タケノコ掘り
「夫よ、今日はなんの日だ!?」
ドンっと身体に衝撃を受けて目覚める。寝ぼけ眼を擦りながらぼやける視界には少し不機嫌な妻の顔があった。
「ああ、きーちゃん」
ずいっと顔を近づけてくる。
その目はジトっとこちらを睨んでいて、どうやら何か約束していたようだが、全く思い出せない。
うーん、うーん、なんだっけ、
それにしても重いなぁ。
妻のきーちゃんはどうやらなかなか起きない俺を起こすために上に飛び乗ってきたらしい。
チッ
と、不機嫌に舌打ちすれば、上のきーちゃんはビクッとしてさっとどいた。
だが、その顔は不機嫌なままだ。
「・・・今日は筍掘りに行くって約束したのに」
部屋の隅にすすーと音もなく移動したきーちゃんは壁に向かって三角座りになるといじけだした。
「いや、眠いんだけど」
本当に昨日の仕事が何時もよりハードで身体が重くて起き上がれない。それに、眠い。
「だって、明日雨だよ、タケノコほるなら今日しかないよ!?」
きーちゃんの目には涙が。え、泣くほどなの?
ハァ~、
深くため息を吐く。これ行かなきゃこれから半年は言われるな。めんどくさ。
よし、と気合を入れ、布団から立ち上がった。それをパアっと明るい顔で見つめてくる妻。単純である。
「ゴミは?」
「出した」
「洗濯は?」
「干した」
「準備は?」
「おっけー」
「眉は?」
「描いた」
「分かった、着替えるから待って」
のそのそと起き上がると着替えを取り出して袖を通す。
その間、きーちゃんは謎のダンスを踊ったり、オリジナルソング「たけのこ」を作詞作曲したりと大忙しだ。いや、遊んでるなら通路の邪魔になるところで踊らないでほしい。
「あの、邪魔」
「たけのこにょっきー」
「いや、邪魔」
なんとか着替え終え、タバコを咥えながら鞄にスマホや財布を入れる。
「まだー?」
玄関で、鞄を背負って振り返る妻は待ちきれないのか急かす。
「んー、ちょっと一服したら」
「車でまってるよー」
騒がしいのが消え、タバコを吸うために付けた換気扇の音だけが部屋に響く。もうそろそろ換気扇のフィルターを変えなければなぁなんて思いながらぼーっとする。
タバコが短くなったので、最後の一口を深く吸って白い煙を吐いた。
汚れてもいい方のスニーカーに足を突っ込み、トントンと踵をねじこむ。玄関のドアを開けると気持ちのいい春の空が広がっていた。
こんなに、暖かくなったのだからきっとタケノコもそろそろ出てくるだろう。
いつもタケノコを掘るのは妻の祖母の家だ。祖母の家の裏山には美味しいタケノコが採れる竹やぶがある。竹やぶは沢山あるけれど竹の種類でタケノコの味も変わるらしい。
何本見つかるかな、なんて考えながら妻の待つ自家用車へ向かって歩き始めた。
「カミ、トク、お手!」
二匹の白と茶色の雑種犬を目の前に並べてダブルお手をさせて得意げに見上げてくる妻のネーミングセンスは独特だ。カミは特二式内火艇 カミ車のカミ、トクは特五式内火艇 トクのトクだ、どちらも水陸両用戦車だという。因みにミリタリーオタクというわけではないらしい。
カミもトクも似たような見た目をしているが、血が繋がっている訳ではなく、雑種特有の偶然なのかもしれない。
この2匹はタケノコをイノシシや泥棒から守るために番犬として竹藪近くに犬小屋を構えている。カミは10歳のメス、トクは4歳のオスだ。妻の話だとカミは強いくてイノシシも一人で倒してしまうらしい。トクはとにかくビビリで雷が苦手なんだそうだ。いつもカミの後をちょろちょろと走り回っている。そしてカミは妻に絶対服従だが、トクはどうやら俺に懐いているらしく、あまり妻の言うことは聞かない。
