またしても何も知らされていない、中年男性。
「はい、ちゃんと髭剃れてますね。髪もパサパサじゃないですね。ちゃんとリンス使ってるみたいですね。」
「なぁ、流石にバカにしてるのか?砂塚。」
「半ホームレスみたいな風貌をしていた男が何を。」
「流石に風呂には入ってるわ!」
「先輩、そういう問題じゃないです…。」
だって、基本、外出ないし。…最近はなんやかんやこうやって、外に引きずり出されてるけどさ。何度も言っているように、引き篭もれるなら引きこもりたいんだよ私は。人と話すのって疲れるし。家族と話すのでも疲れるんだからさ。コミュニケーションにコスト掛けるぐらいなら、部屋でゆったりしていたいだけなんだよ。
そう主張しても、まぁ理解されないんだろうけど。
「それはそれとして、香水でもぶっかけてやろうと思ってたんですけど…いい香りしますね。既に神埼さんが香水を?」
「あ、それ気になってたんですよね。もとからこの香りしてましたよ。」
「お前らな…。いや、言うほど私って香水かける程、匂い、気になるか?私?」
「まぁ、少しは。」
「どうしても、男性らしい匂いは普段しますね。」
「…。」
いや、臭いとかなら分かるけど、そんな男性の匂いとかもう不可抗力だろ。どうしろって言うんだよ。
「それはそれとして、香水みたいな匂いじゃないんですよね。ハーブみたいな…なんの香りですコレ?」
「あー…。風呂に入れた、レモンバームとローズマリーかな?」
「入浴剤ですか?」
「いや、フレッシュハーブだ。家で育ててる。」
「へぇ、それはそれは。後で詳しく教えていただけます?」
「…先輩、その話、後で詳しく。」
「…?分かった?」
あれ?二人にはハーブを育ててる事とか、言ってなかったっけ?どうだったかな。西田は知ってるハズだけど、砂塚と神埼ってどうだったっけ。っていうか、二人もハーブ興味あるんだな。なんか、もう、獲物を狙う猫みたいな目してるのがちょっと気になるけど。あっそうだ。
「レモンバームのハーブティーなら、水筒に入れてきたけど飲むか?今朝、起きてから摘んだばかりのフレッシュから、抽出したやつなんだけど。」
「そうですね。少しいただけますか?」
「私もー!」
食いつきが良いな。やっぱり、二人もハーブに興味あるみたいだな。レモンバームなら、毎日摘んでも次の日にはわっさりと増殖しているので、どれだけでも取れるし。フレッシュな葉も、乾燥したレモンバームもお風呂に入れても平気なぐらい大量にある。今度、ティーバックに加工して、分けてやるか。
…うん。やっぱりハーブティーを飲むと、なんだか気持ちが落ち着く。ココまで来たら、堂々と表彰受けて、ささっとイベントをこなしてしまおう。
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「——探索者の目指すべき模範を身を以って示しました。また、葦附ダンジョン第二階層の異変の元凶を突き止め、その異変の鎮圧に尽力されました。その功績を認めると共に、探索者協会に貢献するところ、誠に大なるものがあります。その栄誉を称え、ここに表彰いたします。」
おい、ふざけんなガチの表彰じゃねーか。目の前にいる人、なんかめっちゃ偉そうなんだけど。おーい!砂塚!お前!わざと黙ってだろ!お前!めっちゃ人はいるわ、カメラは眩しいわ、なんか、大勢の前に立たせられるわ、仰々しく名前は呼ばれるわ。
こっちとらもう、ちい◯わになるしか無いんだわ!わっ…わぁ…!
泣いちゃった。道理で、なんかやけに厳重に髭をチェックしてくると思ったし、あぁそうか、香水ぶっかけるとかもそのためか。くそ、その話がでた時点で疑うべきだっった。普段の私なら絶対に、「おい、香水かけるレベルの話なのか?」って絶対に気がついたハズなんだ。何も知らされてないの、またしても私だけのパターンだろこれ。ちゃっかり、アイツら二人は横に並んで黙って立ってるだけだし。
なんだよ、「ちょっと人を救出したから、ちょと感謝状がでますよ!」みたいなノリとテンションだったじゃん!これは、もう、そういうレベルのやつでは無いだろ!
