お屋敷編8
○オレはお屋敷の高い塀の上でだら~と溶けている。
いや、サボってる訳じゃないよ。
女性たちの移住が決まってから、さとるさんの提案でオレ達にはお休みの日が出来た。
さとるさん曰く、人間は休みを取った方が効率がいいそうだ。ずっと働いていると作業効率が落ちるだけではなく、ケガなどの危険性も高まる。
そこでオレ達は各人が交代で休みを取ることにした。
もっとも、休みといってもどこかに出掛けられるわけじゃないし、ネットもテレビも無い。ゲームに関してはこのお屋敷には、大先生やさとるさんが使用する将棋や囲碁などがあるけど、一人では出来ないしね。
大先生やさとるさんぐらい上級者になれば一人でも楽しめるらしいが、オレには無理。
基本的に無趣味のオレは休みになると時間を持て余してしまう。
だから、休みになるとこうしてだらけたり、自分の弓を改良して練習したり、予備の槍を作ったりしている。
塀の上は見張らしもいいし風が気持ちいいので好きなだらけポイントのひとつだ。
今日はマスターが女性たちの護衛。
優子さんとさとるさんが森の見回りに行ってる。
さとるさんが森に行くとたいてい薬草を摘んでくる。
こないだは、トリカブトも見つけてきてた。
毒やんと思ったがあれも薬になるらしい。奥が深いね。
今はぼ~っとマスターと女性たちを見ている。
こうして見ていてると、マスターは女性に対してかなり素っ気ない。
女性たちが話しかけても、「ええ」とか「そう」ぐらいで、いつものテンションがない。こないだの件が尾を引いているんだろうか?
ん?ちょっと疑問に思った。
優子さんとマスターって仲良しだよね。
なんで?
優子さんはマスターの店の常連だったから?
でも、マスターの態度からして店から離れてまで女性に合わせるとは思えない。
まさか、優子さんとマスターは元恋人同士!
・・・ないな。
マスターは筋金入りだし、優子さんのかつての恋人は一人だけで、すでに他界している。
でも、二人は親友同士みたいだ。
う~ん、わからん。
あまり詮索すると嫌われるし、今度機会があったら聞いてみよう。
お屋敷組に倣い、女性たちも交代で休みを取っている。
女性たちは人数が多いので、二人ずつ休みを取っているそうだ。
幸い女性たちは誰も妊娠などはしていなかった。
じつは心配してたんだよね。
もっともさとるさんの顔は暗かった。
それなりの期間、複数の男性に暴行を受けていたのに14人が誰も妊娠していない。
良かったけど、それはそれで問題なのだそうだ。
変異したことで妊娠しにくくなっているのかもしれない。
そうなると人口は減り続ける。
そして、いずれ絶滅する。
ただ、今回の件だけではサンプルが少なく、判断が出来ないそうだ。
女性たちの変異は、さとるさん判定基準でCクラスになる。
さとるさん判定基準は、その名のとおりさとるさんが判定する基準だ。そのままだね。
さとるさんなりの複雑な判定基準があるらしいが、さっぱり分からなかった。
その基準によると、オレと優子さんはBクラス、さとるさんと大先生がAクラス、美咲ちゃんがCクラス。マスターは、CクラスプラスもしくはBクラスになるらしい。
だから、Cクラスは妊娠しにくいが他のクラスは妊娠しやすいかもしれないし、BクラスとCクラスなら妊娠するかもしれないとの事だ。
こっそりオレに協力してくれません?とか言ってきたけど、優子さんの耳から逃れられる訳もなく、後でお説教されてた。
さとるさんいい人なんだけど好奇心が暴走するとマッドになるからなぁ。
ただ、妊娠問題が大きな課題であることは間違えない。
しかし、村には女性しかいないので判断が出来ない。
やはり女性だけの生活は問題があると思う。
約一軒は最近ピンク色のオーラが出てきているしね。
どっかにいい男性はいないかな?
マスターみたいな事を考える。
偏見かもしれないが、街には世紀末系しかいないように感じるので田舎を探してみるか?
う~ん、マスターにいい男を探しに行くと誘えば喜んで協力してくれそうだが、オレとマスターが現状で村から離れるのは危険すぎる。
さとるさんは村にもお屋敷にも絶対に必要な人なので除外。
あの外見では交渉は難しいだろうしね。
同じ理由で大先生も除外になる。
お元気だけどお年はお年だし無理はしてほしくない。
こうなると、オレが一人で探してみるのが一番かな?
