金ダライに泳ぐ蕎麦、グラスに泳ぐ触手、社会を泳げない私。
一日一話目標で、無理せずゆったり更新です。他にもやることあるので…。
目の前にあるのは、スーパーで買ってきた茶蕎麦である。現在、室温32.6℃、湿度80%。買い置きのカップ麺を食べる気力はない。あとは、1kgのかちわり氷が1袋である。家の冷蔵庫には製氷皿がないし、あったところで、大量に使う氷の生産は追いつかない。冷凍庫に2袋用意しておかなければ、この夏を乗り切ることなど到底不可能だと断言せざるを得ない。まさに生命線だ。
ようするに死ぬほど暑い。こんなときは、冷やした麺類に限る。ただし、茹でるのが地獄であることには、目をつぶるべきであるが。そもそも私はそんなに蕎麦が好きじゃない。というのも子供の頃に食べさせられた蕎麦は、いわゆる藪蕎麦というやつで、ともかくまずかった記憶のみがこびりついている。最近になって蕎麦にもいろいろ種類があるということを知ったし、更科蕎麦みたいにおいしい蕎麦があることも知った。けれども、自分から進んで蕎麦をたべようとおもうことはあまりない。
なので、私はもっぱら冷や麦と冷やしうどん派だ。訳あって硬いものが食べられない時期は、よく茹でた冷やしうどんで乗り切ったこともあるぐらいに、好きだ。そんな私が、なぜ茶蕎麦を買ってきたのか。やすかったのが一番だが、なにより一度食べてみたかったからである。たまたま夕食時にみたテレビで、茶蕎麦の特集をやっていたのだ。唐墨をかけた茶蕎麦がでてきたが、見た目は確かにうまそうだった。唐墨なんてたべたことはないし、たぶん今後食べる機会も無いんだろうが。
なにはともかく、珍しく「食べてみたい」とおもったので、買ってきたのだ。とりあえず二束茹でよう。電気ケトルで最大の1.2リットルの水を沸かしている間に、茶蕎麦の説明書きを読み込む。
「一束1リットルの水を沸かして茹でろ?2束で2リットルか。面倒くさいな。」
数分後、電気ケトルでお湯が湧いた。そのお湯を、鍋に注ぎガスレンジの火をつける。一度ケトルで沸かしたお湯なので、そのまま沸騰状態だ。そこに、500ミリリットルの水を足してやる。これで1.7リットルだ。あとはもういいだろ。たぶん。
二束を入れて、適当に茹でる。茹で時間は…袋の時間に少しだけ足す。マカロニでもなんでも乾麺を茹でれば、最低1.5~2倍の時間がかかるものだ。いつも食ってるペンネなんて、説明書き通りに9分茹でたところで、生茹でのガチガチができあがる。いつもは倍の18分は茹でなければ、食えたもんじゃ無い。素麺とうどんもそうだけど、ペンネほどではない。むしろペンネを基準にすると危険だ。なんとなくの質感と経験上、細くて素麺類に近い感じの茶蕎麦であれば、そうめんとスパゲッティの中間から、かなり素麺に寄せた程度の追加時間で茹でれば、たぶんちょうどいいはずだ。
箸で一本だけ引き上げ、茹で加減を見る…うん。ちょうど良い感じだ。
次は水洗いだ。シンクに金盥とザルを用意して、蛇口をひねる。大量の水を金ダライに用意しておく。その間に、ザルをつかって、茶蕎麦の茹で上げる。お湯がシンクをベコッと言わせて、流れていく。そして引き上げた蕎麦がはいったザルを金盥の中の水につける。蛇口を口を追加でひねり、金ダライにたまった水と、蛇口からの流水で蕎麦を冷やしていく。ザルの中の蕎麦を片手で、よく洗い。流水で揉む。
金ダライの大量の水で、一気に全体をひやすのがミソだ。冷やす系の麺類は、「如何に全体を一気に冷やすか」で美味しさが違ってくる。しょぼい流水で、しゃばしゃば洗うのとは雲泥の差があると言っていい。両手が冷たくなるが、必ずこの作業をした方が良い。そうして、しっかりと洗えば、金ダライの水が濁り、蕎麦の洗いと冷やしが完了する。蕎麦をザルごとあげて、水切りしたあと、丼にザルごと乗せる。水切りした麺を直接丼にいれるのはおすすめしない。下の方に溜まった水が、下の方の麺をふやかす。
蕎麦をつけるのは無難にめんつゆにした。濃縮昆布だしのものを伸ばし、そこに氷を加える。この時氷を加えるのはかならずつゆのほうにするように。麺のほうに氷をのせてはいけない。見た目いいが、やはり氷が溶けた水がよろしくないのだ。
本来なら、ワサビなり、ごまなり、あさつきなりがアレばよいのだが、所詮はひとり飯だ。アレば良い程度であれば、妥協する。それに、それらは用意する手間も面倒だし、片付けが面倒だ。特に今からごまをすりつぶすのは、もう勘弁してほしい。
********************
かくして、今日の夕飯は茶蕎麦である。…普通に美味い。美味いけど。…普通の蕎麦と何が違うんだ?茶…?あ、言われてみれば、なんとなくお茶っぽいかも?ベースは更科っぽいから、普通に食えるけど、じゃぁ「茶蕎麦が美味いか?」といわれれば、ベースの「蕎麦が美味い」って感じだ。まぁでも味は、悪くはない。安売りしてたし、また買ってこよう。
ふと、クーラーボックスをみていると、触手がこちらの方を見ていた。いや、向いていた。なんでだろうな。コイツには目がないから、こっちを見ることはないはずなんだけど。なんか、こっちを見てるって感じがするんだよなコイツ。
よくよく見れば、入れてやった氷がとけていた。…ははぁ、めんつゆにいれてある氷がほしいのか?とおもっていると、クーラーボックスからでてきて、追加用の水と氷をいれてあるグラスに巻き付いた。なるほど、若干羨ましい。そう思った瞬間、巻き付いていた触手はグラスの中にダイブした。
「…まぁ、そんな予感はした。」
まぁ水ぐらいまた汲んでくればいいんだが…それは私が使うために、もってきたやつなんだけどなぁ。触手君。
「まるで、プールだな。お前用の。」
もうプールも何年も行ってない。そもそも大人になってから、水着なんて買ったことがない。サンダルもなければ、弁当箱もない。
「プールかぁ…。」
そもそも、プールに行くだけのお金も無い。
別の作品もあります。よしなに。
愛用のクッションがどうもなにか変
https://ncode.syosetu.com/n4475kl/