全ての新人が経験する、ただの通過儀礼。
「エイッ!」
出現したちょっと大きなネズミ?のモンスターの突進…いや、跳躍?を、神埼が素手で叩き落とす。そのまま飛びかかるつもりだったネズミ?は、地面に叩きつけられてバウンドする。まるでボールのようにみえるが、あれはボールではない。大きさ的には、2Lのペットボトルぐらいか?いや、そう考えるとやっぱちょっと大きいじゃなくて、大きいな。
「普通はシールドで止めたり、棍棒で振り抜いたりするんですけど…。突進を受け止めて動きを止めるか、突進を躱して背面から攻撃するか、あるいは正面から武器で迎撃するかなんですけど、どうして素手で叩き落とせるんですかね?いや、まぁ、確かにできなくはないんですけどもっとこう、躊躇いとか普通あるはずなんですけど。」
「なるほど。ちなみに後衛は、やる事がないので正解か?」
「そうなんですよね。前衛が正面を抑えて、後衛が中遠距離で攻撃するっていうのがツーマンセルでの想定なんですけど、先刻から前衛だけで戦闘が完結してるんですよね…。」
あとはバウンドした、ネズミ?の首を神埼が蹴り飛ばすと、そのままネズミはピクリとも動かなくなる。たしかに見た目だけがあれで、第三階層では大した敵はまだ出てこないんだろう。だからといって、人間が素手で倒せるのは、何かが間違っている気がするというか、間違っている。
「砂塚ちゃん。歯ごたえがありません!」
「あー。うん。もうそれでいいよ。」
よくないんだよな。戦闘の練習になってない。いや、まぁ、後方警戒の務めを果たしていると言えなくもないが…。
「にしても、思ったより平和だな。もっとルーキーシュレッダーみたいに、バンバン魔法を使ってくるのかと思ってたんだが。」
「第三階層はそうですね。通常のダンジョンはコレぐらいの難易度です。魔法やスキルを使ってくる場合もありますけど、アレが異常なだけです。」
「なるほどねぇ。」
「いわゆる犬や蟲みたいなモンスターがでてくるダンジョンだと、もうちょっとフィジカル的にキツイんですけど。ネズミ型のモンスターは低階層で出る定番ですし、素手であれだけ戦えるなら、まぁ、他のダンジョンでも問題ないですね。…いや、素手なのは問題なんですけど。」
そう言って砂塚は、戦闘が終わった神埼を呼び戻す。神埼については諦めたようで、そのまま素手で戦う方向を伸ばす方向でシフトするらしい。確かにそういう職業もあるらしいが、神埼のフィジカルな強さは私にも分かるけど異常だ。
「砂塚。そろそろ私も戦ったほうがいいか?」
「あ、そうですね。後衛と言えども、近接戦闘は最低限できたほうがいいですし。」
「分かった。」
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「神埼さんみたいな芸当はしなくていいんで、普通に棍棒で戦ってみてください。駄目だと思ったら私が介入するので。」
「できねーよ。」
「なんか、馬鹿にされてる気がする…。」
「褒めてるよ。一応。」
「あ、神埼ちゃん酷い!」
というわけで、ネズミとエンカウント。岩の隙間をうろちょろしているのは、全部コイツみたいで、意外とよくエンカウントする。動きは素早いけど、神埼は割とワンパンで処したりしていたので、どれぐらい強いかは実はよく分かっていない。
「おっと。」
なので、正面からぶつかるのは避ける。最初の跳躍を回避して、ネズミの背中をとる。棍棒を振り上げて、ネズミの背後から振り下ろす。…が、流石にモンスター。バランスを崩すどころか、即座に反転して迎撃体制を整えている。本物のネズミとこんな風に戦った事は無いので、単純に比較はでき無いが、少なくとも引きこもりニートよりも反応速度は早そうだ。
「ぢゅっ!」
棍棒はネズミにあたったがジャストミートとはいかず、なんと攻撃を受けながらも再びこちらに飛びかかってくる。神埼との戦闘じゃ、一度も鳴き声なんてあげてなかっただろコイツら。…とっさにその跳躍をシールドで受け止める。透明な強化ポリカーボネートのシールドにぶつかったネズミは、その衝撃で後退する。当然私もその衝撃でノックバックする。
私はなんとかよろけないように、その場でしっかりと踏ん張る。確かに衝撃は強いが、吹き飛ばされる程ではない。透明なので裏から見えるが、シールドにはネズミがぶつかった跡がくっきりと汚れて残っている。態勢を整えたいが、流石に衝撃を耐えるのにやっとだ。
態勢を立て直すのはネズミのほうが先だった。再び跳躍でこちら側に飛びかかってくる。先ほどガードしたシールドを付けている左腕は、すぐに動かせそうにはないので、今度は棍棒を振り下ろして正面からの迎撃を選ぶ。例えるならネズミがボールで、棍棒がバットだ。
パキッ
バットはボールの芯を捉えたようで、そのままボールは地面へと叩きつけられ…いやまて、ボールが地面にめり込んでいる。私はそんな勢いで、バットを振り下ろしてないぞ…?まぁ、とにかく、なんとか迎撃に成功はした。地面にめり込んだボールからは、バキバキベキベキと、ボールの中にある構造材がへし折れる音が鳴り響いてくる。
「はぁ…。はぁ…。」
たった一回フルスイングしただけだが、ひどく疲れた。しかし、なんとか初めての近接戦闘に成功する。秒数にしてはそれほど時間はたってないはずだが、たったそれだけで、これだ。緊張と披露でぜぇはぁと、やっとかっとで呼吸をする。棍棒を叩きつけたときの妙な感触と、シールドでガードしたときの衝撃の名残が両手を震わせる。
スライムのときはワンサイドゲームだったし、魚は普通に魚だったのでモンスターを倒したという実感はなかったし、ちゃんとした戦闘も経験していない。初めて明確に、この手でモンスターを倒したが、ぐしゃっとした感触が、正直気持ち悪い。神埼と砂塚が何かを喋っているが、正直何も頭に入ってこない。その場で膝をついて、荒い呼吸を繰り返す。
戦闘終了の余韻とか達成感とか、そんなものはまったく無い。ボールから飛び散った液体が、ただただ気持ち悪い。それも、それなりに大きさがあるから、バッチリとこの目で全部が見える。
とりあえず、水が飲みたい。
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
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青空設置しました。
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