今もトクは主にお手をしながらも俺の方をガン見しながら尻尾を千切れんばかりに振っていた。ふさふさしている。かわゆい。
一通り犬を愛で終わったら、二人でそれぞれつるはしを持って竹やぶへ登る。
「あー、このトンガ、さきが抜けそう」
妻がツルハシの先をグラグラゆらす。
「柄の木が痩せてきたんだね」
とコンコンと俺が叩くと少し収まった。
それをはい、ときーちゃんへ返す。
「ありがとう」
そう言いながら、もうタケノコを見つけたのか、ターっと走り出してしまった。
するとザックザクとツルハシで土を掘り始めた。
「よく見つけるよねー」
というとニヤッときーちゃんは笑う。
「土がふわって盛り上がってるんだよ」
とのことだが、素人目には殆ど全くわからない。あっという間に小さいが一本掘り出してしまった。
俺も負けてられないと、大物を狙う。
あった、筍の黄色い先っちょが、ちょん、と出ている。穂先の緑になったものは闌けてしまった証拠でアクが強く、えぐみがある。たから太陽をまだ浴びていないものを掘る。
ツルハシを地面に指すと少し昨日の雨で土が湿気っていて簡単に抉れた。やった、少し大きめのようだ。傷付けないように周りを慎重に掘る。
もう一本掘り終わったきーちゃんがどれどれ、と様子を見に来る。
「わ、おっきーの見つけたね」
と感心されて俺は満足だ。
ザックザクと掘る。
するときーちゃんはまたなにか思案している様子だ。
「どうしたの?」
手を止めて聞く。
「なんで、ツルハシのことトンガていうか考えてた。尖っているからかなぁ」
やっぱりどうでもいいことだった。
「あ、ほらこっちに根があるよ」
きーちゃんの示した所にツルハシをザクリ、と指すとゴボッと穴が開いた。
穴?
「穴?」
きーちゃんも首を傾げる。
その真っ黒な穴は少しずつ大きく出るなっているように見える。一歩後ずさる。
まずい、もしかしたら昨日の雨で地盤でも緩んでいるんじゃないだろうか、とまず直感的に思って隣のきーちゃんの腕を掴む。
しかし、山が崩れるにしては妙な感じで穴はどんどん広がる。また一歩後ずさる。
「逃げるぞ」
きーちゃんの腕を引っ張るが、びくともしない。
その穴に視線は釘付けになっている。
異変を感じたカミが唸りながら飛び込んできた。そして俺たちの横で穴に向かって吠え続けている。
歯をむき出しにして顔にシワを寄せ、背中の毛は筋状に逆だっていた。
あんなに怒っているカミを初めてみたなと思う。
そして遅れて飛んできたトクは・・・勢い余って穴に後ろ足を落とした。
「トクっ!」
悲鳴めいた叫びをきーちゃんが上げる。トクは必死に登ろうと身体をジタバタさせるが、なにかに引っ張られるかのように上手く穴から上がれないでいる。
「あ、おい!」
きーちゃんは止める俺の腕を振り払ってトクの首輪を掴んだ。そして、引き上げるのかと思いきや、
ぐっと踏ん張っているにも関わらず何故か一人と一匹の身体はズルズルと穴に向かって滑っていく。
俺は慌ててきーちゃんの腕を掴む。それはカミも同じできーちゃんのズボンの裾をぐいぐい引っ張っていた。
トクは首が締まるのと怖いのとでガタガタ奮えながらキューンと悲しそうに鳴いた。
それを見てきーちゃんに手を離せ、とは言えなかった。
「ああ、駄目だ」
落ちる!
