第10話「哀れな停滞」
僕は引きこもった。
昨日、僕は守ると決めた。
けれど、あの街を置き去りにした事、フィリアから逃げたこと、魔人すらも一瞬で切り裂かれるこの世界に嫌気がさした。
僕はただ、アニメみたいに冒険して恋愛して、平和に暮らしたいだけなのに。
どうしてそれを許してくれないんだ。
アイセラはナダユキの看病で忙しい。
食料だって碌に取れてない。
やらなくちゃいけないなんて分かってるんだよ。
けど体が動かない。
後になって後悔が押し寄せてくる。
外にも出たくない。
なんか全部が面倒くさい。
明日から頑張ろう
今日で何日経ったんだろ。
もう2週間。
こんな短い時間で僕の心が回復するなら引きこもってなんかいない。
布団に潜りながら妄想しては自己嫌悪に苛まれる。
もういっその事この人生を......
でも、まだ死にたくない。
この人生に思い出なんてそんなにないけれど。
それでもまだ生きたい。
中途半端で言い訳ばっかするクソ野郎だなホント。
僕は冷たいパンと肉を頬張った。
食事の間は何も考えずに集中できる。
昔、フィリアと母様達とで食べたご飯。
暖かかったなぁ
幸せで、あんな時間がずっと続いてれば僕も死のうなんて考えないのに。
そんな希望すら打ち砕いたのは僕自身だ。
まだありえた未来すら捨てた。
フィリアの行方は知らない。
行かないといけない、けれど心の奥深くで根深くやりたくないという感情が埋めつけられている。
こんな事考えて何の意味があるんだろう。
アイセラに嫌われてないか?
ナダユキに飽きれられてないか?
フィリアは居なくなって......
苦しい。
フィリアのことを考えると責任が重くのしかかって来る。
......けれどこの状態が一番楽だ。
これを行けない理由にできる。
強いノック音がフィルターに通されて大きな音に聞こえる。
来ないでくれ、一人にさせてくれよ。
誰とも会いたくない。
見なくていい。
勝手にしてくれ。
「開けますよ」
アイセラの声。
今一番会いたくない、どう思っているんだろう。
怖い。
何も考えたくない
心の声などドア越しに通じる訳がなく、ドアノブは傾いた。
誰も望んでいない救済は非情だ、僕は暴言よりもこちらの方が苦しいかもしれない。
布団に潜りながらそう考える。
小さな軋む音と共に足音が近づいて、僕の隣で止まった。
息が苦しい、布団の中だから?
アイセラがいるから?
僕は口と鼻を抑えながら息をしないように耐える。
そして、足音が遠退いていく。
良かった。
まだもうちょっとこのままでいいや
数日前まで運んできていた食料は無くなり、食事を要求する事さえ恥ずかしい。
自責をしては何も考えず布団に潜り込んで心を落ち着かせる。
ただそれだけ。
頭痛が押し寄せてくる。
布団から立ち上がるたびに頭がクラクラして、
足の力が抜けて歩けない。
あーー
星ってキラキラしてるな。
外からは杖をつく音と咳が連続して聞こえてくる。
病院ごと転移したからか
あーあ
めんどくせぇことしたな
一人でやるか寝るかしかやることがない。
暇だからといって外には出られない。
今更出ても良いのかな。
誰も望んでいない事をしたらそれは嫌がらせだ。
あの時無視した事を謝りたい。
けれど言葉を話したくない。
そういえば最近口、開いてないな。
「あー......」
少し掠れているけれどあまり気にならない、声ってどんな条件で掠れるんだろ。
「ただ風に揺られて......」
鼻歌を口ずさんだ時だった。
物凄い爆発音と振動が響き、外が光に満ちた。
けれど、僕はもうそんな事気にしなくていい。
引きこもりなのだから。
廊下に足音が沢山、1、2、3
数えて意味なんかない。
何やってんだ、僕
数ある足音の中に、こちらへ真っ直ぐ向かってくる軽い足音が聞こえた。
まただ、布団に隠れないと。
扉は開かれ、ため息を吐き捨てられて、誰かは部屋を出て行った。
はぁ、こんな世界滅びちまえよ。
......でもフィリアは?
どこにいる?
父様と約束したのにな、守るって。
全然出来てないじゃん、俺
寝よ。




