安易なメリットの提示ではなく、正しくその根拠やリスクを提示するべき。
「野良猫避けのハーブ?ローズマリーにタイムにレモンバームもあるのにかい?」
「…そうなんです。」
お隣さんに、野良猫避けのハーブで良いものが無いかと尋ねたところ、タイムとレモンバームもあるのに?と大層に驚かれてしまった。ローズマリーが猫よけになるのは知っていたけど、タイムとレモンバームも効果があるのか…。レモンバームならでかいプランターに、それはもうわんさか茂っているのに、それでも駄目か。
そう言うと大葉さんは、私を手招きして大葉さんの庭にある菜園スペースへと案内してくれた。様々なハーブに畑が、そしてウッドデッキもある。ウッドデッキにはよく野外にある白いプラスチックの椅子とテーブル。ウッドデッキの隅には、種々の植木鉢やプランター、ジョウロ等がいろんなものが置かれている。我が家のブロック塀と接している方をみると、やはり残渣置き場がある。
「うーん。そうなるとちょっと難しいね。普通の野良猫ならそれでもう近づかないんだけど…。本来なら、ローズマリーが一番効くんだよね。おそらくその野良猫は嗅覚が弱いんじゃないかな。」
「あー、嗅覚が弱いと効果がないんですか?」
「そう。猫はハーブの成分を分解できないからね。匂いを嫌がるんだけど、嗅覚が弱いとその匂いに気がつかないんだ。」
「…うーん。でも魚の匂いにつられてやってきてそうなんですよね。」
「なら分からないな。ローズマリーで駄目なら相性の問題なのかな…。」
どうやら専門家でも、ローズマリーで駄目だった理由は分からないらしい。
「単純に量が足りないとかはありますか?」
「あー、そういえば一株だけだったっけ?増やしてみるのはありだね。あとは他の撃退方法も併用するとかかな。」
「他の撃退方法?」
「コーヒー滓とかも猫が嫌がるから、侵入経路に撒いておくといいよ。虫よけにもなる。あとは、柑橘類の皮とか、超音波とか色々と方法はあるんだけど…。あ、そうだ!木酢液と竹酢液って知ってる?」
「竹酢液?」
「これが竹酢液なんだけどね。竹炭を製造する際にでる煙を冷やして得られる液体だよ。木酢液は同様に、木炭を製造する際にでる煙から作るんだ。」
そう言って大葉さんは、黄褐色の液体が入ったペットボトルを私に見せてくる。表面のラベルにはでかでかと竹酢液の文字がある。
「効果があるんですか?」
「その質問に答えるために、竹酢液についてもう少し説明をした方がいいね。聴くかい?」
「お願いします。」
「まぁなら、とりあえずそのへんにある椅子にでも座りなよ。」
そう言って、大葉さんも庭に置いてあるプラスチックの椅子の一つを引き寄せて、そこに腰をかける。私も、お言葉に甘えて着席させてもらう。
「まず、この木酢液・竹酢液は、かつて農薬として売られていたこともある。だが、現在ではこの液体を農薬と言って販売することは禁じられている。これは農薬取締法によって、農薬に指定されていないためだ。これの農業として使用する場合は、農薬として使用するのではなく、農薬的使用方法ということになるね。」
「…そうなんですね。」
「ここから先は、この竹酢液も含めて木酢液って呼ぶね。それで木酢液だけど、科学的な薬効・効果は認められていない。そもそもが成分を安定して作ることが難しいんだ。炭焼きに使う木材の種類次第で、成分が簡単に変わってしまう。ようするに一口に木酢液と言っても、成分がバラバラなんだ。だから危険な成分が含まれている可能性があるし、有効な成分が含まれている可能性もある。この木酢液にどんな成分がどんな割合で含まれているかは、毎回毎回検査しなければ分からない。」
「なるほど、原材料が違えば成分が異なって当然ですね。」
「そうなんだよ。そして、実際に冷却したての木酢液には、タールや油アルコール等が含まれるのでそれらを除去しなければならない。また、その他にも木酢液にはホルムアルデヒドなどの有害物質が含まれていることが確認されている。」
なるほど…。
「ただ、それでも木酢液を使うのは、科学的に認められていないというだけで、一応様々な効果がありそう…と考えられているためだね。実際に農家として使っているのは、体感でやはり効果があるためだね。具体的には木酢液に有るだろうと考えられているのが、『土壌改良』『害虫対策』『動物の忌避』『殺菌・消臭』といった効果になるよ。」
「なるほど。確かに、農業には使いたくなる効果ですね。」
「そうなんだよ。1000倍に希釈して適当に植物や土に掛けるだけで良いし、害虫や動物も寄り付かなくなる。土も良くなるし、植物も元気になる。嫌な匂いも消えるといい事ずくめなんだけど、あくまで民間的に効果があるって思われているだけで、科学的には証明されてないんだ。だから、裏野さんの質問に答えるなら、農家としてはYESだけど、科学的根拠に基づけばNOという回答になるよ。これで納得してくれるかな?」
「納得しました。」
こうやって、きちんと説明してくれるのはやはり助かるね。科学的に証明されていないと、きちんと説明してくれる人が隣人で良かったとすら思う。
「そうそう、重ねて言うけど木酢液は農薬ではない。そして、体に安全かもしれないけど、絶対安全とも言い切れない。畑に散布する時も、きちんと希釈しないと逆にミミズ等の有益な虫なんかを殺してしまうしね。ホームセンターに行けば、簡単に売ってるし効果があるのは確かだけど、安易に適当に使うのはおすすめしないね。きちんと正しく使うなら、ハーブにも猫よけにも使えると思うけど、どうする?使ってみたい?」
「そうですね、ハーブにも使えそうですし、使ってみたいです。」
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