そして、視界は真っ暗になった。
黒だった。夜の闇であれば月明かりだったりと何かしらあたりの様子が見えるのだが、今は部屋のシャッターを締め切って作り出したよりも真っ暗で闇が深い。
落ちている感覚も、上や下の感覚もない。足が地面についていなかった。だが手はしっかりと、誰かの腕を握りしめていた。
「きーちゃん?きーちゃん?、おい、木琳!」
だが、腕の先から返事はない。掴んでいる感覚はあるものの、反応が無いことに心配になる。
恐らく、今、きーちゃんの右腕でトクの首輪を掴み、その左手を俺が掴んでいる。そして、きーちゃんのズボンを引っ張っていたカミはもしかしたら裾を離しているかも知れない、と考えているともふん、と何か毛の塊が顔にぶつかった。空いた方の手で確認すると。犬のようなものが丸くなりガタガタ震えていた。毛の長さからしてカミだろう。
慌ててその身体を抱え込む。
こんな闇の中で離れてしまったら、多分、一生会えなくなってしまうだろう。そもそもここから出られるのかは謎だが。
少したっただろうか、時間間隔が無くなりそうになって来た頃、身体がまた何処かに吸い込まれていく気がした。
そして、ゆっくりと着地した。
地面だ。ああ、地面だ。
土だ。
恋しかったよと撫でてみる。
「なにしてんの、甜香」
目の前にはきーちゃんの黒いスニーカーが見えて見上げるとドン引きの目で見下ろしていた。
「いや、久しぶりの地面が愛おしくて」
と言うと妻は不機嫌顔だ。
「ふうん」
「なんで、きーちゃん、そんな顔してるの?」
「だって、ここどこなのよ!」
言われてぐるりと見渡すが、森の中のようだ。さっきまでいた竹やぶとは様子が少し違う。
「山の中?」
「違う、ちゃんと見て」
いつも戯けているきーちゃんが真剣に怒っている。ふむ、珍しい。
「この木、何に見える?」
「え、木だよ」
「ちがーう、種類よ」
そう言われて見ても、何がなんだか分からない。
「木じゃん」
「バオバブって知ってる?それに似てるんだけど」
「きいたことは」
「日本でこんな巨木になって・・・・バオバブが群生してるとか聞いたことないんだけど、それにあそこ見てジャカランダをあんなに大きい木で見るのは初めて。それにこのゼンマイ見てよ、見たことないほどでかいよ。こっちはコゴミに似てるけどうーん。熱帯というよりなんか、古代の・・・・」
そう言われてもピンと来ない。俺にはどの葉っぱも同じように見える。
「甜香にはわかんないかもしれないけど、いつもカミとトクと散歩するとき見たことある?うちの山で」
そう言われれば見たことのない形をしている。なんだかきーちゃんが育ててた植物と似ている。てか、そういや
「カミとトクは?」
「あ」
慌てて二人で辺りを見渡すがカミとトクの気配がない。確かに俺は腕にカミを抱えていた筈なんだが。
「カミ!トク!」
きーちゃんが呼ぶが、森の中は静かだった。
どうしようと若干パニクったきーちゃんがウロウロと歩き回るが、はぐれてしまったものは仕方ない。
それよりどうにかこの山から脱出しないことには不味いんでないだろうか。
「兎に角、森から出ないと」
きーちゃんの後ろ姿に声をかけるととぼとぼとこちらへ戻ってきた。
「そうだね。方角はどうする?」
「取り敢えず、水音が聞こえるし川沿いに下ってくのはどうだろう?」
太陽や星で方角を決めてもいいが、木で見えなくなったときに方角を見失い安い。その点、川を歩けば山は降りれるのではないだろうか。
きーちゃんは賛成と頷く。幸い筍掘りに出ていたので二人共動きやすい服装だ。俺は半袖Tシャツにパーカーそして薄手の伸縮性のあるズボン、きーちゃんはジーパンに長袖Tシャツと薄手のジャンパーを羽織っていた。
出来ればだが、夜になるまえにはこの山を出たい。
何処なのか分からない上に、熊やイノシシのような野生動物とのエンカウントは避けたい。熊がいるのかどうかは知らんが。
取り敢えず二人で水音が聞こえる方へ向うと、案の定川があった。そしてきーちゃんと目を合わせて頷くと川沿いに下流に向かって歩き始めた。
勿論人間の通るような道ではないので、たまに足を滑らせそうになる。きーちゃんは山歩きに多少なれてはいるのだが体力はない、歩き続けて疲労が出てきている。
「木琳、もう歩くのは危ない。何処かで休もう。」
きーちゃんに声をかけると、ため息が返ってきた。
「火、起こす?」
「そうだな、獣が来ても怖いし」
とタバコ用のライターを取り出す。
「じゃ、毒のなさそうな枝探すよ」
毒性のある枝を燃やしてしまえば毒の煙が出てしまう。植物の見分けられない自分より、任せる方が無難だろう。
木琳はすぐに戻ってきて、かかえた枝を置く。
そして、また森へ入り6往復したぐらいで戻ってきた。
その間魚とか食べれそうなものはないか探すがサバイバル素人には難題だった。
