マンション編12
●私と立花くんはお部屋の前でお別れ。
私は6階から、各部屋を調べる。立花くんは、ちょっと不安そうな顔で階段を降りて行った。私もちょっと不安だが、この階は立花くんが安全を確認してくれている。いつも二人一緒に行動することはできないので、私は私でがんばらないといけない。
ちょっと、力が必要だったけど、ドアの鍵は立花くんが壊しているので、室内に入ることができる。
私は、601号室に入る。ここは、一人暮らしの男性の部屋だ。ここに住んでいた人は、どうなったのだろう?
私は、まずダイニングから探索を始める。食料やカセットボンベ、電池などを探す。う~ん、電池は見つかったけど、カセットボンベは無いみたい。ここの住人は、キッチンで食事を作っていたのだろう。ちなみにキッチンはIHなので、停電した今は使用できない。
私はキッチンで食料品を探しながら、さっきの立花くんの言葉を思い出す。あの言葉からすると、立花くんには現在、彼女は居ないように感じる。立花くんの性格だと、彼女がいるなら、まず何があっても彼女のとこに行っていると思う。いや、でも、もし、彼女が海外とかなら行けないだろうし、う~ん、やっぱり、ちゃんと確認しときたい。
私がこんな状況なのに、こんなことに拘るのは生い立ちと過去が少し関係している。
私の母はシングルマザーだった。私と同じ、看護師をしていたけど、母は若い頃に、妻子ある男性と恋に落ち、私を授かったのだ。母のことは、女性としても、看護師としても、尊敬しているけど・・・
過去の事は・・・
うん。大丈夫。たまに思い出すこともあるけど、もう私は大丈夫。色んな人に助けてもらった。もう、ちゃんと傷は塞がっている。
私は、601号室を調べ終えて、5階に移動することにする。残念ながら、601号室に食料はなかった。たしか、5階は一人しか住んでなかったはず。表札が出ている部屋の探索を行う。この部屋も男性の一人暮らし。このマンション、単身者が多いよね。私も一人暮らしだけど
私の耳に感じていた、立花くんの気配が遠ざかる。
どうやら、2階に移動したみたい。変異で変化した私の耳だけど、音が良く聞こえるだけじゃなく、気配的なものも感じやすくなったような気がする。でも、さすがに5階から2階だと立花くんの気配を感じることはできない。
ちょっと、不安を感じながら、5階の探索を続ける。
う~ん、あまり、役にたちそうな物は無いみたい。キッチンで、包丁を探す。さっき、立花くんが言っていたように、私も自分自身の身を守る為に武器を持った方がいいのだろうか?包丁はあったけど、これを剥き身で持ち歩くのは、かえって危険なような感じがする。包丁以外で武器になりそうな物はなんだろう?
探索を終え、部屋を出る時に玄関で傘を見つけた。もちろん入る時にもあったのだが、意識してなかったので見ていなかった。傘って武器にならないかな?調べてみると、先端部分は金属製で一応、尖っている。これを持って行こう。武器としては、たよりないけど逃げる隙が作れれば充分だし。
私は、自分が住んでいた4階に移動する。4階には、自殺した男性とゴブリンに変異した女性のご遺体がある。
まずは、その部屋から調べようと思う。ご遺体を放置しておくのは、心苦しいし危険でもある。
少し悩んで、自殺した男性の部屋から調べる事にする。いきなり、ゴブリンの遺体を調べるのは、ちょっと怖い。
私は気合いを入れて、402号室に入る。少し、匂いがしている。まずいかも知れない。私は、ハンカチで口許を覆って、浴室を確認する。
私は、出来るだけ冷静にご遺体を調べる。問題は、腐敗が始まっている事だろう。このままだと、危険かもしれない。でも、火葬は出来ないし、防腐処置も出来ない。どうすれば、いいんだろう。とりあえず、浴室から出て考えよう。
ダイニングに移動して考える。看護師だけど、こんな事態の知識はない。健常者の免疫なら感染症などは防げると思うけど、不安はある。私は室内を探して、ガムテープを発見した。ひとまずは、これで浴室を封印しよう。
私は、そのまま401号室に移動する。こちらは、すごい匂い。立花くんがゴブリンになると、トイレも理解できなくなるらしいって言ってたけど、そのせいなんだろう。
私は、しっかり口許を覆って、室内を確認する。ゴブリンの死体は、首が変な方向に曲がっている。この部屋は、完全に消毒しないと危険だけど、消毒なんて出来ないし、封印するしかない。
気をとりなおして、私の隣室の探索を行う。この部屋は安全を確認しただけで、立花くんは探索はしなかった部屋だ。
キッチンを探すと、インスタント食品やレトルト食品、お米などが見つかった。私と立花くんの二人なら、1週間分ぐらいかな?
ダイニングも探して、寝室に向かう。
寝室のクローゼットには、服がたくさんあったけど、ちょっと、サイズが違うのでそのままにしておく。
クローゼットの引き出しには、下着が入っていた。お付き合いしていた相手の趣味なのか、ご本人の趣味なのか、結構、過激な下着もあった。
・・・それに、いろいろなお遊具も
・・・上級者だったんだろうか。顔が火照ってくる。
私は、ダイニングに戻り、火照った顔を扇ぐ。
そんな事を考えていたせいで、私は完全に油断していた。近づく気配に気付くのが遅れたのだ!何かが近づいて来る。立花くんじゃない!
私は、ベランダを見る。そこには、ベランダに這い上がるヒトのような姿があった。
私は、ドアに向かって走る。靴を履くことなんて、考えもしなかった。
そのまま、素足で廊下に出る。
私は、咄嗟に立花くんの部屋に向かって階段を駆け上がる。
しまった!立花くんは下の階を調べている!下に行った方が・・・
でも、少し後ろから、足音がする。もう、戻れない!
私は、そのまま6階の立花くんの部屋に向かう。あそこなら、ドアに鍵が掛かる!
必死に走る。私、なまってる。学生の時のように、体が動かない。
足音が、少し近づいたように感じる。
怖い!
あと少しでドア!
でも、すぐ後ろまで迫ってきている。
これじゃ、鍵が出来ない!
私はドアを弾くように開き、室内に駆け込む!
目の前に扉を開けっ放しにしていたダイニングが見える。
ダイニングに入る。でも、後ろに気配がある。
私はとっさにテーブルに置いてあった、朝、おうどんを茹でたお鍋をダイニングの窓に思いっきり!投げた!
ガシャーン!!
お鍋は窓を砕き、そのまま空に消えていく。
お鍋を投げた私の背中を押された。
私は、バランスを崩し、床に倒れこむ。
その私の背中に誰かが乗ってくる。
立ち上がろうとしたけど、後頭部を抑えられ、立てない。
痛い!
私の頭が床に押し付けられる。
痛いけど、我慢できる。
だって、私の耳にはもう足音が聞こえているんだもん!