あぁ、道理で服も靴も一式全部、新しくされる訳だよ。いや、探索用の装備に着替えたけどさ。もうしばらく、外を出歩けないだろうが。それに探索者助けたっていっても、神埼のフィジカルに任せて強引に引きずっただけじゃないか。いいのか?これで、こんな感じで、こんなんで本当に良いのか?なぁ、砂塚、おーい!
「わっ…わぁ…。」
「(もう少し耐えてください。あとそれ以上それやるとまずいんでやめてください。)」
「(事前に教えてくれたら、もう少し覚悟できたんだよ!)」
「(事前に伝えたら、絶対逃げましたよね?)」
「(当たり前だろ!!)」
逃げるさ!当然!決まってるだろ!
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「先輩、ちい◯わは権利的にまずいから、もうやめてくださいね。」
「じゃぁ、どうしろっていうんだよ…。」
頭が真っ白なうちに、表彰が終わりました。もう何があったかぶっちゃけ何も覚えてない。ただ、ひたすら辛くて惨めだった。コミュ障をフォーマルな場所に、しかも大勢の前にだすんじゃないよ。フォーマルモードに切り替えるのが大変なんだよ。しかも、フォーマルモード中は、秒単位で精神が摩耗するし。コミュ障にとって、人の注目があつまるってのは、まじで疲れるんだぞ。まぁ、私服に装備をつけた格好で助かった。フォーマルなスーツだったら即死だった。
実際、表彰が終わって休憩時間なんだけど、用意された席で机に突っ伏している。朝早く起きた為の眠気とかは、協会についたあたりで吹き飛んだけど、今更の話だ。コミュ障は、人の目を見るだけでも大変なんだぞ。表彰中に何度、目の前の人から目線を外して、天井を見上げそうとなったか。仕事モードに無理やり切り替えて、乗り切った事、そっちの方を褒め称えてくれと言いたい。人助けとかぶっちゃけどうでもいいし、協会への貢献とかも正直どうでもいい。
そんなやつが、なんで表彰受けてんだ。
あーもう、力を持って勘違いしてPKとかするアホの犯罪者とかがいるからこうなるんだよ。当たり前なことをしただけでそうなるのは、何か間違っているぞ。なんていうか、そう、世の中クソだな。
…そういうわけで、私はただびくびくと怯えながら無難な言葉で応対するだけのマシーンの役割を全うしたけっか、もうライフがゼロである。イベントが終わってようやくお役御免っぽいので、こうやって休憩している訳だ。ま、いろいろと協会が用意してくれたのでそこは悪い気はしない。今もこう、協会が用意してくれたお茶を飲むけど、正直な所、あまり美味しくない。持参した水筒に入ってるハーブティーの方が、何倍も美味しい。
…いや、不味すぎないか?なんかおかしくないか?こんな不味い事あるか?緊張のせいで味がしないとかいうヤツかと思ったけど、純粋になんか不味い気がする。
「なぁ、神埼、砂塚、このお茶なんか不味くないか?」
「えっそんな馬鹿な?そんな事、有る訳無いと思いますが。」
「いや、普通に不味いぞ。」
「緊張で、舌までおかしくなりました?」
「…いや、なんていうか、変な味がする。」
「先輩の味覚ってどうでしたっけ?信用できます?」
「さぁどうだろうか。貧乏舌の自覚はあるけど。」
まぁ、最近の食生活は特に偏ってるからな。馬鹿舌と言われても仕方がない所はあるけど、どう考えてもハーブティーより不味いんだよな。一口飲んじゃったけど、正直もう飲みたくない。
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
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青空設置しました。
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