第2話 選ばれし伝説のパーティー!?
俺の名はクオレ・ウォリエル。かつては王国随一の宮廷魔術師として栄華を極めた男だ。
王の横に立っているだけで、媚びへつらう下級貴族の袖の下だけで、領地から絞り上げた税だけで、巨万の富が注がれる。
そんな高貴な俺は冒険者ギルドの窓口で、受付嬢に言ってやった。
「はぁ〜〜!? 薬草採りぃ〜〜!?」
受付嬢の前でわざとらしくため息をついた俺は、つい語気を強めてしまう。
「君には私のこのローブが見えておらんのかね!? 私はもっとこう、こう……高位の、華やかな、貴族然とした任務をだな……」
だが、目の前の受付嬢は無表情で淡々と告げた。
「冒険者ギルドでは、すべての登録者がランクEの依頼からスタートです。高額な仕事をご希望なら、新しい宮廷魔術師様が弟子を広く募集されておりますので、そちらへどうぞ」
うぐっ、と喉が詰まる。
……くそ、あの小娘め。
そう、今の宮廷魔術師は俺の元弟子、エミス・ローレル。
王を後ろ盾に、あろうことか俺の研究室も屋敷も何もかもを奪い取ったあの娘が、今では庶民にも勇者の一員として人気らしい。
元・宮廷魔術師である俺はずっと王宮にいたので庶民には覚えられていないというのに。
「俺は……俺はクオレ・ウォリエルだぞ!? このローブが、ウォリエル家の証なのだぞ!?」
「それでは、薬草採取の依頼をお受けになるということで?」
「う、うぐぐ……」
ま、待て。ここで騒ぎ立てては、貴族の品位に関わる。俺は理性ある大人だ。冷静に……
「ふむ、まあ……状況によっては、薬草も有用だ。うむ、訓練と思えば……」
「お引き受けありがとうございます」
カリカリと書類に記入するその手つきも、まるで命令されたまま動く自動人形のようで、イライラする。
まるで、言われたことしかできないゴーレムのようだ。
「では最後に冒険者保険の加入の手続きを」
「俺ほどの魔法使いに保険が必要そうに見えるか? たかが草むしりだぞ」
その時後ろからやたらと大きく馴れ馴れしい声がやってきた。
「ねぇねぇおっさん! ローブ着てるってことは、魔法使いなんだろ?」
……おっさんだと? 貴様、俺を誰と心得ているのだ。
「お願い! 俺と組んでくれない? 高ランククエに行きたくてさ!」
見るからに快活、いや軽薄な若者。だがその腰に携えた剣は、妙に神々しい輝きを放っている。
それに鎧も、まるで鏡面のように磨き上げられた白銀。肩当てにはライオンの紋様。見間違えるはずもない。
「お前……ギルバートか」
「おう、ギルでいいぜ!」
魔王討伐の主役、勇者ギルバート。確か騎士団長の任も打診されたと聞いたが、「上下関係わかんねーし毎日同じの飽きるからパス」と断ったそうだ。もったいない話だ。
だが、俺を見込んで声をかけてくるとは……ふむ、見る目があるではないか。
「ふふ……小僧、よくぞこの私に目をつけたな。お前のような若輩が、このクオレ・ウォリエルの真価を見抜くとは——」
「いや、魔法使いが必要なクエストなんだよ。だから何もしなくていいぜ!」
「………………」
なんということだ。俺は……俺は、ただの人数合わせか!?
