第18話「拠り所」
僕はギルドに来ていた。
彼女とナダユキと共にあの男の子と話す為に、彼らの居場所を探している。
情報収集をしているはずなので、ギルドにいると思ったのだが......
いるのはやけ酒のおっさんばかり、せめて女の子でもいればなぁ。
「あの女マジでダサくない?」
お、女の子達が女子会をしている!
しかも顔もスタイルもいい、話している内容は全然可愛くないけど。
「青髪ってことは魔族でしょ?」
「魔族のくせにあんな喋るの下手なの面白すぎ」
修学旅行の班を作る時に見た女の子に似ているな、面影やら性格やら。
あまり話したくないなあ。
「でも隣のイケメンはカッコよくなかった?」
「ね!ナダユキだっけ?」
ナダユキ?
もしかして、さっきの陰口って......
「あのアイセラってやつでしょ、気持ち悪いの」
「足引っ掛けたら転んでたもんねw」
抑えきれなかった。
苦手になっていたアイセラの悪口を聞いて、なぜか腹が立った。
僕は考えるよりも先にぶん殴っていた。
「何してんのお前、調子乗んな!」
叫んだもう1人がよそ見をしている間に、転移魔術で背後に回る。
そのまま腕を首に回し、軽くチョークスリーパーを決めた。
「ギブ、ギブギブ」
我を忘れて首を絞めていた僕は、苦しそうに顔を赤くしているのを見てようやく止めた。
周りのおっさんが静まり返っている。
丁度いい、これなら言うことも聞いてくれるかもしれない。
「そのナダユキって人どこにいましたか?」
怯えた彼女達はすぐに居場所を吐いてくれた。
「本当に反省してるのかなぁ」
「してます、なんでもするから許して!」
その時、背後から扉が開く音がした。
そこにいたのは青髪の少女......
「なに、してるんですか」
扉から入って来たのはアイセラとナダユキだった。
目は見れなかったけれど、ますます冷たくなった気がする。
しっかりと腕にはアザがあった。
「これは、誤解です......」
少し間があったあと、彼女が口を開く。
「そうですか、気持ち悪い」
小さな声だった、でもとても聞き取りやすい声でそう言ってきた。
僕は世界が回る感覚に陥った。
君のためなのに。
「すみません」
――
あの後、事情を説明した僕は3人で病院へ向かっていた。
2人の会話に入らないでただ隣に歩いている僕は、少し寂しかった。
病院はもう見えているのに、何時間も1人きりで歩いているような感覚。
とても気持ち悪い。
そうして自己嫌悪しながら僕は、ようやく病院に着いた。
「窓から行きましょう」
正面からだとあの子のところには親族しか行けない気がする。
かなり重い病気だからな。
割れた窓からガラスの破片が刺さらないように中へ入った。
「戻って来たよ、さっきの話を続けよっか」
2人増えたからか、男の子はさらに嬉しそうだった。
「あれ、なんでお兄ちゃん苦しそうなの?」
その言葉に、僕は俯くことしか出来ない。
2人の前で弱音を吐きたくなかった。
「話を続けよう」
少し強い口調で喋ったせいか、笑顔が苦笑いに変わった。
「お父さん、お母さんはなぜ魔人に?」
「お父さん、大会にも出てた剣士だったんだ」
「でも女の子に負けて、それでお酒飲んで僕たちをいじめたんだ」
「そしたら突然けんけつするよって言ってさ、お兄ちゃんは学校だったから置いて行って3人でやりに行った」
「それで?」
少年の顔がますます暗くなって、胸が締め付けられる思いだったが、仕方なく話の続きを促した。
「注射されそうになったから、僕は無理やり外したの、そしたらお父さんとお母さんが......」
涙を溢しながら語ってくれた少年は、少しずつ青ざめていった。
「僕は、その後病気になって......」
少年は何かに気付いたかのように目を見開いた。
少年から呼吸の音が聞こえなくなった。
「あの注射の、せい?」
「違います、偶然ですよ」
彼女が食い気味に答えた、きっと少年の為だろう。
その言葉に正気に戻った少年は息苦しさに鼻水を流した。
彼女はそんな少年の手を握りしめて、嗚咽していた。
俯いていたけれど、水滴の音がかすかに聞こえた。
「お父さん、何もしてないよね」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、そう聞く姿は惨めに見えてしまった。
数十分少年を慰め続けた彼女は、ようやく落ち着き。
暗くなって来たので帰ることになった。
少年は笑顔で僕達を見送ってくれた。
そうして帰宅した僕は、布団を被って静かに枕を濡らした。
――
朝起きてすぐに、昨日の少年を思い出して涙が垂れた。
あんなことがあったら、生きたくないと思ってしまうのも当然だろう。
僕はすぐに身支度を済ませて、少年の元へ走った。
寝ている少年を見て、可哀想、可愛い。
その二つの単語が入り混じった気持ちの悪い感情が僕の心を動かした。
少年を無理やり起こして、一つだけ聞きたいことを教えてもらった。
「おはよう」
ぼーっとしている少年に続けて質問をした。
「お兄さんは何してるの?」
あくびをした少年は、背伸びをしてこう答えた。
「兄ちゃんは僕のためにずっと仕事してるの」
「死にたい理由って、それ?」
沈黙の後、口を開いた。
「うん」
その一言で、僕はこの街ですることを決めた。
彼に生きる理由を与える。
少年のためにも、兄のためにも、それが一番だ。
「後3日、それまでに生きる意味を与えてやる」
少年は困惑しながらも頷いた。
僕は深く息を吸った、痛み、恐怖、悲しさ。
今はそれを全て忘れよう、そう決めて息と共に吐き出した。
そうしてナダユキ達が来るまでに、ギルドで作戦を考えた。
何十分も思考し続けた、それで決まった作戦は。
扉の鈴の音が開いた瞬間、僕はみんなにこう伝えた。
「ハンバーガーを作ろう!」
ナダユキ達だと思っていた、ギルドに来ていたのは酒臭いおっさん達だった。
おっさん達は苦笑いをしながら僕から一番遠い席に座った。
僕が悪いのか??
その後、ナダユキ達が来た時にもう一度作戦を説明した。
2人はその名前にピンと来ていなかった。
「ハンバーガーってなんだい?」
「ふわふわのパンでお肉と野菜を挟んで食べる、とても美味しい食べ物です」
そう伝えたら、彼女は嬉しそうな表情をしていた。
彼女のこんな表情を見たのは久しぶりな気がする。
とりあえずこれからの予定が決まった。
1 食材を集める。
2 調理をする。
3 少年を喜ばせる。
3日間しかない。
その間に全てやらないといけない、なんで3日間って言ってしまったんだろう......
でも、少年と彼女との仲のために死ぬ気で頑張ろう。
やっぱり僕は、彼女を完全に嫌いにはなれない。




