接触編2
○オレと優子さんは屋敷に帰ることにした。
ひとまず、生存者がいることが分かったので早くみんなに教えたい。
この島に生存者の集団があるってことは、他の島にも生存者がいる可能性が高い。
オレたちと同じように山に隠れ住んでる集団もいるかもしれない。
みんなと相談して探索範囲を拡げないといけないだろう。
「わしも協力するからの」
オレの言葉に田中さんが胸を叩く。
今後のためにこちらの所在を明らかにして、定期的に交流したい。
その為には今回の帰還に同行してもらってオレたちの暮らしぶりを見てもらうのが一番だろう。
最初は、若社長が自ら同行しようとしたらしいが、さすがにそれは他の人が止めた。
「若社長はでかいのの言葉にえらく感動しとったからの」
そこで、自警団のリーダー格の田中さんが同行することになったんだ。
「でも、自警団の方は大丈夫なんですか?」
田中さんが抜けたら戦力がダウンするんじゃないかな。
「島は橋を見張っておれば、大丈夫じゃ。これまででかいのが言うホブゴブリンが船で来たことはないからの」
なるほど。島は元々の防御性が高い。
だからこその決断だったのだろう。
ところで、オレ、でかいので確定なの?
今回の帰還には田中さんが同行する。
田中さんが島に戻る時は、希望者がいれば島に帰る田中さんに同行する。
もちろん、オレも同行して守るつもりだ。
そして、オレが帰る時に希望者がいれば、また同行してもらう。
そうやっていけば定期的に交流できる。
「いや、しかし、山んなかの村は楽しみじゃよ。島もいいんじゃがメシが魚ばかりでなぁ」
基本的に今はそこで採れるもので凌ぐしかない。
オレたちは肉が多く、島ではやはり魚が多い。
島では異変前に猪などは駆除しており、現在はいないらしい。
だから、オレたちが持っていった薫製肉は大好評だった。
「魚も嫌いってわけじゃないが、やっぱり肉も食いたいからな」
そうなのか。
オレと優子さんは、あの後の歓待で食べた魚料理に感動したんだけど。
こんな状況だから、手の込んだ料理ではないがうまかった。
塩焼きに刺身、煮付けに鍋。
今、思い出してもよだれがでる。
おみやげにもらった干物もうまそうだ。
肉と魚の物々交換だが、これって経済の始まりになるのかな?
レート的に得したのか損したのかは不明だがうまそうなのでいいだろう。
それに、田中さんは兼業農家だったので実家でお米を作っていたそうだ。
お米もおみあげに頂いた。
今回は視察だが、村の田んぼを見ていけそうなら、米作りを教えてくれる。
米だよ、米。
やはり、日本人としては米が欲しい。
魚で白米を食う。肉でごはんをむさぼる。
おにぎりに焼き飯。
いやぁ、未来は明るいぞ。
そうなると、オレたちも特産品とか考えた方がいいかもしれないな。
薫製肉だけでは少しさびしい。
山の中に住んでる集団があったら、そこでも多分作ってるだろうし。
う~ん、なにが出来るだろ?
「あんたらの村はどんな具合なのかね?」
田中さんの質問に優子さんが答えてくれる。
今は、狩りと畑で作ったじゃがいもを中心とした農作物で生活していること。
村の人たちは女性しかいないこと。
オレたちは、大先生の屋敷で暮らしていることなどだ。
「ほう、お医者さんがいるのかね」
うん、大先生とさとるさんがいるよ。
「二人とも少し変わった変異をしましたが、尊敬できる人です」
そんなことを考えながら、村に帰る。
みんなは田中さんを連れ帰ったことに驚いたみたい。
今は事前連絡なんて出来ないからね。
でも、生存者がいたことが確かに証明されたのだ。
さとるさんたちに会った田中さんはさすがに驚いていたが、事前に少し説明していたこととさとるさんの理性的な対応にすぐに落ち着きを取り戻してくれた。
「わしらの島にも変異したもんは多いがここまで変異した人ははじめてだよ」
ふ~ん、全身変異は珍しいのかな?
