普通の人、普通の生活、普通の仕事、普通の…。
「それで暗褐色のこれが、アシツキノリモドキですか。」
「そうだ、一応このダンジョンの特産物だぞ。」
「美味しいんですか?」
「食用ではある。生でも食べられるが、流石に勇気は無い。一応ダンジョン産の生物だし、広義ではモンスターの扱いだろ。ダンジョンに自生している動植物の類いだからな。」
『トミヨニ』はいくらでもとれるので、今度は『アシツキノリモドキ』について、神埼に説明している。幸いこのダンジョンではいくらでも取り放題だ。実際にぶよぶよしているのを収穫?して、手のひらに乗せて見せる。神埼も同じ様に、地面の石から引っ剥がして観察している。
「ふーん、こんなものが食べれるんですねぇ。」
「そうだ。天然のアシツキは数が少ないが、ここでは取り放題だ。問題はそこまでして食べるものではないということだな。まぁ寒天質だから、海藻のワカメとかじゃなくてキクラゲみたいなものを想像したほうが、まだわかりやすいかもしれん。」
次の瞬間には、すでに神埼はアシツキノリモドキを食していた。
「…生でも食べられるが。よくそんな勇気があるな。味はどうだ?」
「…まぁ…はい。」
「だろうな。」
まぁ、特別美味い訳ではないと、事前に説明したんだがな。いや不味いわけじゃないが、わざわざ労力をかけて取らなければいけないか?と言われると…。うーん。ただ、このアシツキノリモドキを食した、魚型モンスターの味が向上するのは、経験済みだ。そのへんは、もっと今後検証が必要だが…まぁ、私の仕事ではない。
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「で、ここが2階層の入口ですね。」
「ぜぇ…はぁ…そう…げほげほ…そうだ…げほ。」
「…だらしないですねぇ。」
「お前が…ごほ…体力…休憩…げほ。」
で、今日の目的である1階層の終点、2階層の入口である滝までやってきた。今日、このダンジョンに来た目的である。ただ、神埼があまりにもハイペースで、ダンジョンの奥へと進むものだから、ついていくのでいっぱいだった。運動不足の私は、げほげほ咳き込みながらがんばってついていくしかなかった。
今日の目的は、この湖から魚型モンスターを釣り上げて戦闘である。ボロの釣り竿では限界があったので、新たにモンスター用の釣竿を用意した。…神崎が。そもそもこのダンジョンの話をして、「行ってみたい!」と言い出しのは実は神埼の方だ。
「いやー、スライムってワンサイドゲームだったので。魚型モンスターなら、吊ったら戦えるかもしれませんし。」
「…そんなに戦いたいのか?」
「まー、そうかも?」
「…まぁ頑張ってくれ。私は見てるからな。」
一応ボロの釣竿も持ってきてるが、私は休憩を選んだ。神崎は1階層から2階層の湖へと釣り糸を垂らして、フィッシングを始める。釣りエサは、さっき捕獲した『トミヨニ』を使っている。案の定すぐにヒットして、見たことがない魚型モンスターを釣り上げる。私とは違い、神埼がやると一連の流れがスマートだ。
釣り上げた魚は、私が釣った時とは違い、激しく抵抗する。なんなら水魔法を使い始める。…私が釣りをした時は、そのまま撲殺できたのは運が良かったらしい。といっても、まだ低階層のモンスターでしかも陸にあげられた魚型であるので、それほどの脅威ではない。水球が地面に命中してばしゃんと弾ける。それなりの衝撃だが神崎はそれを華麗に回避して、そのまま魚型モンスターを踏みつける。…絶命だ。
「…。」
「思ってたより、楽勝ですね。」
「…そうか。」
私と同時に探索者になったはずだが、戦闘経験もセンスも雲泥の差がありそうだ。一応私のほうが(非公式だが)ダンジョンに潜ってる時間は長いハズだ。才能云々ではなく、やはりニートと普通の人の違いがこれなんだろう。あれが、普通なのだ。普通の生活をして、普通の仕事をしてきた、普通の人。私にはおそらく、今後一生をかけても手に入らないだろう。
それからも神崎は、次から次へと魚を釣り上げては、速やかに処理していく。用意してきたバケツが謎の魚型モンスターでいっぱいになる頃には、それなりの時間が経っていた。
「ふぅ、大漁ですね。スライムを蹴り飛ばすよりも、楽しいかもしれません。」
「…そうか。」
「先輩は釣らないんですか?」
「…そうだな。多少は釣っていくか。」
まぁ手ぶらで帰るのもアレだからな。駄賃ぐらいは欲しいし、十分休憩もとったのでボロの釣竿で釣りをはじめる。…ほら、すぐにかかる。がんばって、リールを巻き上げれば神埼と同じように、魚型モンスターが釣れる。地面の上にころがってピチピチと跳ねる魚にしか見えないが、魔法を使うので要注意だ。速やかに処理しなければ。
——一向に魔法が飛んでくる気配がない。
「先輩、なんか魔法使わなくないですか?」
「…あぁ、おかげで楽で助かるが。」
そう答えながら、棍棒で頭部を破壊する。…捕獲完了だ。
「うーん。私が釣るともっと抵抗したんですけど、なんか先輩だと無抵抗じゃないです?」
「…そうかな、そうかも?」
「もう一回、やってみてください。」
「まぁ言われなくてもやるけど…。」
もう一匹、同じように釣り上げる。同じく、地面の上でピチピチと跳ねるが、魔法を使う素振りは見られない。そのまま、前の魚と同じ様に処理する。…やはり、抵抗らしい抵抗は無い。
「…先輩、私が釣るんで、トドメ刺してもらっていいですか?」
「いいけど…。」
そう言うと神崎は、あっという間に次のモンスターを釣り上げる。釣った魚を地面に転がすと、私が前にでて、トドメを刺しに行く…。魔法を使う素振りは見られない。
「…先輩、もしかしてダンジョンに賄賂でも渡してます?」
「いや、まったく。だが、偶然じゃなさそうだな。」
「そうですね。先輩、もう少し釣るんで、全部ぶちころがしてもらっていいですか?」
「もう少し、言葉を選べよ…。」
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
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青空設置しました。
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