だって、水流の方が早いし。…神埼の方が早いかもしれない。
神埼は動けない。私は非力。砂塚はいつもの武器を持ってない。その中に武器を持っている、犯罪者が突っ込んでくる。砂塚なら魔法も使えるけど、流石にいきなりぶっぱなすのはまずい。しかも一応協会内だし。っていうか、物騒な言い方をすれば防衛以上の事をすれば、たぶん過剰防衛になる。あとできれば、捕獲して何を企んでるのかを吐かせるのが、今後の為にも良いだろう。たぶん砂塚もその点は理解しているはずだ。
男は喋ることなく、懐から何かを取り出す。棒状の打撃武器に見えるが、はっきりと視認できない。概ね予想はあたってそうだが、このままだと私の脳天がかち割れるだろう。だが、武器は預けたけど装備や道具を預けたとは言ってない。確かに、槍やトンファーやロッドに棍棒は預けたさ。でも、神埼の武器は拳だし靴は安全靴のままだ。…まぁその神埼は今は無効化されてる訳だけど。
つまり、武器の持ち込みが制限されてはいる(ただし、目の前の男のように隠して持ち込むぐらいはできる程度のザルではあるが)が、だからと言って戦えない訳ではない。まぁ、ようするに危険物持ち込み禁止っていうだけで、手荷物検査をきちんとしてる訳じゃないからな。…つまり何が言いたいかと言うと、カバンの中にはいろいろはいったままだし、ポケットにはいつもの道具が準備されている訳で。
「裏野さん。」
「まっすぐこっちを見てくれて、本当に助かる。」
まっすぐこちらに向かって突っ込んできた男に対して、私はポケットからフラッシュライトを取り出して、目に向かって光を当てる。暗闇であてた時のようなほどの威力はないけれども、相手の視界をつぶすには十分な光量だ。そもそも、人間というか生物には反射反応がある。強烈な光を目視して、一瞬でもそれに反応すれば良い。あぁ、そうさ、その警戒をしてないのが悪い。
「ッ…!?」
強力な光をくらって、悲鳴一つあげないのは見事だけど、もう、アイツには何も見えてないだろう。まったくなんだが、私を狙う割に私の情報をちゃんと持ってないな?ダンジョンで死にかけた時の戦法を、そのまま繰り返しているだけだ。もし本気で私を狙うのならば、警戒しないと駄目なんだが。
「死ねっボケ!」
「砂塚、オブラート。」
普段の理知的?冷静?な面が、消えて酒クズ的なところが出てるぞ。まぁ、気持ちは分かる。こんなところで、襲ってくるアホに対して、正直同様の感想を抱いてはいる。
<<ゴキッ>>
人体からしてはいけない音がしながら、アホの体が向かってきたこちらとは、逆方向に吹き飛んでいく。砂塚の全力の蹴りがクリーンヒットし、その衝撃で軽々とふっとばされたのだ。普通の人間なら無理だろう。だが、忘れてるかもしれないが砂塚はCランクの探索者だ。本気を出せば、中層でも叩ける探索者が、普段はモンスターに向ける本気を、人間に向ければ…まぁ、こうなるな。
<<ガシャン>>と派手な音をしながら、机やらなにやらを巻き込んで派手に吹っ飛んだ男は、その後もゴロゴロと床を転がる。神埼を無力化するという段取りをとった割に(ただし偶然であるが)、あまりにもあっけなさすぎる。…これ、計画者と実行者別のやつだな。ということは、この男は囮かも。まだ他に共犯者がいる?
そう認識したとたん、ドンッと砂塚に突き飛ばされる。先ほど男に向けたものとは違い、軽いものであるが非力な私には十分に痛い。その代わり、先程まで私がいたはずの場所を、何かが高速で通り過ぎていく。このような状況下ではあるが、一周回って冷静になった頭は「まぁそうだよな、二段構えだよな。」と、まるで他人事のように状況分析を始めている。
とりあえず次にすべきは、このまま着弾点を見届けるのではなくて、発射点を確認するのと他に襲撃者がいないかという点。それから、今吹っ飛んでいった男を追跡して、完全な無力化を実施する事。幸い、その方法にはとても簡単な方法が存在しており、先程神埼が口をつけたお茶を、強引に男に流し込めば良い。…いや、神埼にはちょっと悪いけど。まぁ。うん。…武器のほうも回収していいんだけど、毒が塗られた場合厄介だしその可能性が高いので、否決。
正直アレだな。触手に足を絡め取られて、暗闇に引きずり込まれた時の方が何倍もやばかった。それに比べれば、この襲撃?は正直な所、児戯に等しい。あの夜にあの暗闇で対峙した、あの池から出てきたあの触手に比べると月とスッポン。得体のしれない怖さも野性的な殺気も未知なるものへの恐怖も、何もかもが欠けている。まぁ、それがあった場合、こいつら人間じゃなくなるか。それが人間の限界だろ。
あれだな。ようするにこういう事かな。「水流より弱いなら、正直別に…。」だ。うちの同居触手との比較が入る。自分が実際に対峙するならまた別問題なんだけど。…そう思うと、この中途半端さ。逆にムカついてきたな。こんなことで私を…どうするつもりだったかはしらないけど、「どうにかできる。」って思ってたんだろ。
あと、今飛んできた"何か"より、水流の全速力のほうが早い。あれはだって目で追えないもん。それにくらべれば、遅すぎる。だから、そう、発射位置はあっちだろ。…あー、あいつ、このお茶持ってきた職員じゃね?顔じゃわかんないけど、格好は覚えてる。顔?覚えられるわけないだろ。
「砂塚、アイツ、このお茶持ってきたやつ。たぶん魔法使い。」
「ッ!ナイスです!」
あー、あいつ、魔法撃ったのに逃げようとしてないな。こういう場合って、即離脱が正解だろ。つまり想定にはなるけど、魔法職が不意打ちで魔法をつかったんなら、その後単独で近接戦闘に持ち込まれるとどうなるかっていう話。まぁ相手が不憫な点をあげるとしたら、どいつもこいつも水流に比べると圧倒的ウスノロって所か。
…いや、もしかすると神埼のほうは早いかもしれないのは…それはそれでどうなんだろう。
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
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青空設置しました。
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