お屋敷編2
○「若先生か大先生はいますか?私、看護師の北村優子です」
優子さんが、門の中にいる謎の人物に説明をする。
「・・・あの人、銃を持ってるみたいです」
オレの目からも謎の人物が長い棒状の物を構えているのが見える。
ライフルか散弾銃だろう。
「優子ちゃん?悪いけど、ゆっくり車から全員降りて顔を確認させてちょうだい」
どうする?銃を持ってるならヤバイかもしれない。
「大丈夫だと思う。私、あの人知ってる」
優子さんの言葉で降りる事にする。
だが、一番前に立って背中に二人を守る。ライフルならヤバイが、散弾銃ならなんとか耐えられるかもしれない。
「優子ちゃん!やっぱり優子ちゃんじゃない。待ってて、すぐに門を開けるから」
謎の人物が、オレの背後から顔を見せた優子さんを確認して門を開けてくれる。
オレほどではないが、かなり長身で筋肉質な男性・・だ。妙にタイトな服を着てるのでボディラインがくっきりと確認できる。確認したくはないが・・・
「マスター!マスターもここに避難してたんですか」
「そうなのよ。さとるちゃんと大先生が心配で。優子ちゃんも無事で良かったわ」
優子さんと男性は、手を取り合って喜んでいる。
光景だけなら感動的なんだが・・・細マッチョな男性の口からでる言葉が、女言葉なのでなんか素直に感動できない。
会話から察するに、さとるって人がお孫さんなんだろう。
美咲ちゃんも驚いている。
うん、気持ちはわかるよ。外見だけなら、イケメンな男がずっっと女言葉だから違和感がハンパない。
「マスター、こちらは真人と美咲ちゃん。みんなでがんばってたの」
少し落ち着いたのか、優子さんがオレ達を紹介してくれる。
「ふ~ん、彼氏と・・・優子ちゃんのお子さん?」
マスターとやらがオレと美咲ちゃんを見ながら、からかうように言う。
「ひっ!じょ、じょうだんよ~優子ちゃん、怒っちゃいや」
マスターの顔が一気に青ざめる。
後ろからだったので、確認できなかったが優子さんどんな顔したの?
「真人は彼氏で間違いありませんけど、美咲ちゃんは私たちの妹です」
彼氏か。うん、間違いないね。優子さんの彼氏。うん、いい響きだね。
オレがへらへらしてると、マスターがそんなオレを笑顔で見ていた。
「ここで騒いでると、変なのが寄ってくるから中に入りましょ」
マスターがオレ達を屋敷内に招いてくれる。
「変なの?」
オレの呟きが聞こえたのか、
「ゴブリンとか生存者ね。今は生存者の方が危険だけど」
マスターが説明してくれた。
この辺にも生存者いるんだ。
「もし押し込まれでもしたら、あたしなんか可愛いからどんな目にあうか。怖いわ~」
いや、あんたは大丈夫だ。オレが保証してもいいぞ。
「若先生と大先生は無事なんですか?」
マスターの冗談を無視して優子さんが尋ねる。
「二人とも元気よ。無事っていわれると答えにくいけどね」
変異の事か?
そういえば、マスターの耳も優子さんほどじゃないが少し尖ってるな。
あまりのインパクトにそんな細かい事、気がつかなかったよ。
「おふたりは、今どこに?」
優子さんの耳でも二人の気配を感じないらしい。
「今、眠ってるわ。大丈夫。たぶん明日には起きてくるから」
明日?そんなに眠り続けるのか?
顔に疑問が浮かんでいたのか、マスターが説明してくれる。
「二人とも、少し変わった変異をしちゃってね。この時期に起きるのは数日に一回ぐらいね」
ますますわからん。
「二人が起きてきたら、自分で確認して。あたしの口からはここまでしか説明できないわ。一応、プライバシーだしね」
ふむ、疑問はあるがマスターの態度から危険はないのだろう。
オレ達は、あくまで招き入れてもらった立場だ。大人しく二人が目覚めるのを待とう。
オレがそう考えていると、マスターがまたオレの顔を見て笑っている。
「ふ~ん。さすが優子ちゃん、いい男、ゲットしたじゃない」
オレ達はマスターの案内で食堂に招待される。
さっきのどういう意味なんだろう?優子さんがスゴいってこと?
オレ達は食堂で簡単な自己紹介をする。
「あたしはエリザベス。ちなみにエリザが名字でベスが名前ね。エリザでもベスでもいいわよ。なんなら、エリーとかべティって呼んでくれてもいいわ」
うん、自己紹介になってないね。
「マスターは街でバーをやってたの。確か元自衛隊のレンジャーさんだっけ?」
優子さんの説明の方が紹介になってるよ。
しかし、レンジャーって空挺部隊とかいうやつだろ。エリートじゃん。ん?エリートだからエリー?
