残心を怠ることなかれ。絶対にだ。
痛い。
じくじくと腹部が痛い。
それよりも、寝てたっけ。
というか、腹部だけじゃないな。全身がバキバキと痛む。
——手探りで地面を探るが、どこもここもヌルヌルしている。寝ていた理由も、腹部と全身の痛みもなぜなのか思い出せないが、頭が疼く。その疼きが『早く目を覚ませ』と、脳内の警鐘を連打する。動かないはずの体が、勝手に反応してチカチカする目をなんとか開けながら、ぬめる地面に手をついて、なんとかヒザ立ちで起き上がる。
口内かはら鉄の味がするが、どうやら舌を噛んだようだ。幸い噛み切ってはいないらしく、ちょっと出血してるぐらいな感じだ。昔、自転車で盛大にコケたときはもっと血の味がした。すくなくとも、あの時よりは軽症だ。あの時は自転車もぱぁになったし、全身怪我だらけで病院と歯医者に高い金を払うことになった。
目を開いてあたりを見回すと、あちこちの触手が泡を立てながらボロボロと溶けて崩れていく光景が目に入った。…あぁそうだ、私はここに引きずり込まれたんだっけ。…なんで触手が溶けてるんだ?
体をよく見ると、腹部と胸部に触手が巻き付いているが、どうも締め付ける感じじゃない。むしろ、腹部に巻き付いた触手には、別の触手が突き刺さっている。こちらも泡を立てながら、どろどろと溶けようとしている。…どうも、私を突き刺そうとした触手と、私に巻き付こうとした触手があるみたいだ。
天井も壁も床も、どろどろと崩れはじめて、水に浸っている触手も水に溶けて消えていこうとしている。それと別に、見たこともない大きな魔石が、触手の塊から姿をあらわす。…これが湖の魚達に魔力を供給してた元凶だ。しかし、その魔石はあまりにも大きすぎて、そのまま崩れて溶けていく触手とともに水中に沈んでしまった。…まぁ魔石のままなら水に魔力としては溶け出さないだろう。たぶん。
入口を塞いでいた触手も、バラバラにほどけて消えていき、入口から光が差し込んでくる。それと同時に、神埼と砂塚が小部屋に飛び込んでくる。
「裏野さん!」
「先輩!」
「ぐえっ!」
神埼の突進を直に食らう。正直、めちゃくちゃ痛い。続けて砂塚が周りのでろでろの触手を槍で払いながら、私に近づいてくる。
「生きてますか?」
「足はちゃんと付いてるぞ。」
なんとか呼吸を整えて、やっとかっと声を絞り出す。
「冗談を返せるなら大丈夫そうですね。」
「ぬかしよる。」
実際、大丈夫ではなさそうだが、なんとか生きてたという感じだ。おそらく腹部に巻き付いた触手がなければ、今頃内臓がこのあたりに散らばっていたことだろう。…なんで腹部に触手を巻いたんだ?そのまま貫けば死んだのに。…まぁ、モンスターがやることはよくわからん。
…そういえば、あのシマシマ、アイツどうなった?
あたりをよくよく見渡すと、私が引きずり込まれてもといた位置から、かなり大幅に移動している。たぶんそれだけ吹っ飛んだんだろう。もともと私がいた位置から計算すると、あの辺りに…あるな。緑と黄緑のシマシマに、フラッシュライトが突き刺さっている上に、体の一部が破けて、中身がとびでている。
自覚はないが、相当強く棍棒を叩きつけられたようで、落ちている棍棒には緑の体液がべっとりとこびりついている。冷静になって気がついたが、両手じんじんとしびれているし、肩も痛い。全力で無理やりスイングしたせいだ。まぁ触手が溶けている理由との因果関係が、何もわからないが。…とりあえずこれで討伐できたかな。…本当に?…周りの触手は溶けているのに?まだ形を残してるのに?…頭がひどく疼く。まずい気がする。
「砂塚。」
「はい?なんです?」
砂塚の返事と共に、私はそれに目線を合わせる。それだけで砂塚が察する。素早く槍を構えて、転がっているシマシマを全力で突き刺す。ビクリとシマシマがのたうち回り、ビクビクと跳ね回る。まだ生きている。終わってない。それを見た神埼も、私から離れて戦闘態勢を取る。私もなんとか棍棒を拾い上げて、痺れる手で構え直す。
音もなくシマシマはこちらに飛びかかってくる…が、神埼の方が早い。そのまま飛びかかってくるソイツを手刀で叩き落とす。…前にも見たなこの光景。ベチャッという音とともに、破けた皮膚からさらに緑の体液が地面へとぶちまけられる。
そこにすかさず砂塚が切り込む。
「ブースト!」
強化魔法を使い、強化した身体能力から繰り出される連撃で、次々とシマシマの全身に切り込みがはいっていき、ますます緑の液体が地面を汚していく。発声器官がないが、あったらおそらく悲鳴が響いているんだろう。ビクビクとのたうち、転げ回るがまだ絶命しない。しぶとい。
「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
地面を踏みしめて、息を無理やり吸い込み、吐き出し、唸り声をあげて、無理やり全身を奮い立たせる。痺れる両手を無理して、棍棒を死ぬ気で握りしめて、…もう一度だけ。もう一度だけ、全力を絞り出す。高く振り上げた棍棒を、縦に振り下ろして、地面ごと叩きつける。
ドチュッ…という音がして、大量の返り血を浴びる。せっかくのコートが真緑に染まるが、ようやくビクビクと動いていたシマシマが沈黙する。そのまま念の為、二度、三度と、シマシマを潰して反応が無いことを確認する。まったく、泥臭いやり方だが、絶対にここでトドメさすにはこれが単純で正解だろう。それが確認できて、ついにその手を止める。その後も、そのまま再び動き出さないかを、体感1分ぐらいじっくりと観察して、動かないこと確かめる。
やがて、それの絶命を確信して、ようやく棍棒を地面へと落とした私は、そのまま地面へと倒れ込み意識を手放した。
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
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青空設置しました。
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