ただただ、無為に消費していく。
クーラーボックスの中で、ぴちぴちと泳ぐ触手を見ながら、そいつの名前を考える。相変わらず冷たい氷がお気に入りのようで、新しい氷をいれてやるとご満悦だ。ただ、これだと氷の消費がバカにならないので、繰り返し使えるような保冷剤…いや、漏れたときが怖いな。そうだ、ペットボトルに水をいれてやって、凍らしたやつを用意しよう。それなら繰り返し使えるし、万が一漏れても中はただの水だ。
触手の名前を考えつつ。PC前で横になって、動画共有サイトのショート動画を垂れ流しで見ている。たまに面白いものがあるが、基本は興味も何も無い、まったく知らん誰かの知らん動画が流れるだけだ。面白いから見てるんじゃない。ただ、手軽に適当に消費できるというだけだ。外国人がなんかしゃべって、なんかやって終わりみたいなやつは、特にそうだ。中身が理解できるわけでもなく、面白いわけでもない。そういう意味では、見ているというよりも、本当にただ『消費』しているんだろう。感性も、時間も、なにもかもを。
そんな中でも、たまに「面白いな」と思うのは、料理関係とかゲームのプレイ動画とかだ。料理関係はたまに真似したいなと思うものもある。だが、「でも結局片付けるのも自分なんだよな…。」と思うと、面倒くさい料理はやりたくない。特に魚関係なんて、ゴミはでるわ。まな板はよごれるわ。始末が面倒だ。
そんな風にぼーっと横になっていると、クーラーボックスから触手が、ひょいと顔をだした。
そのまま床にべしゃりと落ちる。…おーい、そのカーペットに染み込んだ粘液は、誰が掃除するんだよー。おーいまてー。動くなー。あ、本当にまずい。待て。
横になってぼーっとしていた私は、触手の初動を捕まえることができなかった。そのままウゴウゴと、触手が向かった先は、開けっ放しにしていた窓だ。しかもさっき開けた時に、網戸を閉め忘れている。…そのまま外に出るのかと思いきや、窓の前で触手はその動きをぴたりと止める。
「おい、まて、逃げるのはいいが、その床の掃除を…ん?」
窓の外を見ると、裏庭もどきに何かがある。
玉砂利が敷き詰められた裏庭もどきの中で、何故、それが一目見ただけで分かったのか。それは、うっすら苔むした玉砂利の中で、それだけが、ピカピカと光っていたからだ。手を伸ばせばすぐにでも拾える。だが、これは何だ?
腕を伸ばし、指先でつまみ上げ…熱ゥ!!
迂闊である。この炎天下にあるものを、素手で拾い上げようとするなど。灼熱の太陽の光にさらされて、十分な熱を持った石は、時にやけどするほど熱くなる。そのことを知っていたのに、何も考えずに触ろうとするのは、本当に迂闊と言わざるをえない。
「すまん!」
私はやむをえず、一番近くにあったクーラーボックスの中に手を突っ込む。ぬるぬるで冷たい。指先がヒリヒリする。本当にやけどをしたかもしれない。本当にバカな事をした。まず最初にするべきことは、『水をかける』か、『ピンセット等でつまみあげて水に沈める』が正解だった。そんなことも判断出来ないほど、判断力が落ちているのか…。
…触手は、クーラーボックスに腕を突っ込む私を見て、「やれやれ」と思ったのか、どうなのか。やはりなんとなく、こっちを見ているような気がするんだよな。…わかったよ。あとで氷足してやるよ。勘弁してくれ。
書きたくなったので更新。たまにこういう気まぐれ更新がある。
別の作品もあります。よしなに。
愛用のクッションがどうもなにか変
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