お飾りの後衛、お飾りの棍棒、お飾りのシールド、飾りじゃないモンスター。
葦附ダンジョン第三階層も、第一・二階層と同じような地形をしている。ダンジョンにも様々なタイプがあるが、基本的にはダンジョンは階層が変われば環境が変わってもおかしくない。基本的に二階層が地続きでセットになっているので、第一・二階層と、第三・四階層といった感じで二階層ずつで環境が変わる。
自室から繋がるプライベートダンジョンは、便宜上、洞窟の方を第二階層としているが実際の所あれが本当に第二階層かは実は定かではない。ただ空間が完全にセパレートされているのでおそらく第二階層で間違いない。この場合は階層がセットではなくて、完全にセパレートされているタイプのダンジョンになる。まぁそもそもあのプライベートダンジョンの存在自体が特殊ではあるが。
大型のダンジョンになればなるほど、前者の二階層セット型のダンジョンが増える傾向がある。もちろん例外もあるが。逆に小規模のダンジョンだと、後者の完全階層セパレート型のダンジョンが多い。また、ダンジョンは成長することが確認されているので、最初はセパレートタイプだったダンジョンが、後から完全に階層が変わって、二階層セット型ダンジョンに変化することも無くはない。無論、この他にも変わったタイプのダンジョンもあるが、概ねこの二種類のダンジョン型が基本的なダンジョンの構成だ。
そして、通常、階層が変わればダンジョンも環境が変わったりするが、このようにほとんど変わらないダンジョンも存在する。たとえば深海型ダンジョンだと、丸ごと水没していて、海底探索をするようなダンジョンも存在するぐらいだ。そして、葦附は湿地・川・渓谷をベースとしたダンジョンになっているようで、ダンジョン環境は第三階層でも大きくは変わらなかった。ただし、地形はより一層険しくなっているが。
湿地・池が多かった入口に比べて、あからさまに河川となっている。ゴツゴツして険しい岩の地形に、急流が流れている。幸い山登りみたいな地形ではないが、濡れた岩肌に苔や藻が大量に繁殖していて、見るからに滑りそうだ。川が流れていないところも、いたるところからチョロチョロと水音が聞こえて、よくよくみると、岩と岩の間に水が流れてたりする。そして、その岩の間をうろちょろするモンスターが見える。
「神埼さんは裏野さんから離れすぎないように。裏野さんは神埼さんに近づきすぎないように。」
「分かった。」
「はーい。」
神埼は相変わらず器用に、悪い足場をぴょんぴょんと普通の靴で跳ねて進む。私は慎重に、岩から岩へ足元を確認しつつ、神埼に追いつこうとする。
「神埼さん、早すぎます。」
「分かりました。」
砂塚に指摘されて、神埼はペースを落とす。そうこうして、苦労しながら第三階層を進んでいく。といっても、今回は奥に向かうのではなく、砂塚による探索と戦闘の指導が目的だ。そのため入口から近い場所を、ぐるぐると周回する予定になっている。
悪い足場になれつつ、神埼との距離を調整する。今までとは違い、神埼も私との距離を気にしながら、時折岩の影をしゅっと移動していくモンスターを警戒する。私の方も、神埼から見て死角となる方向を警戒しつつ、悪い足場での移動を工夫していく。何度も砂塚から注意を受けつつも、次第にその注意が少なくなってきたところで、ついに、岩の隙間からモンスターが飛び出してくる。
「キー!」
見た目は猿に近いが、現実の猿とは似ても似つかない。手と足がちょっと長くて、岩場を動き回るのに特化しているような感じか?爪もあれば、牙もある。そして普通の動物との決定的な違いは額にある魔石である。
「猿獣種ですね。第三階層で早々にエンカウントですか。ついてないですね。もっと奥で出るタイプだと聞いてるんですけど。あ、モンスター名は現在照会中です。たぶんそれっていうのは既に見当ついてるんですけど、一応未確定ということで。」
「まずいのか?」
「まぁ、一応?先発の探索者の記録曰く、第三・四階層で一番強いモンスターですね。」
そう、笑いながら砂塚は言う。たぶん砂塚から見れば雑魚なんだろうが、こっちはそれどころではない。初めてモンスターらしいモンスターとの戦闘が、まさに獣とは。こっちとら、魚とスライムとしか戦った事しかないんだぞ。もっと段階とかあるだろ。
「まぁ、とは言え、大丈夫ですよ。所詮低層のモンスターです。動きは素早いですけど攻撃力も防御力も大したことありません。本当はネズミ型のモンスターを初戦にするのを想定してたので、予定外ではあります。だけどちゃんと戦えば、全然問題無いですよ。」
「本当か?」
「えぇ。」
そんな事を言っているうちに、猿のモンスターは前衛の神埼の方へと接近していく。神埼は猿のモンスターを視認しているはずだが、棍棒もシールドも構えようとはしない。こっちからもモンスター発見の声は掛けているので、存在に気がついていないはずはない。
「神埼さん、棍棒で的確に叩けば倒せ——」
「セイヤッ!」
砂塚がアドバイスする前に、神埼の正拳が猿のみぞおち?にクリーンヒットして、後ろに吹っ飛ぶ。そのまま猿は、盛大に岩に頭をぶつけて転倒する。ゴスッとかなり鈍い音がして、そのまま地面へと倒れ込む。その間に神埼は、岩からジャンプしてすでに蹴り技に移行している。
メキッ
人生で今まで聞いたことがない…何かが折れる音がしながら、神埼の蹴りは、猿の喉から顎にかけて入っていく。「ぷぎゅっ」と鳴き声だかなんだかわからない声が、目の前の猿から聞こえてくる。
「「…。」」
まさに電光石火の神埼の早業に、砂塚も私もただただ、目の前の出来事をぼーっと見ている事しかできなかった。無論、猿のモンスターは体液を撒き散らしながら、もはやびくびくと痙攣するだけである。その塊からは、何らかの意思を最早感じられない。
「砂塚ちゃん、倒しました!」
「…棍棒を使えぇー!!!!!!」
違う、違う。そうじゃない。
別作あり〼
愛用のクッションがどうもなにか変
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青空設置しました。
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