冷水に浸かる同居人、ぬるま湯に浸かる私。
無理しない範囲で
目が覚める。というか、覚めている。最近朝は、いつのまにか目が覚めているなという事が多い。確かに、暑さや眩しさで目が覚めるということは、往々にしてある。だが、最近は明確に、いつ起きたかというような、実感がある朝の目覚めのほうが少ない。なんとなく、「いつのまにか目が覚めたな」という目覚めのほうが、圧倒的に多い。
「このまま寝ていたいな」という気持ちも「起きてなにかやらなければ」という気持ちもない。ただ、横になっていたら、いつの間にか朝になっているだけだ。夢を見た記憶も、寝ぼけ眼で起きた記憶もない。大抵、そういうふうな記憶があるのは、昨日の夜みたいに途中で起きた時のほうが多い。
眠たいわけでもなく、かといって起きたい訳でもない。なんなら何もしたくない。
暑いし、だるいし、この時間に起きる理由もなければ、二度寝する理由もない。ただ、なにもしたくないだけだ。そんな、虚無の中にいると、唐突に思考がもどってくる。「そういえば、同居人が増えたんだったな。」と。…起きるか。その前に、寝る前、何やってたっけ。
そもそも昨日…というか、深夜か。一度起きたっけ。それで、洗い物を水につけておいて…氷水を…そうそう、本を読んでいた。選んだのは、ガルブレイスの『不確実性の時代』だ。何回も読んでいるが、これがやはり一番だ。何故ガルブレイスが、ノーベル経済学賞を受賞していないのか不思議でならない。
…その『不確実性の時代』を読んでいる間に、いつのまにか寝ていたようだ。確かにうつ伏せで寝てたようで、食道がちょっと痛い。読んでいたであろうと思われるページを開いたまま、逆さになった本の上に、眼鏡が置いてある。…本に良くないとおもっていても、寝る前についついやってしまう。悪いクセだ。場合によって、そんな本が二冊三冊置いてあることが有る。
時間は…11時か。日が登って、すだれの隙間から、眩しい陽光が差し込んでいる。喉もカラカラだ。そうだ、昨日、新しい同居人のために、入れてやった水が、まだピッチャーに残っているはずだ。案の定、机の上に置かれたままになっていたピッチャーの水を、そのまま飲む。氷も入れてあったはずの水は、既にぬるい。…いかんな。
そのままだるい体を引きずって、とりあえず台所へ行く。蛇口をひねり、お湯のようになった、水を流すと、すぐに冷たい水が流れてくる。これは、井戸水様々だ。ピッチャーを軽くあらって、冷たい水をそそぎ、氷を入れてやる。
部屋に戻り、クーラーボックスを覗く。同居人は、大人しくしていてくれたようだ。すぐに、昨日の夜と同じ用に、中の水を流し、ピッチャーの水をいれてやる。当然、氷もだ。とりあえずこれで大丈夫だろう。…気のせいか、ちょっと大きくなったか?干からびていたし、水を沢山吸収すればこんなものか?
まぁとりあえず、肉食ではなさそうではある。水棲なのは間違いなさそうだし、今度、苔あたりでも与えてみるか?
…とりあえず食器でも洗うか。
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起きたからと言って、仕事もなければ、なにかやりたいことがある訳でもない。生きるために面倒くさい事を、しぶしぶやって、あとはだらだとした一日を過ごすだけだ。嫁もいなければ、仕事もない。アラサーの男性がこんなことでいいのだろうか?…と言われても、もう何もする気が起きない。
アルバイトを探そうにも、こんな田舎じゃぁ、コンビニバイトぐらいしかない。だが、近所のコンビニの衛生状態は褒められたものじゃない。とてもじゃないが、どんなに切羽つまっても、あこで働くのだけは考えたくない。
そもそも、正直もう、なにもかもどうでもよいのだ。仮に、このまま終わったて。もう疲れたよ。…まぁ、だが、そうだな。新しい同居人については、少し気にかけてやるべきだな。
拾ったのは気まぐれだったが、思いの外、悪くないかもしれない。とりあえずは…名前、なんにするかなぁ。
「…お前、名前あったりするのか?」
触手が、クーラーボックスの冷たい水に浮かびながら、こちらを見たような気がした。…意思の疎通が出来るのか、出来ないのか。まぁ偶然だろう。触手だし意思の疎通んか出来ないだろ。たぶんそう。そうに決まっている。
「はー。わかんねぇな。何も。本当に。」
人生も、将来も、同居人のことも、何も私には分からない。
別の作品もあります。よしなに。
愛用のクッションがどうもなにか変
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