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サバイバル  作者: 伊右衛門


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マンション編16

○オレの部屋の前まで来た。

 室内って、死体そのままだよね。とりあえず、オレが先に入って死体を隠そう。


「ちょっと、待っててね。すぐに済ますから」

なんだか、彼女がいきなり部屋にやってきたみたいな台詞を言いながら、部屋に入る。


だが、室内の死体を見て、心が冷える。この野郎、もう一回、殺したい。


 しかし、今は、二人が優先だ。寝室からシーツを持ってきて、ヤツの死体を包む。シーツは色々あってぐしゃぐしゃだから、ちょうどいい。


 室内を確認するが、オレの手の中で握りつぶしたのでヤツの痕跡はほとんど無い。コレ、どこに隠そう?美咲ちゃんの目に触れないところ。ん~、ひとまず寝室しか無いか。美咲ちゃんがいるから今夜は健全な夜になるだろうし・・・

そうなればオレの寝室は誰も入らないだろう。残念だけど・・・

ひとまず、寝室のごみ袋の横に置いておく。ひどい?コレはごみだよ。


 優子さんと美咲ちゃんを室内に招く。大丈夫だよね。ヤツの痕跡無いよね?


「…おじゃまします」

こんな状況なのに、美咲ちゃんは礼儀正しい。えらいなぁ。ご両親の教育と本人の努力の賜物だろう。


 オレが感心してると、

「お邪魔します」

いや、優子さんは言わなくていいんだよ。


 優子さんが入れてくれたお茶を飲みながら、三人でこれからの事を考える。


「まず、移動先は、優子さんが言ってた院長先生のご自宅でいい?」


優子さんも美咲ちゃんも頷く。現状で、そこ以上の場所はないだろう。だから、この質問は確認のためだ。

 となると、そこに移動する為になにが必要か?その準備にどれぐらいの時間をかけるのか?必要なものはどこで探すのか?などを話し合う。

 基本的に市街地には、あまり近づきたくない。ゴブリンの数も多いし、車での移動が難しそうなので。市街地とここまでの距離を考えると時間がかかってしまう。郊外のホームセンターなどで探したらいいのかな?


「私、ホームセンターって、最初に人が殺到してるイメージがあるけど、まだ、必要なものって残ってるのかな?」

優子さんが疑問を口にする。なるほど。でも、それ以外だと、どこがいいだろう?


地図で調べたいがオレの部屋には地図が無い。調べものはネットだよりだったからなぁ。

優子さんに聞いてみるが、優子さんの部屋にも地図は無いそうだ。

う~ん、どうしよう?


 オレと優子さんが悩んでいると、

「…あの、学校の図書室になら地図があると思います」

美咲ちゃんが教えてくれた。


 なるほど、図書室か。

「美咲ちゃん、えらい!」

優子さんが美咲ちゃんを抱き締める。急に抱きつくから、美咲ちゃんが驚いてるよ。

 

「やっぱ、学生さんだなぁ。オレも優子さんも図書室って発想自体なかったよ」

「私たちが学生してたの…ちょっと前だもんね」

 ちょっと?オレが首を傾げていると優子さんに蹴られた。ごめんなさい。


ひとまず、明日三人で美咲ちゃんの学校に行く事にする。学校は、ゴブリンパニック以降休校していたから、中は無人に近い状態だろう。


 図書室で情報収集をして、今後の予定を決めることにする。準備にかける期間は5日間をめどに、1週間を期限と考える。

 見切り発車は危険だが、時間をかけすぎるときりがない。


「予定も決まったし、ご飯にしよっか」

優子さんが、お鍋でご飯を炊いてくれる。この部屋の鍋は優子さんがぶん投げたので、これは優子さんちの鍋ね。ちなみに、割れた窓はガムテープと部屋にあった段ボールで塞いだ。雨が降らなきゃ大丈夫だろう。

 パックのご飯も美味しいが、炊いたご飯は格別だね。優子さん、ご飯炊くのうまいなぁ。なんでも優子さんは、時間がある時はいつもお鍋でご飯を炊いていたそうだ。優子さん、いいお嫁さんになるね。


 簡単だが、食事をする。美咲ちゃんも優子さんが炊いたご飯と、おかずの缶詰めを食べている。


 食事が終わると、暗くなってきたので、体を拭いて寝ることにする。

 寝るのは優子さんと美咲ちゃんが、603号室の優子さんの部屋の寝室。オレは、優子さんの部屋のダイニングで寝ることにする。これが一番だろう。ちょっと、寂しいけど…


 横になって数時間は経っただろうがなんだか眠れない。


 つい、美咲ちゃんのことを考えてしまう。


 美咲ちゃんはゴブリンにならないのだろうか?

