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桜野駅前の街頭アンケートのアルバイト

「はぁ、ダルいなぁ……」


昼食を求めて歩く人たちでやおら活気づく桜野駅前。

俺は、バインダーを片手に立ち尽くしている。

大学休みでの帰省中、実家近くで割りの良い街頭アンケートのアルバイトを見つけたはいいものの、こんなにも大変だとは。

アンケートの内容は街の人々のお仕事に関するもののようだが、このアンケートがどう使われるかは聞かされなかった。

聞いても仕方のないことではあるが、ちょっとだけもやもやした気分だ。

人に話しかけるのは得意なほうだと思ってこのアルバイトに応募したが、大半の人に煙たがられているとさすがに疲れてしまう。

しかし何もしないでいると、今年から始まる就活のことで頭が一杯に……あぁもう!やめやめ!

とにかくいろんな人に話しかけよう。当たって砕けろだ。

改めて気合を入れ、前方から歩いてきた話しかけやすい雰囲気の男性に声を掛ける。


「今、お時間よろしいですか?」

「あ、いいですよ。どうされました?」

「ただいま街頭アンケートを実施しておりまして……ご協力をお願いしてもよろしいですか?」

「あぁ、アンケート! お昼からご苦労様です! 大丈夫ですよ」

「ありがとうございます! では、さっそく質問に移らせていただきますね……」


―――――――――――――――――――――――――――


Q.ご職業は?

A.スーパーの副店長やってます!


Q.働き甲斐はありますか?

A.うーん、あんまり無いですね!

毎日ほとんど同じことの繰り返しだし、朝は早いし。

在庫の管理、売り上げの把握、パートの方たちの勤怠管理……ほとんど雑務みたいなもんです。

お客さんたちと実際に接するのは、ほとんどパートやアルバイトの方たちだし。

働き甲斐、あんまり感じれてないのかも(笑)


Q.仕事をしていて良かったなと思う瞬間はありますか?

A.そうですね……。

あっ、たまに表に出た時に、お客さんに挨拶された時とかは、気分が良いですね!

よく見かけるご老人とか、小さいお子さんとか。

声掛けしてくださると、「あ、自分もちょっとは役に立ってるのかも」なんて思っちゃいますね〜。

あ! あと、僕の上司ですごい堅物っぽい男の人が居るんですけど。お酒を飲むと人が変わったように明るくなるんです。それが面白くて。

ごほん。それは置いといて、そういう同僚との出会いも、この仕事でしか出会えなかった訳で。

良かったな、と思いますね!


―――――――――――――――――――――――――――


なるほど。スーパーのバックヤードって色んな仕事してるんだなぁ、知らなかった。

当たり前だけど、普段俺が買っているお菓子や洗剤も、それを並べている人や入荷している人がいるわけで。

そういう、俺の生活に密接なのに顔を合わせることがない人が、さっきまで目の前にいたなんて。

なんだか不思議な気分だ。


さて。一人に話を聞けたらなんだか元気が出てきた。

この調子でどんどん声を掛けていこう。

次は、あそこの大きな手提げを持った女の人だ。


―――――――――――――――――――――――――――


Q.ご職業は?

A.洋菓子製菓メーカーの工場で働いてます。


Q.働き甲斐はありますか?

A.無いです。仕事をしてる途中は、ずっとほかのこと考えてます。もちろんラインを止めないように気をつけてはいますが。


Q.仕事をしていて良かったなと思う瞬間はありますか?

A.お給料を頂く瞬間です。

日々の生活はもちろん、特に漫画の新刊を買う日には、とても嬉しい気持ちになります。

あと、私事なのですが、趣味で漫画を描いていて。

仕事中も頭の中で漫画のネタを考えられるのは、この仕事で良かったな、と思う瞬間ですね。

お陰様で、今度自作の漫画を賞レースに出すことになったんです。

そういう夢を追い続けられるのも、今の勤め先のおかげなので、そこは感謝してます。程々に。

あー……あと、時々、私が作った洋菓子を卸してるカフェの前を通ることがあるんです。

そこでお客さんたちが、私の作ったお菓子を食べながら談笑しているところを見るのは……ちょっと好きです。

自分で買うことはしませんけど。見飽きてるので。


―――――――――――――――――――――――――――


漫画家かぁ。

懐かしいな。小学校の頃は、俺も漫画描いてたっけ。

今でもよく漫画読むけど、描くまではしないなぁ。

働きながら、夢を追いかけて……。すごい。

そういう働き方の人もいるんだなぁ。


さてさて。かなりリズムよくいけてるんじゃないか。

次はあそこの、スーツを着たサラリーマンふうのおじさまだ。


―――――――――――――――――――――――――――


Q.ご職業は?

A.製造業の積算部で働いています。


Q.働き甲斐はありますか?

A.大いに有る……とは言えないです。

一日中デスクに釘付けでパソコン作業ばかり。

会話するのも、同じ部署の社員か、営業や現場など同じ会社の人ばかり。

変化があるとは言い難く、自分の仕事が役に立っていると感じられる瞬間もそう多くはないです。


Q.仕事をしていて良かったなと思う瞬間はありますか?

A.そうですね……。

自分には娘がいるのですが、娘に誕生日のプレゼントを用意して、あの子のお誕生日を祝った日の夜。

あの子を寝かしつけたあと、もし今の会社で働けていなかったらこの幸せはなかったのかもしれない……と思ったんです。

あんまり人に感謝されることのない仕事ですが、その日ばっかりは今の仕事をしていてよかった、と思いましたね。

スポーツ選手や芸能人のような人に自慢できる仕事ではありませんが、家族の誕生日を祝うことが出来ている。

十分、仕事をしていて良かったと言えると思います。


―――――――――――――――――――――――――――


……すごいなぁ。

もし自分が働くようになったとして。

もし自分が父親になったとして。

そんな風に思える日が来るのだろうか。

……ちょっと想像がつかない。

うちの親父はどうなんだろう。

親父から仕事の話なんて聞いたことなかったなぁ。

晩御飯のとき、ちょっと話しかけてみるかな。

就活のことも相談してみよう。


よーし、まずはこのアルバイトをしっかり終わらせなきゃ。

俺は一層気持ちを引き締めて、街行く人に声を掛ける。


「こんにちは! 今、お時間大丈夫ですか?」

・桜野台駅

電車は、桜野台の住人が街の中と外を行き来する主要な公共交通機関の一つ。

今日も今日とて、桜野台駅にはいろいろな人が集まっては散っていく。

行き交う人々の人生が垣間見える瞬間は、そう多くない。


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