世界がバグっていると感じるならば、大抵の場合において、壊れているのは自分の方だ。
ある日窓を開けたら、外が高級魚の生け簀になっていた。…いや誰も信じないだろ。そんなこと。
が、実際に、外を見ればこれだ。足首ほどの池となった裏庭に、『サクラサーモンモドキ』が何匹も泳いでいる。底に引き詰めた玉砂利の上を、すいすいと泳ぐ魚たちである。というか、さっき開けたときはこんな池なかったぞ。どうなってんだ。
再び素足のまま、裏庭へと降りる。
ひんやりとした冷たい水だ。雨も降っているが、雨水という感じもしない。そもそも雨水なら、コレだけ溜まるような量が降っていたら、我が家だけではなくここら一体の家が全部浸水しているハズだ。つまりこれは、雨水が溜まったものではない。にも関わらず、ブロック塀と家に囲まれた僅かなスペースが、高級魚の生け簀となってしまっている。
この状態だと、間違いなく基礎の通気口から、床下に浸水する。基礎の通気口を覗いて…あれ?
通気口で水が止まっている。予想では通気口にはめられた鉄格子の隙間から、大量の水がじゃぶじゃぶと床下に流れているはずだが、その通気口の入口で水が止まってしまっている。まるで空気の層でもあるかのような状態だ。…そう言えば、裏庭は家の表にも続いているはずだが、そっちはどうなっている?
流石にこのままでは表までは行けないので、下駄箱から長靴を引っ張り出す。…数年は履いた記憶がない。かなりきついが、素足のまま無理やり足をねじ込む。…ヨシ。
長靴をはいて、裏庭に降りる。そのまま池となった裏庭をじゃぶじゃぶと進んでいく。波を立てるたびに、魚たちがブロック塀の隅の方へと逃げていく。裏庭の端っこに到達し、表へと続く小道へにはいると、池はまだ続いている。そのまま小道を進むと…正面につながる扉がある。
要するに、家の外から玄関を正面にした時に、家の左手に裏庭に続く扉が有り、そこから家の裏庭に続く。裏庭は家の裏側いっぱいに横に細長く伸びており、右端の終着点が私の部屋となる。そこから先は隣の家となるので、ちょうど裏庭とそこに続く小道を合わせると、『厂』のような形をしているのだ。
そして、今、裏庭側から正面へと続く扉を開けようとして…開かない。というか触れられない。まるで極めて透明度の高いガラスが置いてあるかのように、そこで隔てられている。そう、そこで世界が終わっている。そんな感じがする。
扉の向こうを見ようとして縁に足をかけて、扉の上から覗くような形で外を見る…。普通に外がみえるだけだ。試しに、扉の上側を越えてみようとしたが、やはり、透明な壁がある。『ゴン』という音とともに、頭をぶつける。
「痛い。」
私は、部屋に戻ると、これまた再び、玄関から家の外に出る。裏庭に続く小道の扉を開けると…なんの変哲もない小道がある。雨が降っているから、少しの水たまりは出来ているが、池と言うにはほど遠い状態である。
「…どうなってんだよコレ。」
一言で言うなら…そうだ、世界がバグっている。そんな感じだ。
別の作品もあります。よしなに。
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