第8話「隠蔽の禁忌」
僕達はギルドから数時間掛かる街の外れに来ていた。
屋敷の掃除依頼など本当に気が乗らないが、数週間は持つ程の高単価な依頼だったので仕方なく受けた。
「Bランク級と言っていたので魔物が現れるかもしれませんね」
前世でライトノベルを貪り食っていたのでこういう展開には詳しいのだ。
「確かラクロさんもB級パーティに所属していたらしいですよ」
ラクロでB級......
本当に僕らが受けてもいい依頼だったのだろうか。
屋敷の屋根が見えた、前世の世界でもあったような金持ちが住んでる家とほぼ同じの外見だな。
「それじゃあ入りましょうか」
僕達は事前に受け取っていた杖を装備しドアノブを開いた
中もそこまでゴミが散乱している程ではなく、前世でもほとんどの家がこのくらいであろうという汚さだった。
とにかく埃やゴミを焼き尽くせばいいのだろう。
「ファイヤーシルフ」
杖を持って魔術を使うのは初めてだ。
僕の杖からは蒼炎が飛び出した――
部屋の半分以上が新品同様の美しさへと変貌する。
「今、略称しませんでしたか?」
青髪の魔術師アイセラが口を開いた。
確かに「ファイヤーシルフ」としか言わなかったような――
その瞬間
足の裏から振動が全身に轟いた。
「何かが破壊される音......?」
連続して音が鳴り響き、地表へと近づいてくる。
僕は脳裏に"危険"の2文字が浮かんだ
「3人ともこちらへ来てください!転移します」
転移の準備ができた。
......は?
転移魔法が発動しない
なんでだ
どうして
早く逃げないと
早く
「みんなは扉から逃げてくれ。俺が鎮める」
すでに情が出来始めていた僕達は言葉を無視し四方向に背中を合わせて気を張った。
一息が重苦しい。
一定間隔で鳴り響く轟音に集中していたが、来るはずのない突然の空虚が訪れた。
皆の鼓動がよく聞こえる
「危機の着陸だ」
ナダユキさんが口を開いた、その言葉の意味に考えを巡らせようとした。
そんな暇もなかった――
僕達は無意識に空を見上げた
空を見上げる僕達の足元は奈落の底になっていた。
フィリアが"奴"に飛びかかり首元へと刃を振るった。
そして攻撃は無意味に散り、フィリアの意志が折れる音がした
"奴"は止まることなく襲いかかってきた。
「マテリアルマニフェスト!」
僕は近くにあった砲弾を変換させて"奴"の体中に埋め込んだ。
ああいう敵は外が硬いって決まってるからな、内部から攻撃をすれば......
所々が白色に灯され、同時に体が痺れるような痛みに襲われ。
"奴"の体は内側から爆発し部屋全体へと飛び散った
それはまるで生き物のようだった。
「なんでよ......」
フィリアは涙を流しながら折れた剣を抱いていた。
「パパ......」
それは父親の形見だったらしい。
慰めて......いや、今はそっとしてあげよう
泣き顔を見られるのは誰も好きじゃない。
次の瞬間アイセラが口を開いた
「皆さん、これってなんですかね?」
そこにあったのは"奴"の頭部
機械だった。
だから爆発したと同時に電気が走ったのか、流石のフィリアでも機械を断つのは厳しい。
「その頭見せてもらえませんか?」
よく出来てる、前世でも難しいであろうロボットをよくここまで......
頭を持ち上げて視線に合わせた。
何か風を感じた
風を感じるのは何もない壁だった
......穴?
直径2センチほどの穴が開いていた、僕は好奇心で壁をぶち壊したくてしょうがなくなってしまった。
よし開けよう今すぐ
「アイセラさん、ドリルって魔術で作れますか?」
ドリルで削れば開けれるだろう、火炎魔術は今がないからな。
「はい、作れます」
アイセラは杖を構えて詠唱を始めた
「ゴーレムよ、我が地上の民に
大地の導きを与え。
全てを鋼削せよ!!
ドリルキャノン―――」
杖の先に土が集まり固まり、また集まり固まる。
そうして土は変形して廻り全体が赫く染まる。
次の瞬間、ドリルは瞬きの間に扉を貫いていた。
音は後に鳴った。
「ありがとうございます。それじゃあここを探索しましょう」
アイセラとナダユキはすぐに立ち上がったが、フィリアは俯いたままだった。
「行きましょう」
フィリアの辛さは皆分かっていたので特に触れることなく進んだ。
奥には暗闇が続いていて、いかにも過ぎる隠し部屋であった。
「あの、私達掃除の依頼してるのに入っても大丈夫なんですかね?」
今更過ぎる事を言うな、可愛いから許す。
そうしてようやく扉が見えた、触れるのも危ない気がする。
扉が開いたので光魔法を使ってもらい、部屋を見渡した。
机や本棚が沢山ある
「この本、読めない字だ」
ナダユキが何の警戒もなく本棚に触れた。
その瞬間本棚が動き、扉が現れた。
前世でもよく見た仕掛けだ、この世界でも似たような機械を作れるのか?
扉に手をかけようとした。
全身に鳥肌が走り、微かな金属臭が鼻を刺激した、ここを開けてはいけないと五感全てが警告している。
それでも、僕の直感が手を伸ばせと語りかけてくる。
後ろの2人から強い視線を感じたが、それすらも無視して開けた。
扉を開けた時から腐敗臭と金属臭の連鎖が止まらない。
体が臭いに対応しようとしても臭いが入れ替わり、ストレスばかり溜まっていく。
その奥から神々しくも禍々しい"斧"があった。
臭い、見た目、風、聲、口の中全てが"魔人"を連想する。
五感は全てを否定していたが、触るべきだと思った。
けれど直感すらそれを裏切った。
後ろから悲鳴が聞こえた。
先程倒したはずの機械が1...2....11体?
夢なら覚めろ。
「ノルディア君動け!」
言葉を聞いて反射的に杖が動いたが、攻撃は発動しなかった。
光魔法発動時の感覚が体を襲う。
なら片手は杖に任せるべき、そう感じて背中の剣を抜いて踏み込んだ。
まずアイセラを襲っていた機械の四肢に刃を振るった、腕は弾かれる事なく通過した。
関節部分には攻撃が通る!!
「大丈夫でしたか?」
アイセラは顔を俯いた、耳が赤い。
「とりあえずフィリアのところに行きましょう!」
とはいえこの数から隙をつくのは少々厳しい、どうにかして一網打尽にできれば。
フィリアが安全とは限らない......
ナダユキが前衛を務め、僕はアイセラを守る。
これじゃあ一向に終わらない。
耐力切れでバッドエンドだ、こんな所で人生終わりたくねえよ。
僕の理想を終わらせたくない
上から空気が圧迫されていく感覚、フィリア?
奈落から希望の世界に満ちた。
「フィリア!」
フィリアの姿と赤い眼を見て安心と後悔が迫りよる、けれど今はそんな状況ではない。
フィリアは扉の方向に突き進んだ。
あそこは"斧"が......
「従え」
知らない声がフィリアから聞こえた。
重苦しい声が。
「後は任せなさい――」