「やめて、若気の至りよ。あの頃は真実の自分に気がついてなかったの」
気づいた真実の自分がこれか・・・どこで気づいたかは、聞かないでおこう。
「マスターのお店はマスターの占いがすごく当たるって、うちのナースで有名だったの」
なるほど。それで優子さんが知り合いなのね。女の子って占い好きだよね。
「・・・どんな占いだったんですか?」
美咲ちゃんも占いって聞いて興味がでたみたい。
「占いじゃなくアドバイスなんだけどね。基本的にあたしが聞かれるのは、恋愛関係よ。特に優子ちゃんは100%恋愛のみだったわ」
そうなのか。ふ~ん、優子さんが恋愛関係を占ってもらってたのか。ふ~ん。
オレがそんなことを考えていると
「真人ちゃん、こんな、めんどくさくてオモい女だけど、優子ちゃんのことよろしくお願いするわね」
エリー、もといマスターに手を握られ頼まれた。
オレ、真人ちゃんなの?
しかし、優子さんがめんどくさくてオモい?そうかな?そんな感じはしないけど?
「この女、一歩間違えたら、ストーカーよ」
そうなの?ん?あれ?
「気がついた?」
マスターがにっこり笑う。怖いのでやめて。
「失礼しちゃうわ」
やっぱり!
「マスター、オレの考えてることがわかるんですか?」
さっきからオレは話していないのに会話が成立している。
「こんなにはっきり解るようになったのは、変異してからね。それまでは精々、相手の感情が見えるぐらいだったわ」
マスターの説明によると、元々、マスターは相手の感情が色のように見えていたらしい。怒っていたら赤、悲しんでいたら青みたいに。
それが、変異してからは相手の言葉まで解るようになったそうだ。
もっとも、言葉が解るのはごく至近距離や接触してないと無理らしい。
占いがよく当たるのもその影響だったのだろう。
「だから、占いじゃなくてアドバイスなのよ。もっとも、どっちも似たようなもんだけどね」
なるほど。オレの顔を見て笑っていたのも、オレが不埒な考えをしていなかったからだろう。
「あのマスター、いつまで真人の手を握ってるんですか?」
気がつくと、マスターはオレの手をずっと握っている。
それを、じと~とした目で優子さんが見ている。
「いいじゃない。減るもんじゃなし。栄養補給よ」
「減りますから、離れてください」
優子さんが、オレの手をマスターから解放してくれる。
「ね。めんどくさい女でしょ」
マスターがやれやれといった感じでオレの手を離す。
「ほんとは、ジャイアンなのに」
優子さんが小さな声で呟く。
ジャイアン?
「あんた、それ言ったからには覚悟できてるんでしょうね。あんたの秘密も真人ちゃんにばらしてやる」
マスターの顔が怖い。
優子さんがわたわたして、マスターの口をふさごうとするがマスターを止められない。元レンジャーだもんなぁ。
優子さんの手はマスターにガッチリ捕まれてしまった。
普段なら、優子さんを助けるのだが、マスターが言った優子さんの秘密に興味がある。
ごめんね。優子さん。
「あんた、10年以上前に一人と1ヶ月しか付き合ってないくせにでかい口叩くんじゃないわよ」
「言っちゃダメ~」
優子さんがバタバタ暴れるが、マスターの口は止まらない。
「これじゃ、癒着しちゃうって嘆いてたじゃない。ナースなんだから、おちんちん見放題のくせに。うらやましい」
いや、マスターの個人的感想はいいよ。
しかし、10年以上前に一人だけか。
優子さん、美人なのに。
オレの心の声が聞こえたのか、マスターががっくりする。
「あのね、真人ちゃん、優子ちゃんは情のふか~い女なのよ。かなり執着心強いし結構粘着質だし。独占欲強いし独占されたがるし、相当、覚悟しないと危ないわよ」
「どれも問題ありません。なんなら、優子さんラブってでっかく刺青してもいいですよ」
マスターが優子さんを解放する。
優子さんの顔は、真っ赤になってる。
「オモい女とイタい男のカップルなのね、あんた達」
なんだか、えらく疲れた顔でマスターが呟いた。
どうしたんだろう?
「もういいわ。今日は休んじゃいなさい。疲れてるみたいだし」
美咲ちゃんを見るとかなり眠そうにしている。
決して呆れているのではないだろう。
「でも見張りとかはどうするんですか?」
「今まで、一人でやってたんだからいいわよ。でも、明日からは手伝ってほしいわ。一人だと、いろいろ手が回らなくて」
マスターのお言葉に甘えさせてもらう事にする。
明日から頑張ろう!
マスターに客室に案内してもらう。
部屋を出ていくマスターが優子さんになにか耳打ちしてた。
なんだろう?
ちなみに、マスターの本当の名前は、剛田 健なんだそうだ。
それで、ジャイアンね。
なるほど。




