答えは何もわからない
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触手にもいろんなタイプがある。ダンジョンからは日夜、新しいモンスター…つまりは新種が発見されているが、大体は中層~深層で発見されるのが多い。低階層で出現するモンスターは意外と決まりきっていて、大体は種類の特定が済んだものばかりが見つかる。ただし、「ダンジョンに生息する動物がモンスターだけか?」というと、そうではない。
ダンジョン特有の固有の苔や菌、植物、これらはモンスターではないが、ダンジョンの固有種であり、低層でも新種が日夜発見されている。ダンジョンの出現は、我々が知る動植物の図鑑に、実に種々の新種をもたらした。これらの新種はダンジョン固有種であり、ダンジョンの外に持ち出すことも可能だが、ダンジョンの外での栽培・培養などはなかなかうまくいっていない。一部成功した例もあるが、そういうのは大概薬の材料だったりなんなりに使われるようなものが多い。
では、触手はどうだろうか。一応、広義にはモンスターの分類ではある。大概の触手にはまぎれもなく、タンパク質があり、筋肉があり、すくなくとも植物ではないように思える。では明確に「動物か?」と言われると、基本的に触手種にいわゆる「意識」や「脳」にあたる部分を持つ種類は少ない。そもそもが、様々な触手の種類があるが、それらの殆どは今も尚、その正体について研究がつづけられているだけで、ほぼ何もわかっていない。また、それらの研究をすすめるべくに必要な、触手の生物学的分類は、今もなお遅々として進んでいないのが実情である。。中にはかなり植物に近いような個体もみつかっており、そもそもが『今発見されている触手生物が、なんらかのグルーピングによって全てが一括りできるか』という命題に対して、今日現在での学説は、かなり否定的である。
触手といえば、よく『苗床』だの『寄生』だの、いわゆるレイティングが必要なイメージが付きまとう生物である。だが、実際にはそのような触手は、かなりイレギュラーな種類であることが判明している。そもそもがダンジョンの上層においては、そのようなタイプの触手の出現例は報告されていない。代わりに多数を占めるのが、ダンジョンのおいて、たとえば、「水中に生息し、まるで植物かのように、石に体を固定して栄養を吸収している触手」だったり、「洞穴の中で、モンスターの死骸を分解している触手」だったり、「生態は未確認だけど、岩から顔をのぞかせるだけで特に害意がない触手」だったりする。
つまりは、触手とはダンジョンという空間において、モンスター的分類であるものの、基本的には、ダンジョン内部に植生する固有植物などと同様に、ダンジョン内環境において何かしらの役割を担い、それぞれが独自の生態系を形勢している、「未知の軟体動植物の総称」なのである。
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「なるほど、全然わからん。」
うちのあらたな同居人のために、情報収集をしているが、つまり、触手種について、今現在人類は、ほぼ何一つわかってはいないことが判明した。簡潔に言えば、触手とは「未知の軟体動植物の総称」であるということで結論付けられている。つまりは、その種類、その個体によって、生態や必要な餌・環境がまったくもって違うことを意味する。そして、それらの分類や研究は行われているが、今日現在、ほとんど成果がでていないらしい。
幸いにもコイツは、既知の種類に近いものがいたので、水性種であることはわかったが、詳しい生態がわからない。「かなり近い」、「たぶんこれか?」みたいな種類がいくつかあるが、そもそも専門家でもなければ、ダンジョンにはいったこともないのに、自力では同定ができない。
幸いにも水棲種で「これか?」「これかも?」という候補は、大体かなり似ている、あるいは近い種類のようなので、それらを参考にすれば問題なさそうに思える。ただ、やはり詳しいことまではわかっていないようで、普段どうしているのだとか、本当に無害なのか、そういうのは全然わからない。
とりあえずは冷えた水と氷をいれやれば、今のところ元気なので、これで良いかもしれない。餌は食べないようだが、場合によってなにか食べる事もあるらしい。問題は、こいつが肉食なのか草食なのかまったくもってわからない。
ようするに更に簡潔に言うならば、「なんにもわからない。」である。
徒労に終わった調べ物を放りだして、床に寝転がる。気がつけば、外はもう暗い、今日も特に何もなせぬまま一日が終わろうとしている。…ふだんはここからスマホを見てごろごろと過ごすのであるが、今日はなぜだか、ひどく眠い。
机の上には、先程食べた茶蕎麦の容器がそのままだ。お風呂もまだはいっていない。歯磨きもしなければ…全部面倒くさいな。…まあもう、どうでもいいか。今日ぐらい。どうせ今から寝れば、深夜2時ぐらいには一度目が覚めるだろう。その時に片付けと歯磨きだけやればいい。どうせ外にはほとんど外出しないんだし。
今にして思えば、べつにもう人間らしい生活なんかしなくていいや。わざわざヒゲだってそらなくたって、別に自分が困る訳ではない。…仕事もない、金もない、なら、もっと自由に生きたっていいんじゃないか?
…生きるのって面倒くさいな。
別の作品もあります。よしなに。
愛用のクッションがどうもなにか変
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