オレも一応、全身変異してるけど・・・
さとるさんたちのインパクトには負けるな。
その日は、田中さんの歓迎会を屋敷で行った。
もちろん村の女性たちも参加してくれた。
大先生は田中さんと話し今後の協力を確約した。
村の女性たちもおみやげの干物をおいしそうに食べている。
久しぶりだからか、みんなうっとりしてる。
お刺身もおいしかったよ。内緒だけど。
田中さんは屋敷に寝泊まりして村や周辺を見て回っている。
今日はマスターと森の見回りに行っている。
田中さんが見た限り、村の田んぼは使用可能なので今度島から貴重な種籾を持ってきてくれるそうだ。
ありがたい。
うまくいけば、村でも米が食べれそうだ。
田中さんが種籾を取りに行く時は、村の女性で島に興味をもった人を島に連れていってあげよう。
島が気に入ればそのまま移住してもいいし、また島に行くから、その時戻ってきてもいい。
その辺りは今後の人生に関わることなので、じっくり考えてくれればいい。
田中さんの話だけじゃわからないところもあるだろうしね。
田中さんは今後の米作りの指導のため、村に長期滞在してくれるそうだ。
田中さんは自警団のリーダー格だったがマスターほど戦い方に精通しているわけじゃない。
だから、マスターからいろいろな技術や知識を習いたいそうだ。
いいことだけど、マスターには気を付けてね。
みんなと相談してオレは周辺の探索を行う事にした。これまでも周辺の探索はしていたが今回は、範囲を拡げて出来るだけ山奥を調べてみる。
もしかしたら、この辺りの山中にも生存者がいるかもしれない。
そんなに大きな集団ではないとは思うけどね。
人が生きるには水が必要になる。
水は重く運ぶのが大変だし、長期保存も難しい。
だから、川沿いを中心に調べてみる。
何度かひょっとしたらというような痕跡があったけど、調べてみたら空振りだった。
パニック初期にはいたのかもしれないが、移動したか亡くなってしまったのだろう。
森の探索中に何度かゴブリンに遭遇したけど、出来るだけ退治しておく。
かわいそうかもしれないが、彼らは生存競争における競争相手だ。
退治したゴブリンを調べてみるが、すべてオスばかりだ。
う~む、メスはどうしたんだろう?
もしかして、巣があってそこにいるんだろうか?
オスが狩りに出てメスが巣にいる。
そうすると、そこで繁殖してるのかもしれない。
これってヤバい事態かも?
みんなと相談したほうがいいだろう。
相談リストの上位にゴブリンの繁殖問題を書いておく。
オレはもう少し足を伸ばして探索を続ける。
今回の探索はオレ一人で行っている。
優子さんも同行したがったが、今回は森の中をかなり移動する探索なので遠慮してもらった。
森の中を歩き回り、ゴブリンを追い、生存者を探す。
基本的に食事も採れたものを川沿いの適当なとこで火をおこして食う。
保存食として薫製肉や米を持ってきてるが、それは何も採れなかった時用だ。
単純に体力的にキツい。
街道や宿場町が流行ったのがよくわかる。
しかし、さびしいな。これ。
今夜の野営地にした川沿いの大岩にもたれ地図を確認しながら、みんなの事を考える。
今回の探索は森の中を中心にしているが、今日で1週間だ。
帰るときは、適当な所で車を調達する。
自宅のガレージに止まっている車なら家を探せば鍵はすぐに見つかるので簡単だ。
今回の探索期間は10日間ぐらいのつもりだ。
あと、2日ほど探索をしたら車を探そう。
そんな事を考えながら体を休める。
夜中に物音で覚醒する。
この状況では熟睡は出来ない。
まどろむぐらいなのですぐに覚醒できる。
ゴブリンか?
それにしては、音が小さい。
ゴブリンは群れるのでこっそり近づくなんて不可能だ。
誰かの足音みたいな感じだが・・・
こっそり近づいてくるので、そのまま寝たふりをする。
猪か狸かなと思うが足音が小さいような?
猪なら今日のごはんに、狸は不味いので逃がすことにしよう。
充分に近づいたところで、槍を手に跳ね起きる。
小さくなった焚き火の火に照らされたのは・・・
子供だった。




