第11話「不安定な歯車」
ベッド脇の数枚に渡るカレンダーは既に4枚破いた。
外から聞こえる悲鳴、喘ぎ声、怒る声、歓喜、産声。
全部消えてしまって良いだろう。
僕が望んでいないのなら消えてもいい。
何も支障はない
僕は何もしていないのだから。
定期的に起こるドアの揺れと外からの怒声に心臓を揺らせては安心する。
異世界転生なんて生易しいもんじゃない。
魔法と魔物が居て、死人が多いだけの世界。
誰もこんなの知ってたら来たくなかった。
そもそも無理やり僕は連れられて来たんだ、少しはここに連れて来た奴の責任だ。
アイセラの妄想をしては少し幸せになって、すぐに賢者タイム。
そして緩やかに幸福度は下がっていく。
一時的な幸せを求めるのも悪くない、全て自分に返ってくるし。
誰にも迷惑はかけていない
明日行こうは今日を正当化するだけの無駄な言霊だ。
言霊と言うのもおこがましい。
だから僕は明日行こうなんて思っちゃいない。
外に出ていくかどうかは、思いつきの自分に任せようと思う。
あんなに濃い非日常から、生ゴミと変わらない日常を過ごす毎日。
全てに迷惑を掛けても、ただ自分が良ければ良い。
......それは嘘だ。
自分が良ければ良いのなら、こんなにあの人達の事を考えたりしない。
今も父様は意味のない労働をしている。
集めてる素材を使う相手はもういない。
僕が見捨てたから
つい窓から外を見ることがある。
外を眺めても罪悪感が押し寄せるだけなら、もしも外に出たら死んでしまうだろうな。
本当にそうなるかは一生分からないだろう。
出る気がないから。
全部変わったと思ってた、自信も出来て。
この世界で結婚も視野に入れていた。
外も段々と暗くなる。
まるで僕の未来みたいだ。
もうとっくに彼女いない歴が成人していた。
お酒も飲める。
飲む相手なんかいなかっただろうな。
どの平行線でも引きこもっちまうんだ。
未来なんか、俺にとってはただ隠れるだけの日常に過ぎなかったんだな。
明日は何をしようか、この生活も飽きて来た。
ドアノブに手を近づけると鼓動が鳴り止まなくなる。
そうだ、どこかへ逃げよう。
鳥になってどこかへ......
そうしよう。
それにしても外がうるさいな。
チンピラか......
嫌な思い出しかない。
アイツらのせいだ。
吐き気を催す。
こんなこと考えるのはやめよう、もう何もかも
何で引きこもったのすら曖昧だ。
化け物が現れたから?
......誰にも話さないんだから考えるのはやめよう。
意味のない行動だ。
でも、人は意味のない行動をするからこそ。
人生は幸せに
次の瞬間、扉が破壊された。
二人の男がのしかかって来た。
人と目を合わせるにはどうすれば?
謝り方は?
そうだ。
ここは僕の部屋
「ここ......僕......屋ですよ」
違う、そうじゃない。
何も聞いてない、良かった。
やり直そう
「すみません、外に出てもらえませんか?」
あれ、ドアが壊れてる、どうやって部屋を隠そう。
ガムテープ?
いやそんなのない。
「うるせえな、ガキが出ていけよ」
取っ組み合いをしながら男は口を開いた。
目は完全に冷え切ってない。
久しぶりに人の匂いを嗅いだ、泥臭い匂いだ。
この世で一番怖いのは人だ。
何も考えていない促し、何も考えていない感謝、何も考えていない慰め。
考えが分からないのが一番怖い。
だか
「早く出てけよガキ」
出ていくわけがない。
出ろと言われて出れるなら引きこもっていない。
今更出てくのも嫌なんだよ。
プライドだ。
一人の男がこちらへ歩いてくる。
目を瞑った。
殴られはしなかった、けれど胸ぐらを掴まれて。
宙に浮かんだ。
今までの否定は全て無駄になり、呆気なく外へ放り出された。
ずっと運動をしてなかったせいか、受け身を取れなかった。
全身が服に触れられる度に泣き叫びたくなる。
朝日が昇り始めている。
今、体が照らされてしまったら。
誰かに見つかる。
吐き気がする。
世界が僕の為に動いてくれない。
視界がぼやけてきた。
考えるのすら、痛みで邪魔される。
それならいっそ
死んだ方が――
次の瞬間、何かが落ちる音がした。
音がした方向に目を合わさるのすら辛い。
人の気配がするから。
その時、何かが訴えかけてきた。
そうだ、僕はもう。
後悔はしないと決めたはずだ。
振り向いた先には、日光に照らされた人影があった。
けれど眩しい......
目を閉じてしまった。
「ノルディアさん?」
聞き覚えのある声と、自分の名前を久しぶりに聞いた。
もう瞼は熱くない。
けれど、心の片隅で開きたくないって思ってしまう。
足音と共に、誰かが近づいてきた。
僕はその人に抱きしめられて、倒れてしまった。
暖かくはなかった、匂いも良いとは言えない。
けれど、僕の心は。
優しさに暖まれた。
恐怖は少しある。
ただ、この幸せを何も言わずに噛み締めたい。
もう後悔なんてしたくない。
瞼を開いた。
太陽の眩しさに目が細くなった。
でも、顔は見えた。
僕の瞳は涙を垂れ流して、震えた口を開いた。
「ありがとう、アイセラ」
青髪の少女に、未来の希望を心に刻まれた。
あの日の彼女と何も変わっていなかった、僕の感謝に彼女は。
照れながらも喜んでくれた。
まだ、死にたくない。
今日は小説を書き始めて1ヶ月経ちました!
thank you!!