 実はこれが準備期間を区切った、最大の理由だ。

 世界が崩壊して、3ヶ月以上たつ。これほどの期間、ウイルスに感染しないなどあり得ないだろう。

 なら、美咲ちゃんは・・・いずれ、ゴブリンになるのだろうか?

 それとも、オレや優子さんのような変異をするのだろうか?

 美咲ちゃんがゴブリンになってしまったら、オレはどうするんだ?殺すのか?


 結論は出ない。出る訳も無い。


 オレが悩んでいると、優子さんが寝室から出てきた。どうしたんだろう?変な物音とかはしなかったから、トイレかな?


 優子さんはそのままオレの横にそっと潜り込んできた。


「どうしたの?」


「うん・・・」


おそらく、優子さんも美咲ちゃんのことを考えていたのだろう。


「美咲ちゃんは?」


「大丈夫。ぐっすり寝てる。ちょっと、よだれたらしてたけど」


優子さんが小さく笑う。オレもつられて小さく笑う。


「優子さん、美咲ちゃんは大丈夫だと思う?」


オレの医学に対する知識は素人レベルだ。優子さんに聞くしかない。


優子さんは、少し悩んで、

「これまで、大丈夫だったんだから、大丈夫だと思う」

「美咲ちゃんは変異してるの?」

変異していれば、大丈夫だと確信があるわけでは無いが、安全性は上がるだろう。

「…お風呂で見た限りは無かった」

「そっか」

う~ん、やはり変異してないのだろうか?

「でも、美咲ちゃん、目が痛くなって、気を失ったことがあるみたいなの」

ん、目か。

オレは、美咲ちゃんが怯えないように、あまり美咲ちゃんと視線を合わせていない。

それだと優子さんの耳のように、特定の部位に変異が起こった可能性があるな。

というか、全身が変異したオレの方が特殊なんだろうか?


 オレ達は、できるだけ顔を近づけ小声で会話する。


・・・実はこの体勢、いろいろとキツい。小声で話していた為にオレと優子さんはどんどん密着してしまっている。そうすると、どうしても胸の感触やいい匂いを感じる。なので、当然、反応してしまう。仕方ないんや。男なんや。


「あっ」

優子さん、どうしたの?

反応してるのが、バレた?

「美咲ちゃん、起きたみたい」


しかし、今さら寝室に戻れなかったのか、オレの横で優子さんは寝たふりをした。

優子さんはオレの影に隠れようとしてさらに密着してくる。

いや、マズいって、優子さん。この体勢は誤解されかねない。


オレが慌てている間に寝室の扉が開く。


美咲ちゃんが、寝室から出てくる。

美咲ちゃんは、本当にトイレだったのだろう。寝ぼけているのか、ちょっとふらふらしているみたいだ。


停電しているので室内は、ほぼ真っ暗だ。


オレも足音と気配で探るしかない。優子さんの耳なら情報は多いのだろうが、現在、絶賛たぬき寝入り中だ。

美咲ちゃんの方をこっそり観察していると、美咲ちゃんの足音が止まった。


暗くて、トイレがわからないのかな?でも、なんか、こっちをじっと見てるようなシルエットが見えるんだが?


「…うッきゃ〜!」


美咲ちゃんの悲鳴が室内に響いた。美咲ちゃん、大きな声出るんだね~


 結局、美咲ちゃんは目を中心に変異しているらしい。

あの暗闇の中、きっちりと物が視えている。普通の人間には不可能だろう。


良かった。

 これで、美咲ちゃんがゴブリン化する危険性は激減したといっていいだろう。

本当に、良かった。


 現在、優子さんが美咲ちゃんを慰めている。

「真人お兄ちゃんは、ひどいよね~」

うずくまって、顔を押さえている美咲ちゃんの頭を優子さんがよしよしと撫でている。

美咲ちゃんの悲鳴を聞いた優子さんは、懐中電灯をつけ美咲ちゃんの姿を確認した。

美咲ちゃんは、うずくまり顔を押さえて、オレの方を指差していた。

正確には、オレの股間部分を…

変異して全身が巨大化したオレにはパンツもキツい。なので、さらに巨大化すると不本意ながらパンツから一部が飛び出してしまう。


そして、その時オレはそうなっていた。

暗闇を見通す美咲ちゃんの目には、ばっちり見えたらしい。

いや、オレが悪いのだ。

しかし、オレだけが悪いのだろうか?美咲ちゃんに聞かれないように小声で話さないといけなかったのはわかる。しかし、あんな体勢なら、男なら誰だって反応するだろう!いわば、不可抗力!

 オレの言い訳は、優子さんと美咲ちゃんの耳には、一切、届かなかった。優子さん、聞こえてるくせに…


 とりあえず、美咲ちゃんの変異は、無事確認された。

 オレの信用と引き換えになったが…


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