日が陰ってきたので塀の上から降りる。
いろいろ考えたけど結論はでない。
しかし、今後の事を考えると男性がいた方がいいのは間違いない。
いや、男性だけじゃなく女性ももっといた方がいいだろう。
今、必要なのはマンパワーだ。
人口が増えれば、出来ることも増える。
そうすれば幸せになる可能性も増えると思う。
やっぱり、オレが一人で探索に出てみようかな?
その夜、昼間ダラダラ考えていた事を何気なく提案してみる。
結果、優子さんは大反対。
さとるさんや大先生も難しい顔だ。
「気持ちはわかりますが、今はまだそこまで気にしなくてもいいと思いますよ。彼女たちが妊娠しなかったのは、偶然かもしれませんし」
さとるさんはそう言うが早めに動いた方がいいんじゃないかな?
オレは晩ご飯のヌートリア肉を食べながら思う。しかし、うまいな、ヌートリア。
「真人ちゃんはどこまで探すつもりなの?」
「決めてないけど、最初は近場を探して徐々に範囲を広げるつもり」
もしかしたら、近くにだれかいるかもしれないしね。
オレ達がこうして生きている以上、他にも生きてる人がいるのは確実だ。
それならお互いに協力した方が生きやすいと思う。
それにオレと優子さんの事もある。
オレ達の間に子供は出来ないのか?
他の生存者に子供が出来ていれば可能性があるって事になるんじゃないかな?
別になにがなんでも子供が欲しいってわけじゃないけど、優子さんとの間に子供が出来れば嬉しい。
優子さん似ならかわいいだろうしね。
オレに似た場合は強く生きてもらおう。
世紀末思考なやつらばかりに会ったけどそんな男ばかりじゃないと思う。
そんなやつらばかりなら大人しく滅びよう。
オレもまだちゃんと考えている訳じゃない。
でも、世界がどうなったのかは知りたい。
だから、早いうちに調べてみようかと思っただけだ。
優子さんが反対ならやめる。
オレの一番はあくまで優子さんだ。
そんなことをみんなに話してみる。
「・・・真人お兄ちゃんがいないのは寂しいけど、他の人にも会ってみたいのもほんとの気持ち」
美咲ちゃんは消極的賛成って感じかな。
「まずは近場からならええんじゃないか?危険なら辞めればええ」
大先生は賛成かな。
「う~ん、正直、他の生存者の変異は気になりますね。それがわかるだけでも今後の計画がたてやすくなります」
さとるさんも賛成かな。しかし、今後の計画ってなに?聞いてないんだけど。
「私は反対。他の人と協力したいし子供が出来たら嬉しいけど、やっぱり反対」
うん。優子さんは反対だろうね。これまでで一番口が尖ってるし、さっきから目も会わせてくれない。
「あたしも反対ね」
おや?マスターは賛成すると思ったけど?
「いい男が見つかるかもしれないよ」
「真人ちゃん、あたしのことをなんだと思ってるのよ」
そんなこと、とても口には出来ないよ。
マスターに睨まれる。ごめんなさい。
「まず、真人ちゃんの戦闘技術が不足してるのが反対の理由のひとつ。ゴブリン相手なら大丈夫でしょうけど、生存者が相手になることも考えるとまだまだ危険よ」
なるほど。
「ふたつ目は一人での行動は死亡率がはね上がるってこと。やっぱり二人一組ツーマンセルが基本よ」
でも、オレとマスターが行くとここが手薄になる。
それじゃ本末転倒だ。
「だから、もう一人鍛えるのよ。優子ちゃんをね」
へっ?優子さんを?
「そうすれば、真人ちゃんのカバーが出来るしあたしと探索に行くこともできるわ」
なるほど。でも、大丈夫かな?
優子さんの能力を疑う訳じゃないけど、探索中には人を殺すこともあるだろうし。
ってか、世紀末キャッホーなやつらが出たら間違いなく殺し合いになると思うんだが。
「私、やる!真人と一緒に行く」
オレが悩んでる間に優子さんは決心してしまった。
う~ん、でも、危険だし、危ないし
オレがまだぐだぐだ悩んでいると
「言ったでしょ。覚悟しなさいって」
マスターがため息まじりに呟いた。
そういえば言われたね。




