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触手 in クーラーボックス(仮)  作者: 一級フラグ建築士
第1章 触手との共同生活
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賢者は彗眼を持つが、愚者は盲目である。そこに明かりは関係ない。

 今日もまた眠れない夜を過ごしている。特に何をする訳でもなく、何かをなすわけでもなく。最近は探索者向けの教本を読むぐらいはしているが、ただそれだけだ。今はダンジョンに繋がる窓をあけているので、部屋の中も涼しいが、さすがに寝る前には閉めておきたい。だが、この窓を閉めると、あっというまに部屋の温度があがる。


 古い家でろくに断熱が入っていないため、あっという間に冷気が逃げていくのだ。一応扉の隙間は埋めてあるのだが、いろんなところから冷気が逃げていく。ダンジョンの安全さえ確保できているのであれば、可能ならばそのまま窓を開けっ放しにしてしまいたいぐらいだが…。やはりそれは危険がすぎるというものだろう。ダンジョンが他のところに繋がってないかは確認を進めているが、それでも絶対はないのだ。


 『モンスターがいつでも自分の部屋に出入り出来る』という状況は良くないだろう。…まぁもちろん、窓を閉めれば安全だという保証もない。


 一応電気は消している。暗い部屋の中で光源になるものは、PCのLEDにモニター、それから卓上ランプだけだ。それ以外の光源はテープで潰しているので、PCをシャットダウンして電気を消し、カーテンをきっちりと閉めると、この部屋は実は暗室になるようにしている。実は、窓の全面を隠す事ができるカーテンが別にあり、そっちは遮光カーテンになっているのだ。


 今は、新しく作った丈の短いカーテンと、片側は遮光カーテンとチグハグに使っているので、窓の一部から外の光が差し込んでくる。もちろん、丈の短いカーテンはダンジョン側につながる窓の方だ。今は、そのカーテンを閉めて、窓は開けて、網戸はしている状態と言えば伝わるだろうか。


 ダンジョン側も現実世界と連動しているようで、キチンと夜になっている。床に横になって、外をみれば、綺麗な満月が光り輝いているのが見える。裏の家と家の隙間に、ちょうど満月がある時だけに見れる光景だ。池に満月の光が反射しているのは、実に綺麗な光景だが、夜のダンジョンに出る気は無い。


 月光がダンジョンの池に反射して、全体が明るくみえる。水流(みる)もクーラーボックスから顔を出して、景色を楽しんでいるみたいだ。…ただし、目がどこにあるのかは謎だ。


 ただ、眠れない光景を見ているだけであるが、そうやって今日も深夜3時を迎える。そうなると何かしたわけでもないのに、お腹が空いてくる。今から台所を使う気はないが…。たぶん朝までは我慢出来ないだろう。何か食べるものはないだろうか。


******************************


 冷蔵庫を開けて、物色をするが、すぐに食べれそうなものは見つからない。さすがに今から火をつかう調理は勘弁してほしい。困ったな。戸棚の中にもポテトチップスとか、そういう類のものは見つからない。パスタなんかはあるが、今からお湯を沸かすのはさすがに憚られる。


 リビングに行けばもしかするといろいろおいてあるかもしれないが…。母が起きている可能性を考慮すると絶対に入りたくはない。


 魚の切り身でジャーキーみたいなものでも作っておくべきだったか。…そういえば()()()なんてものがあったな。次の大介鱒を使って作るのもありかもしれない。


*****************************


 お腹をすかせたまま自室に戻る。そのまま先程までと同じく、床に横になって外を見ようとして気がつく。


 網戸が開いている。


 そもそもなぜ私は、台所に行くときに窓を閉めなかったのか。完全に油断をしていた。私は網戸を開けていない。つまり、何者かが網戸を開けたはずだ。そしてそれは少なくとも水流ではない。そして、少なくとも部屋の中には私と水流しかいない。そもそも水流は、クーラーボックスの中にいるままだ。狭い部屋だから見落としているということは無いだろう。


 そもそも、何者かが侵入すれば、水流が気づくはずだ。つまり、外側から網戸が開けられていて、中には誰も入っていない…はずだ。そして水流はダンジョンに繋がる窓の方を向いている。景色を眺めているのではなく、やはり何かを警戒している感じがする。


 夕方に大介鱒を捌くために、もちこんだ刃物を置きっぱなしにしておいてよかった。部屋の隅においてあったセットから、刃物を取り出し、握り込む。忍び足で窓に近づき、カーテンを開ける。水流もクーラーボックスからでてきて、私の足元に近寄ってくる。


 部屋の中からダンジョンを見渡す。幸い、満月の明かりがあるので見通しは良い。…そしてその明るい池の中から、水流よりも遥かに大きな触手が一本、水面から生えている。大きさも太さも比較にはならないが、色や模様は水流に似ている気もする。


 そして、その触手が私の存在に気がついて、私の方に向かってくる。「これ、刃物で切れるのかな?」とか、「どうやって避けよう?」とか考える間もなく、触手が私に――


 ――到達する前に、細切れになる。


 足元の水流が、カーテンを作る時に使った魔法を発動させている。無数の渦が空間に発生し触手を分断している。バラバラになった触手の根本は、何故か、そのまま水の中に引っ込んでいく。


 私は網戸を閉めて、窓も閉めて、カーテンも閉める。水流を両手で掴んでクーラーボックスに入れて、そのまま毛布をかぶる。とりあえず窓さえ閉めていれば大丈夫だろう。きっとそうに違いない。…そうであるはずだ。それであれ。

別作あり〼

愛用のクッションがどうもなにか変

https://ncode.syosetu.com/n4475kl/


青空設置しました。

https://bsky.app/profile/sternjp.bsky.social

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