「お腹すいたなぁ」
「はい、これしかないけど」
ポケットに入れていたチョコレートを渡すと木琳は困った顔をした。
「これ、甜香の分あるの?」
無いでしょ、とパキッと2つに割ってよこす。
「うーん、ラーメン食べたい」
「私は香川本陣屋のうどん」
「それもアリ」
食べ物の話をしてると途端にひもじくなってきて、お腹がぐぅと鳴った。
「・・・木の実とか食べれそうなもの無いかなー」
と木琳はキョロキョロしている。
俺は見たところで自信は無いが一応見渡す。当たりは歩くには難しいぐらいに暗くなってきていて、木の影なんて真っ黒だ。
「あ、あそこ、赤い実があるよー」
と言いながら木琳は立ち上がる。
「もう、暗いし、危ないから」
と止めようとするが、すぐそこだからと木琳は譲らない。とてて、とその木の実とやらを取りに行ってしまった。
「甜香、これ食べられる!味はあんまりよくないけど。」
言われて1つ口に入れるが、確かに青臭い。
「食べれない、ことはない」
「サネカズラみたいな味と見た目だねぇ」
と木琳は何個かモグモグしている。空腹を誤魔化すには多少不味くても問題ない。
「あ、あの木アケビに似てる。」
木琳に示されたところを見ると確かにアケビに似た実が並んでいた。
木琳は少し届かないようだが、俺が手をのばすと1つ掴めた。得体のしれない植物には極力触らない方がいいのかもしれないが、空腹が勝っていた。
「これか?まんまアケビだな。」
「毒見するね」とニヨと笑いながら木琳は割れた身の中身を少し指で千切る。
「おい、大丈夫なのか?」
「うん、いけるいける、アケビそのものだよ!」
味はそうかも知れないがアケビの3倍はあるサイズで、見た目の気持ち悪さはアケビを超えている。外の皮はアケビと違って緑だし、中の種もアケビより粒が大きいようだ。
「確か、アケビって10月頃とれるよな」
「うん、今4月だねぇ」
と木琳は頷く。
やっぱりこの山はなんだかおかしいようだ。
アケビもどきは手が届く分を全て回収する。
「どうして食べれると思ったんだ?」
「んー、なんかね。口にするとゲーム画面みたいなのが見えるんだよね。ポンってライン通知出るみたいなかんじ。食べられる、とか書いてある。」
は?
木琳ついにおかしくなったか?いや、元々変だったけれども。
「あー、私がヤバいやつみたいな目で見てるー」
「やべーやつじゃん」
ライターで焚き火を始めると、昼間より下った気温に丁度良かった。口に入れたら何か判る、か、それならこの枝ももしかして。
「じゃ、枝も」
「ほらペロッとね」
とニヤッと笑う。
「あれだな、口に入れないとわからないの不便」
「確かになんでも舐めれるわけじゃないからねー、そうだ、甜香も舐めればなんか表示が出るかも」
「あ、おい!」
ぺろり、と頬を舐められる。
「しょっぱい」
「・・・汗かいたからな。てかなんか出た?」
吉野甜香(27)人間、男性
(よしのてんか)妻は木琳。
装備品:普通の服装上下、指輪
スキル:器用貧乏(レベル1)、材質鑑定(レベル1)、修理修繕(レベル3)
EXスキル:クリエイター(レベル5)
「だって」
だってと木琳に言われたところでなんのこっちゃ分からない。よくあるようなHPとかMPとかは見当たらないらしい。器用貧乏かー、甜香らしいと何故か木琳がうんうん頷いている。
「これ自分も出るのかなぁ」
と木琳は自分の手をペロッと舐めた。
吉野木琳(24)人間、女性
(よしのきりん)夫は甜香。
装備品:普通の服装上下、指輪
スキル:鑑定(レベル2)、絵描き(レベル3)、精神防壁(レベル3)、毒耐性(レベル1)
EXスキル:グロワー(レベル1)
何だろうグロワーって。
木琳は英語わからん、とぼやく。
材質鑑定と鑑定って何が違うんだろう。
俺にはその通知画面みたいなのは見えないし、多分違う種類なのはわかる。
というかいつの間に毒耐性ついたんだこいつ。
パチパチと焚き火が音を立てる。
ガサガサとなにかの気配が背後からした。
黙って二人顔を見合わせるが、これは良くない展開しか予想できない。野生動物が出てきて忽ちピンチだ。
「甜香、なんかいるよね」
「ああ、後ろだよな」
ゆっくりと背後の草むらを視界に入れるが殆ど真っ暗で何の姿も確認できない。
ガサ、木の枝が揺れる。
バッ、
何かが飛び上がるようにして草むらから姿を表した。暗くてよく見えない。
クマだろうか、イノシシだろうか。
緊張が走る。
「キュンキュンキュン」
この喉を鳴らすような鳴き声は
「・・・・カミ?」
焚き火の仄かな明かりに照らされ見えたのは、競走馬程の大きさの犬だった。
「カミー!」
木琳がわっと駆け寄って巨大犬をワシャワシャするが、
ちょっとまて
「カミ、でかすぎないか?」
いや、俺たちが縮んだ?
