お屋敷編1
○今、オレ達は車で山中にあるお屋敷に向かっている。
出来る限りの準備をしたつもりだが、不安もある。
あれから、アウトドアショップやワークショップを中心に、必要な物資を集めた。
どの店も、生存者やゴブリンによって略奪されていたが、鍵のかかった倉庫などは略奪を免れているところもあり、なんとか必要な物をかき集めた。
そう、生存者がいたのだ。
もっとも、いい出会いとは言えなかったが・・・
彼らは、郊外の大型ホームセンターの屋上に拠点を作って、30名ほどで生活をしていた。
屋上なら、ゴブリンに襲われる危険は少ないだろう。目の付け所はいいと思う。
問題は、彼らがオレ達を襲撃してきた事だ。
オレ達はある程度、必要な物資を手に入れ、最後にホームセンターにも行ってみた。
ホームセンターが近付くと、優子さんが車を止めた。
「誰かいるみたい」
そう言って、優子さんはホームセンターの屋上を指差した。
後ろの雲に紛れているが、微かに煙が上がっている。
「・・・男の人が屋上に隠れて、こっちを見てます」
オレ達の中で、もっとも、目のいい美咲ちゃんには屋上に居るのが男性だとわかったようだ。
「こっちを警戒してるんだろうね」
「車を運転してるんだから、ゴブリンじゃないって分かると思うけど?」
う~ん、どうしよう?
あまり、危険な事はしたくないが、他の生存者の情報などを聞けるかもしれない。
オレ一人で行くと、車内には優子さんと美咲ちゃんだけになっちゃうし。
どうしよう?
オレが悩んでいると、
「あっ!こっちに誰か隠れて近づいてくる!」
優子さんの耳に反応があった。
隠れてか・・・
「どっち?」
オレも鈍いわけじゃないと思うが、優子さんの耳や美咲ちゃんの目にはかなわない。
「後ろから、5~6人で来てる。なんか、変な音するよ?」
変な音?疑問に思っていると、彼らはロープを投げつけてきた!
先端にブロックが結んである!
あれでこちらを捕まえるつもりなのか?
先端に結ばれたブロックが重すぎたのか、車にまで届いたロープはない。
「優子さん、逃げよう!」
「うん」
優子さんが車を発進させる。幸い、タイヤなどに絡んだロープはないようだ。
「・・・車で追ってきますよ」
美咲ちゃんが後ろを見ながら、教えてくれる。
「うわ~、女がいるから逃がすなとか言ってる」
あいつら世紀末から来たのか?
「優子さん、あいつらを振り切らないように運転出来る?」
「振り切らないようにするの?」
あいつらはいらん事を言ったから、おしおきしたいんだよね。
優子さんにお願いしてあいつらをホームセンターから引き離す。
ホームセンターの近くだと仲間が増えるかもしれないし、なんか武器があるかもしれない。
しかし、追いかけてきてるやつらは、ブロック付きのロープを使った事から、拳銃などの武器は無いと思う。せいぜい、刃物ぐらいじゃないかな?
優子さんがやつらを絶妙な距離で引き回す。
ホームセンターから充分に離れたところで、車を止めてもらう。
追ってきていた車も停車する。急に止まったこちらを警戒しているのだろう。
少し、距離を置いて止まった。
良かった。
実は体当たりされるのを不安に思っていたんだ。
こちらに女性が乗っているのでやらないとは思ったけどね。
手に武器を持ったやつらが降りてくる。
鉄パイプにバット、大型の鉈マチェットを持っているのもいる。
一人だけマチェットを持ってるのがリーダーかな?
全員が降りるのを確認して、オレも降りる事にする。
「無理はしないでね」
「・・・気をつけてください」
降りたオレの巨体に驚いているやつらに突進する。
数分後、全裸で正座するやつらに質問をする。
戦闘?戦いにならんかったよ。
鉄パイプやバットは当たってもダメージにはならなかった。むしろ、肩とか叩いてもらったら、気持ちいいかもしれない。
気をつけたのはマチェット男だが、マチェットが重すぎてゆっくりとしか振れなかった。・・・カッコつけただけだったのね。
やつらは、30人ぐらいの男ばかりの集団で2ヶ月近く屋上でテント生活してるそうだ。男ばかり・・・ちょっとだけ同情する。
気になったのは、やつらが変異してない事だ。
優子さんや美咲ちゃんみたいな変異もしてないと思う。
聞いてみると、最初の頃はゴブリン化する仲間もいたが、この1ヶ月以上ゴブリン化した仲間はいないそうだ。
やつらは、単純にウイルスが無くなったと考えたようだが、そうなのかな?
気にはなるが確認のしようが無いので、とりあえず、今後の課題にする。
他の生存者に関しての情報は特になかった。
やつらは屋上と下のホームセンターしか知らないらしい。
何度か遠くを移動する車を見たそうだが、どこに行ったのかわからないし、最近はそれも見ていないらしい。
そろそろ、下のホームセンターに残っていた食料も無くなってきたので、オレ達から奪おうとしたそうだ。
やつらは食料を奪おうとしただけと主張したが、それは信用できない。男だらけで2ヶ月だ。
間違いなく、優子さん達が目的だったのだろう。
やつらには、全裸のまま、帰ってもらった。
一応、自衛の為にマチェット以外の武器は返したが、帰れるのかな?
全裸で帰ってきたやつらに仲間は優しくするのだろうか?
それは、やつら自身で解決してもらおう。
これでも、寛大な処置をしたのだ。
こっちには約一名、
「・・・殺っちゃえばいいのに」
とか言ってた過激な子がいたからね。
結局、やつら以外の生存者には会えなかった。
移動する車を見たと言っていたので、他にも生存者がいるとは思うんだが。
やつらみたいな生存者ばかりじゃないと思うが、警戒はしよう。
「優子お姉ちゃん、お屋敷、まだ?」
最近、美咲ちゃんは優子さんをお姉ちゃんと呼ぶ。
オレの事は、お兄ちゃんとは言ってくれないのに・・・
「あと1時間ぐらいかな?どうしたの?おトイレ?」
「ううん、どんなお屋敷か、早く見てみたいだけ」
「すっごく広いお屋敷だよ。お庭も広くて、近くに池もあるよ」
そんなに広いんだ。広いとは聞いていたけど、想像より広いみたいだ。
なんせ、お屋敷なんて入った事ないからな~
そのまま車を走らせると、舗装された道から山道に入る。
ここから、すでにお屋敷の敷地になるらしい。
どんだけ広いねん!
数分、車を走らせると、前方に門が見えてきた。
そのまま、ゆっくり車で門に近付くと、
「そこで止まりなさい!ここは私有地よ!」
大きくはっきりした声がした!
生存者だ!
しかし、オレが驚愕したのは・・・
セリフは女言葉なのに、えらく美声なバリトンで言われたからだった!




