タッパーに詰められた魚の頭は、空を見ているか?
埋め合わせはするとは言われたものの、神埼がバケツに山盛りに獲ってきた『トミヨニ』の処理は、すべて私に丸投げされた。まぁ代金はいずれ徴収するとして、この後私はひたすらトミヨニを捌くマシーンと化す訳だが、まぁ、しゃーない。やったるか。
スパスパと切った頭を、空のタッパーに詰めてトゲと内臓は捨てる。大量の流水で一匹ずつ洗っていくので、夏だと言うのに手はキンキンに冷たい。あ、そうそう、砂塚はレシピに載せたいということで、私の調理風景を撮影し始めた。うん…こういうところが仕事できる所以なんだろうな。こうやって、写真や動画でレシピを記録することで、視覚的に分かり易くなる。
ちなみに、私はトミヨニのような小魚でも、鱗は処理すべき派だ。魚や調理法によっては鱗を残した方が良い魚もいるが、基本的にはやはり舌触りを考える。衛生面を考えても鱗は処理してしまった方がいいだろう。包丁で表面をザッっと撫でる感じで鱗だけを掻き落として、そのまま頭をスパンと。
そして、内臓だが、説明ではハサミで掻き出していたが、包丁の先でもやれないことはない。今回は量が量なので、ハサミに持ち替える手間を考えると、包丁でそのまま処理してやる。難点としては、若干、内臓の処理が甘くなることがあるが、それはこの後の洗いの工程でカバーする。
綺麗に洗った後は、ペーパータオルなどで水気をよく拭いてやる。そして、揚げる前に漬けダレに漬けておく。本来はここでしっかり味を付けるのだが、今回はあえて付け無い。代わりに臭い消しと風味付けのために、生姜のすりおろしに漬ける。しばらく漬けた後、これまた水気をきってから片栗粉をまぶす訳だ。そして、今回はただの片栗粉ではなくて、持参してきたコイツを使う。
「裏野さん、それは一体?」
「あぁこれか、風味付けだ。乾燥させたアシツキノリモドキさ。磯辺揚げってあるだろ?」
「…なるほど。これも共有しても?」
「いいぞ。」
衣をまぶしたら、そのまま油へ。サクッと揚がれば完成だ。トミヨニは小さいから、簡単に火が通る。
「ヨダレが…。」
「香ばしい香りが…。」
そのまま醤油をかけるだけでも美味しいが、今回は、ひと工夫。醤油とみりんを一回煮立てたものに、少量のお酢。それから一味唐辛子とネギのみじん切りに、少々のごま。最後に、片栗粉でとろみを付ける。
このソースの狙いは、臭い消しだ。十分に処理した上に、生姜に着けてあるが、それでも川魚の風味が気になる人はいるかも知れない。長ネギとごまを使うことで、かなり軽減されるはずだ。…まぁ私は、川魚の風味が好きなので、このまま塩や醤油をかけるだけで美味しい。アシツキノリモドキの素朴な風味も楽しめるしな。
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「おいちい…。」
「そのままでもいけますが、このソースで味変するといくらでも入りますね…ビールもいいですが、日本酒も欲しくなります。」
「飲むなよ?振りじゃねぇぞ?」
神崎が幼児退行して、砂塚が酒クズの本性を止められなくなってきている。だが私が調理した竜田揚げは、最低限の撮影がなされた後、揚げた端から二人の胃袋へと消えていく。私も揚げながらつまんでいるが、まぁそこそこ美味しいのが出来たんじゃないかな。
決して広くない葦附ダンジョンの施設に、私が竜田揚げを揚げる音と、女性陣が食べる時にでる<<サクサク>>とした音だけが響く。バケツに山にあったはずのトミヨニだが…残りそうにないな。万が一残ったとしても、おそらくお土産のタッパーに詰められる事になりそうだ。
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案の定、トミヨニは残らなかった。もれなく全部竜田揚げとなり、食べきれなかったのではなく「帰ってからも食べたい。」という希望でお土産のタッパーに詰められることになった。もれなく二人分。私は大量の揚げ物で疲れたので、帰りの神埼の車の後部座席にて、横になっている。
ちなみに、別に取れた魚型モンスターの方の魔石は全部売却して、二人で山分けした。神埼が釣って、私が処理するという完全分担で最高効率で始末できた結果、今日の稼ぎはなんと1人あたりの取り分が6千円という価格になった。魚肉の方も持ち帰れないのですべてを売却に回した。こちらは二束三文にしかならず、1人2千円ぐらいにしかならなかった。だが、合わせて8千円は、今の私には破格の報酬だ。
「ところで、先輩、なんでトミヨニの頭を持ち帰ってるんですか?」
竜田揚げのどさくさに紛れて、実は頭だけちゃっかり持ち帰っていたのだが、神埼は気がついていたようだ。至極当然の疑問を投げかけてくる。
「あー、あれでも一応魔石がとれるからな。めんどくさいけど。」
「確かゴマ粒程でしたよね?」
「そうだ。だが、魔石は魔石だ。」
「…ほじくり出すんです?」
「いや、コンポストで分解する。そうすると骨と肉は分解されて、魔石だけが残るはずだ。問題はとりだせるまで長い日時がかかるのと、今度は堆肥の中から取り出さなきゃいけなくなるってことだな。まぁだが、ほじくるよりは楽だ。」
「…なるほど。」
「ま、それでも大した金にはならないだろうがな。揚げ物の手間賃ぐらいは貰ってもいいだろ。」
「それはそうですね。」
「それはそうと、埋め合わせ、楽しみにしているぞ?」
「うっ…。はい、まぁ、なんか考えますので。」
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
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