と俺の脳内はパニック。いや、木琳は何故すんなり受け入れてんだ?
そして、また木の枝が揺れて、ガサガサと音がしたと思ったら。真っ白なフサフサの巨体が飛び出してきた。
「トク!」
俺と木琳は同時に叫んだ。トクは俺を視界に入れると嬉しそうに突進してくる。
そして、俺はその巨体に引き倒された。
「ちょ、おまっ、助けっ」
必死でバンバンとトクの身体を叩き回すが、なんのことはない、トクは気にせず俺の顔を舐めずり回した。そして5分ほどそれをつづけ、やっと落ち着いた。
「な、木琳、カミとトクのサイズおかしくないか?」
トクのヨダレでズルズルになった顔を川水で洗い流す。横で木琳はカミの背中に跨がろうと四苦八苦していた。
「うーん、変なものでも食べたのかなぁ?」
「いや、そんなわけあるか」
思わず突っ込む。
「じゃあ、これが異世界チートってやつだ!」
と木琳は自信満々に胸を張る。
「はあ?」
思わず顔を顰める。いつもなら戯けて木琳の冗談に乗るのだが、今回は見知らぬ山中で遭難中だ。
「じゃあ、甜香はここがどこだかわかるの?」
木琳は少し不機嫌に鼻を鳴らす。
「・・・日本の山の・・・どっか?」
「日本でこんなでかい犬見たことある!?」
「う、うーん、グレートデンなら」
「・・・甜香、グレートデン知ってるんだ」
何故か驚愕される。
確かに俺は犬には詳しくないけど、それぐらい知ってる。
「因みにグレートデンより体高、高いよ」
とフセ状態のカミをワシャワシャしながら言われた。そっか、やっぱりここ異世界なのかもしれん。
だって、現実世界でゲームのような通知画面なんて見えるはずがないじゃないか。
「異世界だったらパーッと魔法使って、何でも解決出来るんじゃないか」
俺がトクをひっくり返してワシャワシャしていると、木琳はその言葉にハッとする。
「ステータスオープン!」
突然、立ち上がって叫ぶ。
トクがビクッとして顔を上げた。
「え、突然なに」
「オプショオオオン!メニュー画面!!」
「え、え?」
突然おかしくなった木琳さん、こわい。
暫く叫んでいたが、木琳は両手を地面について絶望した。それを、心配そうにカミが見つめている。
「ゲームだったらオプションかセレクトボタンでメニュー画面とかマップ見れるのにイイイイ」
「いや、異世界だし、そもそもゲームではないし」
そういや木琳はそこそこゲームが好きでやっていたな。モンスターをハントしたり。まあ、飽き性なのでやり込むほどでもなく、すぐ投げ出していたが。
ゲーム脳、こわい。
「くそ、舐めたら説明が出るだけマシか」
まあ、この木琳の鑑定能力もそのゲーム脳に由来した能力なのかもしれない。木琳の感覚とその鑑定という謎のアビリティがゲームの通知画面、として現れることに親和性があった、みたいなかんじだ。
だから俺にはそのポップアップは見えない。
「そこでだよ、甜香くん」
「はい」
「カミ達に乗って山を降りるのはどうでしょう?」
「はあ」
その提案は聞き流しつつ生返事する。
取り敢えず、今日はカミとトクの毛皮に身体を埋めて眠ることにした。あるき続けたせいか、直ぐに木琳の寝息が聞こえ、俺も気づけば意識を失っていた。