第1話「ローブの終わり、始まりのくるぶし」
かつては王宮に君臨した、威厳とローブが自慢の魔法使いクオレ・ウォリエル。
しかし弟子の反逆と王の一声で、気づけば職も屋敷もローブの丈さえも失いかけていた!?
魔法を使うには“魔法の布”が必須!
だが高価なその布を切り売りして暮らす日々は、くるぶし、膝、そして――ビキニへと、危険な短縮ロードを辿っていく。
これは、誇り高き元・宮廷魔術師が、ビキニ魔法使いにならぬよう足掻く――
……そんな物語である。
かつて、魔法を安定させることは人類の課題であったが、先人たちが開発した布がそれを解決した。「魔力を織り込んだ特殊な布」を媒介として発動するのだ。生まれながらに魔力を持つ者であっても、それを制御し具現化するには、布が不可欠。巷では「魔法の布」などと呼ばれているが、正式には「魔織布」という。
この布は、繊細極まりない。純度が低い糸で織っただけで魔法は暴発するし、凡庸な布と組み合わせて着用すれば一切魔法は発動しない。つまり、Tシャツの下に魔法の布を着てはいけないのだ。センスがどうとかいう話ではなく、物理的に使えない。
この便利な発明品は当たり前だが、とてもとても高価な品物だ。庶民には縁遠く、貴族や国家の重鎮でなければ簡単には手に入らない。そして、面積が多くとも少なくとも身につけて使える魔法はその者の才覚次第であり全く変わらないのだが、金持ちは得意げにローブのような長布を羽織るのだ。哀れ極まりない貧乏人の魔法使いは、最低限の布、つまり——ビキニである。
ビキニを着るぐらいなら、魔法使いをやめれば良いというのに、卑しい者は本当に笑わせてくれるものだ。俺は国中の魔法使いの頂点、王宮魔法使いのクオレ・ウォリエル様なのだからな!!
そんなことには絶対ならない!!
*
王国に三年続いた戦火が終わった。人類の敵・魔王が、ついに討伐されたのだ。
王都が浮かれている。愚かな民衆だ。
あの下賤な者たちが「勇者パーティー凱旋」などと騒ぎ立て、通りは花と紙吹雪と愚鈍な笑顔で満ちている。
三年かかったなどと誇らしげに語る輩もいるが、三年もかかるとは無能の証拠でしかない。
戻ってきたのは、勇者、剣士に僧侶に弓使い、そして……魔法使い。そう、あの小娘、エミス・ローレルが含まれていた。私がかつて弟子として育てていたが、あまりの生意気さに叩き出した小娘である。
まさか勇者の一員になって帰還するとは。しかも凱旋から一週間後、俺の目の前に王とともに堂々と現れようとは。
「クオレ・ウォリエルよ。そなた、王宮魔術師の任を、ここにて解く」
王は俺の研究室に、あの小娘を連れて現れそう言った。
耳を疑った。この俺が? 代々王宮支えてきた由緒正しいウォリエルの直系であるこの俺が? 解任? なぜだ? 小娘のさしがねか? 王様、騙されておいででは?
「エミス殿の報告によれば、そなた、後進の魔法使いたちを幾度も不当に退けたというではないか。さらには……」
が罪状を述べていく。あの無能どもをどう扱おうと俺の勝手ではないか。
反論を試みようとするとエミスが一歩前に出て、優雅に頭を下げた。
「ご心配なされないでクオレ先生。あなたさまのあとは、この先生の弟子がきちんと受け継ぎますので」
三年前と変わらないチビだ。しかしその身体には忌々しいことに煌びやかなローブが輝いている。
神具とも呼ばれる「賢者のローブ」!!
魔王に挑める魔法使いとして女神が認めたという証!!
くそっ、かつてはビキニ姿だったくせに!!
「新しい宮廷魔術師として、先生のこの研究室、所領、屋敷、弟子たち、使用人、全ていただきますわね」
「な……」
嘘だろう嘘だろう嘘だろう!?!?地位だけでなく全てを俺から奪うというのか!?
「でも一文なしでは流石に可哀想ですし、先生にも生活がありますもんね。そうですわ。クオレ先生のローブは彼の退職金としてお渡しするのはいかがでしょうか。ないとな〜んにもできないんですもの」
微笑む姿はどこまでも憎たらしい。
*
こうして俺は失職した。全て取り上げられた。
残ったのはローブのみ、かつて私の栄光だった長いローブも、一度神具を見てしまうとなんだか霞んでしまう……。
「……ふん、だがこれだけあれば、再起など造作もない」
このローブは価値がとても高いのだ!
私は泣く泣く布を切り売りし、城のクソどもには会わないよう城下町の片隅に小さな家を買った。生活水準を落とせば、俺の質も下がる。だからそこそこ良い家を選んだ。
私は偉大なる元宮廷魔法使い!!ここから私は——
「…………あっ」
気づいた。
食料がない。
風呂がない。トイレが汲み取り式である。
私は家事など一切できない。使用人がいたのだから当然だ。魔法で済ませるしかあるまい。洗濯も、料理も、風呂を沸かすのも、掃除も、全部。
だが、魔法を使うには魔法の布が要る。つまり——ローブが必要だ。
ここで生活していくには魔法の布は手放せない。普通の服を着たらあっという間に生活が送れず死ぬのではないか?だが、さらに震えたのは、ふと脳裏によぎった「最悪の未来」だ。ローブを切り売りし生活の金を確保しつつ、生活のために魔法の布を身に纏うということは
——ビキニ。
あれを……私が……??
「俺は……絶対に、ビキニにはならん……ッ!!」
思わず叫んでいた。
これは誓いだ。ウォリエル家の名にかけて、俺は絶対にビキニなど着ない。
だが、ふと視線を落としたローブの裾が心を凍らせた。
——くるぶしが、見えている。
この作品は、ふと「なぜ異世界にはビキニ魔法使いがいるのか?」という素朴な疑問から始まりました。
それに“ちゃんとした理由?”らしきものをつけたかったのと、かわいそうなおっさんを描きたかったのです。
ビキニと誇りと、ちょっとの哀愁を込めて。
※構成の一部にAI(ChatGPT)の力を借りつつ、アイデアと文体・推敲ははべろんによるものです。