つけた生存者なんだ。
村についてすぐにお別れなんて、せつない事になってほしくない。
オレは子供にガレージに止めてある車のある場所を聞いて車を確保する。
目一杯、座席を下げてもキツいな。
窮屈だが、なんとか運転できるだろう。
槍は屋根に無理矢理くくりつける。
「おまえの父ちゃんと母ちゃんはどうした?」
キツい質問だが、ここを離れる前に確認が必要だ。
「・・・死んだ」
やっぱりか。
「おまえの父ちゃんにはなれないが、兄ちゃんぐらいにはなってやる」
子供を頭を乱暴に撫でてやる。
子供の体ががくがく揺さぶられるが、子供は笑っていた。
手が真っ黒になったけど、気分は悪くない。
それじゃ、村に帰るか。
みんな驚くだろうな。




