もしかしなくても、とんでもないものを育てていたかもしれない。…なお手遅れ。
「おはようございます。探索者カードのご提示をお願いします。」
「…おや?今日は砂塚じゃないんだな?」
「あぁ、砂塚なら本日は休みです。という事は、あなたが最近この葦附に通ってくれてる探索者の方ですね?」
「そうだ。」
「私は、橘と申します。よろしくお願いします。」
「砂塚と違って真面目そうだな。」
「砂塚も…真面目ですよ?ただ、自分の利益を優先させがちなだけで。」
「知ってる。元から知り合いなんだ。」
「そうでしたか。」
葦附ダンジョンに来たところ、受付担当者が見たことのない女性だった。聞いたところ砂塚は本日は休みで、今日は橘という女性が担当者らしい。
「入場手続が完了いたしました。ご自由にご探索ください。…一応、探索にあたっての注意事項がありますが、お聞きになりますか?」
「…たぶん知っている内容だと思うが、砂塚から説明された事が無いので、一応聞いておきたい。」
「かしこまりました。当ダンジョンは第1階層は平和ですが、第2階層より危険度が跳ね上がります。特に1階層の終点にして2階層入口となる湖は、その湖を通過しないと2階層に侵入出来ないにもかかわらず危険な魚型モンスターが多数棲息しており、生半可な装備で突入すれば間違いなく細切れにされますので、探索者ランクC以上での挑戦をお勧めいたします。」
「初耳だが。」
「…ですが、この間販売された魔石は、そのモンスターの魔石だったようですが?」
「…それも初耳だが?」
「…該当モンスターを『ルーキー・シュレッダー』と言いまして、魚肉の方は価値がありませんので頭の魔石だけお持ち帰りください。」
「…このあいだ大量に持ち込んだが?」
「…砂塚ァ!!!…ごほん。一応、注意事項は以上となります。あまり旨味のないダンジョンですが、こうやって来ていただけるだけで、助かりますので、万が一にも死なないようにお願いしますね。」
この人も大概だな。まぁ過疎ダンジョンならそんなものか。ただまぁ、砂塚がいろいろと説明してない事は理解した。
「ところで、装備はそれで大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。釣りをするだけなんでな。」
「クーラーボックスをわざわざ?」
「あぁ、問題あるか?」
「いえ、特に持ち込みは制限されていません。ただ、生体での持ち出しだけはご遠慮ください。」
「理解している。」
****************************
「はぁ、中身見せろって言われたら危なかったな。入るのは簡単だけど出るときはなんか考えないと駄目か。」
葦附ダンジョンのいつもの湖に到着して、クーラーボックスのロックを外す。するといつものように、自力で蓋をあけて水流が飛び出してくる。そう、今日は水流も一緒だ。だから一人できている。葦附は過疎ダンジョンだし、ここまでくれば他の人に見られる心配もないだろう。
「で、自分も連れてけって言い出したのは水流だけど、ここまできて何がしたいんだ?」
それなりに大きくなった水流は、ぱっと見で、大きなうなぎぐらいの大きさがある。ただその体を伸ばすと、意外ともっと伸びるし、太くもなれる。水の中では、私の目では追えないぐらいにすごい速さで泳ぎ回る事もできる。一番初めに出会った時、ぼろぼろでカラカラだった頃の面影はもはや一つも残ってはいない。
さて、水流と初めて外に、しかもダンジョンに一緒に外出した訳だが。流石にここにきて水流が何をするかは分からない。まぁ、分からなければ聴けばいいというわけで、水流に「で、どうするんだ?」と尋ねると、「まかせろ!」と言わんばかりの表情?をして、その体をくねらせると、そのまま崖下の湖へとダイブしていく。
「水流!?」
<<ドボン>>
水流が湖に落ちると同時に、多数の魚影が落下地点に集まっていくのが見える。おそらく『ルーキー・シュレッダー』だ。水流がいくら強いとはいえ、多数のモンスターと戦うのは危ないのではないか?どうする?
…そう狼狽えていると、巨大な水柱があがりバラバラになった魚肉が散らばる。血と魚肉が混じった水しぶきが空高く舞い上がり、地面に降り注ぐ。地面には魔石と魚肉と赤い水たまりが、一面に散らばっている。
「…えっ?」
<<バシャーン>><<バシャーン>><<バシャーン>>
私が困惑していると、湖からは次々と水柱があがり、そのたびに『ルーキー・シュレッダー』だったものが、あたり一面に散らばっていくいく。驚くべきことに、魔石だけは綺麗に一箇所に落ちてくるし、私がいる所には水滴が一滴たりとも降ってこない。
湖を見ていると、水流に襲いかかろうと集まっていた『ルーキー・シュレッダー』が脇目も振らずに逃げ始めているが、素早く動く影がそれに追いつくたびに水柱が上がる。第2階層の入口にして、凄まじい広さがあるはずの湖だが今だけは、とても小さな水たまりにしかみえない。おそらく水魔法と風魔法の混合で、落ちる地点を操作して…そんなことを考えている場合ではない。
縦横無尽に湖の中を暴れまわる水流は、大きな水柱をあげながら、一匹一匹、確実に『ルーキー・シュレッダー』を一方的に蹂躙していく。かれこれ10分ぐらいは水柱が上がり続けていたが、やがて、影が1つ、また1つと減っていき、あれだけ激しくあがっていた水柱が上がらなくなり、静かになる。
湖の水面はまるで何も無かったかのように、まさに静寂の状態に戻っていく。代わりに目の前には、大量の魔石の山と、モンスターだったものの破片が散らばる光景だけが残っている。魔石は正直、いくつあるのか数えたくもないぐらいの量が山積みにされている。
あまりにもあっけない、夢のような出来事だが、この十数分の間に起きた現実の出来事である。なぜ、自分だけが無事なのかが分からくなるような惨劇である。あたり一面、モンスターだったものしか無い。
<<バシャッ>>
湖から水しぶきがあがったと思うと、水流が水面から高く跳ね跳び崖上へと上がってくる。スタンと、音もなく着地した水流は、「ふぅ、やれやれ。」と言いたげに、クーラーボックスの中へと戻っていく。久々に広い湖を泳ぎまくって、まさに、スッキリとした感じだ。良かったね。良かったねじゃないのよ。
…えっと。…どうすんのコレ?
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
https://ncode.syosetu.com/n4475kl/
青空設置しました。
https://bsky.app/profile/sternjp.bsky.social




