結局、私が一番お荷物のような気がする。
ネズミ型モンスターを討伐した。討伐したのはいいけど、想像していたような達成感とか充実感というものは欠片も無かった。ただ、棍棒で殴るだけでも、魚から生き物みたいなものに変わるだけで、かなり精神的にも体力的にもキツイ。なんとか倒したが、シールドで受けた時の衝撃に、棍棒で叩き潰した時の感触が両手にそのまま残っている。
「裏野さん、どうでした討伐は?」
「…。」
「まぁ、その反応が普通です。何故スライムがでるダンジョンが、老若男女に人気なのかよく分かりますよね。」
あぁ。よく分かる。スライムは叩き潰しても、所詮スライムだ。ジェル状の何かをぱしゃぱしゃと作業的に、しかもワンサイドゲームで叩きのめせる。これがネズミになったとたん、襲ってくる危険があるだけじゃなくて生々しいあれこれを見なければならない。神埼がこんなにあっけなく、簡単に討伐しているのは正直ヤバいと思う。
「これが探索者です。どうしますか?帰還しますか?」
「…つづける。」
「おや、意外と根性あります?」
「…。」
正直キツイが、慣れなければならない。水筒を取り出して水を飲み干すと、今しがた叩き潰したボールだったものの頭をもう一度棍棒で叩き潰す。ぐにゃりとした感触とともに、額にある魔石が衝撃ではずれて少し遠くに吹き飛ぶ。ナイフで外しても良かったが、正直ナイフを使うとなるとボールだったものに、直接触れることになるので、それだけは今はやりたくなかった。
やっとかっとで手に入れた魔石は、手のひらでコロコロと転がる程度の大きさしかない。売ったところで数百円すれば良いだろう。ネズミの肉の方は…なににもなりそうはないし、叩きつけた衝撃でボロボロだ。というか、地面にめり込んでるし、正直手を付けたくない。
「にしても、これどうやったんです?岩の地面に見事にめり込んでますけど。」
「…。」
そう言われれば…変か?正直、今は冷静ではない。興奮とか嫌悪とか後ろめたさとか気持ち悪さとか、いろんな感情でぐちゃぐちゃだ。だが、言われてみればおかしい気もするが。正直、いまはそんな事よりもただただ心が落ち着くまでゆっくりしていたい。
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「落ち着きましたか?」
「はい。」
結局、三階層入口付近までもどって落ち着くまで休憩していた。砂塚は私の付き添いを、神埼は砂塚から見える範囲でモンスター狩りを続行していた。…あいつ一人でいいんじゃないかな。後衛いる?
「にしてもすごいですね。素手な上に底なしの体力ですか。もしかするとレア職業持ち?すくなくともスキルぐらいは持ってそうですけど、本人にはまったく自覚なさそうですね。」
戦う神埼を見ながら、砂塚はぶつぶつと何かをしゃべっている。ちなみにもっぱら倒してるのは、例のネズミのモンスターと、魚っぽい何かぐらいだ。まぁ低階層だから、それほど多数の種類のモンスターに出現されても困るか。あの猿は結局、二匹目をまだ見てないし、例外だったんだろう。こうやって考えると、やはり初めての戦闘らしい戦闘を、あのネズミできちんと経験できてよかったかもしれない。初戦があの猿だと考えると、かなり怖い。
…しかし、ネズミ一匹でアレなのはこの先が思いやられる。こんなところで立ち止まっている訳にはいかないのだ。それに、このままではぶっちゃけ赤字である。これだけ時間を使って、ネズミの魔石一つしか持ち帰れないのは大問題だ。このあとも、いくつも魔石を取らないと困る。ネズミの命よりも私の生活費の方が大事だ。
まだ足も手も重たいけれど、座っていた岩から立ち上がって神埼がいる方向へ歩き出す。それに合わせて砂塚も神埼を呼び戻す。
「神埼さん、戻ってきてください。ツーマンセルに戻しますよー。」
「はーい!」
神埼が砂塚の声に反応して、Uターンしてこちらに戻って来る。…しかし、それをずっと待っていたかの様に、すこし離れた岩陰からモンスターが二体飛び出してくる。神埼はそれに気が付かずに、こちらの方へと歩いてくる。まずい。
「…。」
神埼が最初に倒した猿のモンスターだ。…その倒した個体より、もしかすると一回り大きいかもしれない。しかもあの個体は少なくとも出現して鳴いていたのに、今出現した個体は静かに、神埼を狙っているように見える。
それを見た瞬間、砂塚は全力疾走で神埼の方へ走り出す。少し距離があった神埼と砂塚との距離は、あっという間に縮まっていく。私もそれを見て、まだガクガクとする足を前へ出して走り始める。いろいろな考えが頭の中を駆け巡りはじめるが、一度すべて抑え込んで、とにかく神埼との合流を第一に考える。
「神埼!後ろ!猿!」
断片的にだが、圧縮言語で猿の出現を神埼に対して叫ぶ。
「スピード・ブースト。」
砂塚はおそらくスキルを詠唱して、神埼を跳び越す。猿と神埼の間に割って入って、そのまま腰の棍棒を…いや、棍棒じゃないな。柄の部分が伸びて、先には刃がついている…槍か?先刻まで私の隣にいたはずの砂塚は、既に神埼よりも向こう側にいて、モンスターへの迎撃体制を整えている。
「砂塚ちゃん!?」
この段階になって、神埼も何が起きているのかを把握したようで、モンスターに背を向けていた事実を認識する。私と神埼との距離は未だに縮まっていない。砂塚が既に迎撃体制を整えているから問題ないし、私がモンスターと対峙したところで、なんの役にも立たないが、少なくとも神埼とは合流するべきだ。バラバラにいるよりも、神埼とツーマンセルを形成した方がいい。
その間に、砂塚は既にモンスターに向かって槍を振り回しており、槍が一匹目の猿の胸部を強打する。その衝撃で猿は後ろに吹っ飛んでいく。やはり「ぷぎゅっ」という、鳴き声だかなんだか分からない声がモンスターの口から漏れている。ふっとばされたモンスターは、口から泡を吐いて地面でもんどりを打ってのたうち回っている。おそらく胸部を強打されたために、呼吸ができないのだろう。少なくともすぐには動けそうにはない。死んではなさそうだが、無力化は成功しているだろう。
二匹目の猿は一匹目が一蹴されたのを見て、姿勢を低くしながら砂塚の足元を狙う。行動も状況把握も早い。だが、これも砂塚に近づく前に、砂塚が振り下ろした槍が猿の脳天に直撃する。猿も早かったが、砂塚の方が行動も戦闘考察も早い。一瞬だけど、槍にあわせて銀閃が見えたような気がする。これもスキルか?それとも早すぎて、そう見えただけか。
二匹目は力なく地面に、倒れ伏してピクピクと痙攣している。体液が激しく地面を濡らしており、おそらくもう動くことはないだろう。…結局は、私と神埼が合流する前に、砂塚が電光石火で片付けてしまった。これがスキルを使えるC級探索者か。なるほど、遠そうだ。
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
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青空設置しました。
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