美味しいけど、美味しくない。
「…これって本当に高級魚なんか?」
裏庭ダンジョン(仮称)で、虫取り網を振るう。裏庭の池は、深さ広さも大したことが無い。そんな場所に泳いでいる『サクラサーモンモドキ』を捕まえるのに、対して苦労はしなかった。なにせ、網を振るうだけで、次から次へとはいってくるのだ。網の中に、2匹、3匹と入っている魚を見ていると、大したことがないようにしか思えなくなってくる。
確かにネットで調べたら『魚自体の捕獲難易度は高くない』とはなっていたが、こういう事か?後、『それなりにダンジョンの深い層で出現することが多い』ともあったな。…ここがダンジョンだとして、深い場所でないのは間違いない。なんせ地上だしな。
例外か?それとも、実はここが深層だったりするのか?後者だとしたら、深層と地上が直接つながってるのは何故だ?…うん。やっぱりありえないな。例外だと思ったほうがいいだろう。
水流には悪いが、一時的にクーラーボックスから出てもらい、バケツの中に移ってもらっている。そして空いたクーラーボックスには、掬い上げた『サクラサーモンモドキ』を入れていった。今は、氷と『サクラサーモンモドキ』がギチギチにつまっている。尚、水流にどいてもらう時に、『クーラーボックスを使いたいから、どいてほしいと。』と、口頭で説明してみた所、すんなりとクーラーボックスを開けてくれた。…やっぱ君、かなり知能高いよね?
指摘してみた所、「そんなことないですよ?」とでも言わんように、バケツの中をぴちぴちを泳ぎはじめた。まぁ、…うん。別にいいんだけどさ。まぁ、クーラーボックスは、今後も使うならば、買い足さないとダメそうだな。
クーラーボックスが魚でいっぱいになった後、何度か窓を開けしめしてみたが、やはり、いつ開けても、ダンジョン(たぶん)に繋がるようだ。クーラーボックスがいっぱいになるまで捕獲したというのに、未だにうじゃうじゃと裏庭を沢山の魚が泳いでいる。
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故に、本日の食卓は『サクラサーモンモドキ』づくしである。相変わらず魚は、捌いた後の片付けが面倒だ。ちなみに、何匹かからは、魔石もでてきた。まったくもって魚にしか見えないが、モンスターなんだな…。でてきた、魔石は前に拾ったやつといっしょに、スパークリングワインの空き瓶に保管している。瓶を傾けるとジャラジャラと音がするぐらいには集まった。
さて、肝心の『サクラサーモンモドキ』だが、とりあえず全部鱗を外して三枚おろしにした。食べきれない分は、真空パックにつめて冷凍に。一部は干物用に残した。今食べる分は、刺し身にしたものと、焼き物にしたものを用意した。基本的に刺し身だ。
そんな風に調理をしていると、親父が珍しく様子を見に来た。
「…なんかやけに時間を掛けていると思ったら、なんだその大量の魚は?どっから買ってきた?というか、お前が魚料理をするなんて珍しいな。普段あれだけ嫌がっているのに。」
まぁそうだよな。そうなる。
「知り合いが持ってきてくれたんだよ。『釣れすぎたからどうよ?』だってさ。」
「珍しいな、お前の知り合いが来るなんて。」
「朝一で釣りに行ったら、めちゃくちゃ釣れて困ったんだとさ。で、私が近くに住んでるのを思い出して、急に電話かけてきたんだよ。置くもの置いたら、さっさといっちゃった。」
「ふぅん。見たことがない魚だな。」
「私も見たこと無いんだよね。ただ、刺し身でも大丈夫だって。」
「海の魚っぽくはないが、本当に大丈夫なのか?」
「まぁ、不安なら刺し身は私だけが食べるよ。」
「そんなに数があるのか?」
「冷凍庫見てみなよ。」
「冷凍庫の半分、これ全部半身か?」
「そうだよ。結構大変だった。」
そう、途中で楽しくなっちゃって、本当にクーラーボックスいっぱいに獲ってしまったんだよな。乱獲と言われても仕方がないレベルだ。…うん、あまり、よく無いな。次からはもう少し気をつけよう。ただ、逃がす訳にもいかなかったので、全部きちんと捌いてある。結果、魚の切り身が、冷凍庫の半分を埋め尽くしているが。
「…ところで、その、慎一郎、母さんの『ごめん、聴きたくない。』…すまん。」
「…悪いけど、調理に集中したい。」
「あぁ…、すまなかったな。」
…少し刺し身の形が悪くなったな。これは私が食べよう。残りは、焼いたやつを親父に食べてもらって、反応を見てからだな。母は、魚が嫌いだし。
そんな事を考えつつ、形が悪い刺し身を味見した。あれだけ美味しい魚のハズなのに、あまり美味しくなかった。
別の作品もあります。よしなに。
愛用のクッションがどうもなにか変
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