焼けた石の上に
皆様、この夏をいかがお過ごしだろうか。年々暑さに弱くなっている気がする。いや、それとも暑さがおかしくなっているのか?ともかく、もう日中の暑さときたら、耐えられるものじゃない。冷蔵庫で冷やした飲み物と、冷凍庫の氷がもはや欠かせない。学生のころは、こんな気温のなかでも歩いて学校にいってんだなぁと思うと、とたんに学生の頃に戻りたくなってくる。あの体力が羨ましい。
そう、学生の頃はよかった。自由だったし、いろんなことに対してやる気に満ち溢れていた。一番よかったのは大学の頃だろう。その大学を卒業してからは、ほどほどに働いていてはいた。大学の奨学金を毎月かえしつつ、ほどほどに趣味にお金をつかえればそれでよかった。仕事も楽しかった。
だが、6ヶ月前に辞めた。
日々減り続ける人員、増える仕事量。本来やりたかったことがやれなくなり、トラブルに対処する日々。上から言われたことをこなしても、理不尽にあら捜しをされては追加の仕事が倍で振られる。眼の前の仕事を片付ければ片付けるほど、片付けなければいけない事が増えるのは、もはやバグだと思う。そうこうしているうちに上司と対立するようになる。台風の日だって出勤したし、週7だって働いたこともある。それなりに愛着もあった。
だが、あの日ふと、「あぁ、もう無理だ。」って思った。思ってしまったのだ。こういうのを「折れた」っていうんだろう。出勤途中に、目の前を通過する車の列に飛び込んでやろうかと思った。だが、それほどの勇気はなかった。
あの日、仕事の終わり際に上司に「もう無理です。辞めます。」と伝えるのに抵抗がなかったわけではない。だが、また仕事が増えたあの時、なんかもう、なにもかもがどうでもよくなった。そのまま社内のシステムから有給の消化を申請して、あとは適当に仕事して十数年務めた会社を辞めた。十数年はたらいた割に、辞めるときはあっけなかった。
ぜんぜんつかってなかった有給で一月ちょっと、まるまる自由な時間が手に入った。だが、みたかったアニメも、やりたかった日曜大工も、読みたかった漫画も、あれほど熱中していたソシャゲも、もはややる気がおきなかった。
なにもやる気がおきなかったが、ハローワークに登録して、雇用保険の申請をした。次の仕事もみつけなければならない。いろいろ手続きしていてわかったのだが、自己都合退職だといろいろと退職後が不利になるということだった。会社都合だろうが、自己都合だろうが、辞めた後になんでそんなことで区別されなきゃいけないのだろうか。しかも、その手続をした数ヶ月後に、自己都合退職でも早く雇用保険をもらえるようになったらしい。
それでもこのままでは、お金がなくなるので、就職しようといろいろと考えた。雇用保険をもらう必要もある。まずは、資格をとりたいと職業訓練を希望したら、既にいろいろともっていた資格のために受けられないだろうと言われた。次に募集していた会社に希望をだしたら、実務経験がないと断られた。その次は、履歴書をだしても返事がかえってこなかった。事務職でもいいからと応募したら、女性じゃないからと断られた。あの会社には、大学をでているのにもかかわらず出身高校で断られた。別の会社はスカウトしてきたにもかかわらず、弊社の希望に合わないと断られた。
ある会社の説明会に行って、自分だけ椅子が用意されていなかったところで、もう諦めた。
そうこうしているうちに、雇用保険の給付がおわって、ハロワークのページにログインできなくなった。再び申請しなければとおもったが、したところでどうなる?と考えるうちに、じゃぁいいやってなった。そして夏がきた。
幸いにも実家ぐらしだが、自室にはエアコンがない。
窓をあっけぱなしにして、扇風機をつけて、冷やした飲み物をのんでも、暑さでもうなにもやる気が起きない。そろそろ今月のクレカの支払いもどうしようかと、悩まなければならない。幸い、まだなんとかしようがあるが、つみたててきた投資信託を崩すか、フリマアプリでいろいろ処分するかしなければ、ちょっと厳しい。
古い家だ。ボロボロというわけではないが、断熱がはいってない。冬は寒くて、夏は暑い。しかも、川辺で湿気も多い。換気がかかせないが、網戸がないと虫がはいる。だが、網戸をあるのとないのとでは、風の通りも段違いだ。ある程度は割り切る必要がある。あの日は、そう、直射日光をさえぎるすだれをもってしても、まだ日差しが厳しい昼下がりのだった。蒸し暑さにまけて、裏庭に面する窓を全開に、そこから半身をだして、外の風を感じようとした。
その時に、私はソイツと出会った。
見切り発車二作目です。ほわっとした考えはありますが、具体的な内容はノープランで進行いたします。
なお、就職活動のくだりは10割実話です。