だが、提示された報酬額を見て、俺はその怒りを飲み込んだ。
一年はゆうに暮らせる額だったのだ。
「ま、まあ……仕方あるまい。困った若者を見捨てることなどできんからな」
「よっしゃ! じゃあ、手続きしてくる!」
ギルバートが受付に駆け込んでいる間、俺は何気なく手続き用紙を覗き込んだ。
「ふむふむ……依頼内容は……ランクSSS巨大炎龍退治……………ま、待ってくれ」
「じゃあ早速出発だおっさん!!」
庶民からしたらまるで太陽のような勇者の笑みだろう。
私にとっては魔王より恐ろしかった。
*
灼熱の空間だった。
ここは、ドワーフたちの坑道。だが今では炎龍が棲みついているために立ち入り禁止となっている。
辺りは熱気と煙に満ち、汗が滝のように流れる。
「……なぜ……なぜ私がこんな……」
ぶつぶつと文句を言いながらも魔法を温存しているのは、万一の時に自分を守るためだ。
「へー、俺さ、神具のおかげで炎も氷も雷も効かないんだよな〜。氷河でも泳げたし」
「…………」
「だから魔法使いいらないって言ったんだけどさ〜、受付の人も心配性だよな〜」
こいつ……!
くそっ、涼しい顔しやがって。いや、実際涼しいのか。あの鎧のせいで。
「そうだ、魔法使いのローブってさ、長さ変わっても効果変わんねぇんだろ? 前に一緒だった女魔法使い、ビキニで着てたぜ! その方が涼しいだろうから切っちゃえば!?」
誰がビキニなど着るかッ!!!
と怒鳴ろうとしたその瞬間——ゴォオオオッという轟音と共に、赤い巨体が姿を現した。
「来たなッ!! おっさん、下がってろよ!」
ギルバートは剣を抜き、まるで踊るように炎龍へ突っ込んでいく。
……本当に、出番がないな。
ならばせめて、己の快適さくらいは保たせてもらおう。坑道の中に作られた岩の柱の裏に行くと——
「冷却魔法」
自分にそっと冷風をかけた——その瞬間だった。
ゴォオッ!!
音が近づき、熱と光に包まれ——
「おっさぁぁぁぁあああん!!」
……意識が、途切れた。
*
次に目覚めたとき、俺は白く清潔な布地の服を着せられていた。見慣れぬ天井。消毒薬の匂い。……病院だ。
傍らには、ギルバートとあの受付嬢がいた。
「おっさん、なんで冷却魔法なんて使ったんだよ〜! 炎龍って、冷気に敏感なんだぜ? 気配消してても魔力に反応して突っ込んでくるって〜!」
「そ、そんなこと、知るわけなか……いや、つまりだな……」
言い訳しようとしても、言葉が出ない。
「でも運が良かったよおっさん。火球が直撃しなかったもん。柱が折れて上から倒れただけだったから、灰にならずに大怪我ですんで治療が間に合ったんだ」
うううう、幸運なことより火の玉と倒れてきた柱への恐怖を思い出し、シーツの下で手が震える。
受付嬢が立ち上がり、ギルバートを静かに見やった。
「勇者様、ここからは事務的なお話になりますので、ご退室を」
「あ、はい……」
若干ビビりながら部屋を出ていくギルバート。
そして二人きりになった。
「あなたの救出には、緊急脱出魔法と高価な回復薬を使用しました。こちらが、そのお代になります」
受付嬢がすっと差し出したのは、一枚の請求書。
そこに記された額面を見て、俺は絶句した。
「なんということだ……高級住宅が一軒建つぞ……!!」
「なお、以前ワタクシが『冒険者保険の加入の手続きを』と伺った際、あなたは『俺ほどの魔法使いに保険が必要そうに見えるか?』と大変ご立腹でしたので、今回はすべて自費となります」
嘘だろ……もうだめだ。これではまた、ローブを切り売りせねば。
「ということで、先にローブを切って立て替えさせていただきました」
「……ん、んん? ……短ッッッ!?」
受付嬢が返してきたローブを体に当てると、くるぶしどころか、すね丸出し状態である。
「よくお似合いで」
受付嬢は今まで無機質だったくせにここでにっこり笑いやがった。
どうも第二話です。
ここらあたりで「靴は?」と自分で突っ込みました。
某ネコ型ロボットのようにちょっと浮いてて裸足というのはどうでしょうか。
それとも靴下派の方いますか?ビキニ装備に靴下ですかそうですか。
※構成の一部にAI(ChatGPT)の力を借りつつ、アイデアと文体・推敲ははべろんによるものです。