表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/23

第11話 転生者、最初の試練(前編)

 五月。桜は月を跨ぐこともなく早々に散り、青々とした葉だけを残していた。

 雨天も増え、ひっそりと梅雨の気配が近づいてきている。


 そんな中、私たち転生者―――もとい〝モブ推し同好会〟は、定例会を開くことを決定した。

 この世界のことや、ほんの少しでも異変を感じたら報告し合う。

 という名目のハズだったのだが……。


「じゃーん! 見て見て!! 学生時代にやりたいことリスト!!」

「おお…」


 そう言うと御倉さんは、談話室のローテーブルの上にノートを広げた。

 開かれたページに羅列された文字を、先頭から目で追っていく。

 花火大会。海。肝試し。文化祭。修学旅行。クリスマス会。バレンタイン……現実世界でもゲームでも定番といえる行事が書き連ねられていた。カムロ*トロイカにも、すべてイベントとして網羅されていたはずだ。


「あたしも佐士くん誘うからさ、アカリんも八重垣くん誘っておいでよ。ていうかミツルんが呼んで来な!」

「俺アテにすんなよ…」


 それに返したのは、草薙光留くんだ。

 正しく絵に描いたようなイケメンだというのに、肩を竦める仕草から、どことなく我々と同じニオイがするのが面白い。オタクのニオイだ。


 草薙光留といえば、カムロ*トロイカのメインヒーローでもある攻略対象キャラだが、彼は本来の草薙光留ではない。

 私たちと同じ、転生者である。


「そういえば、草薙くんは……これからは何て呼べばいい?」

「まー、今のままで大丈夫だよ。元の名前覚えてないし」

「ネームドキャラに転生すると大変だねぇ…」


 他人事のように喋っているが、何を隠そう私も、ある種のネームドキャラ―――主人公の大姫アカリに成り代わった転生者だ。


「……てか、あんまりイレギュラーなことやっちゃうと、こう……この異世界のコトワリ的なモノに引っかかるんじゃねぇの?」

「立ち絵すらないモブAが好き勝手動いてるから大丈夫だと思うよ」

「確かに……」

「まーまー、この世界が今後どうなるか分かんないけど、今は楽しも!!」


 そういっていつものテンションで御倉さん。モブに転生するとしがらみがなくて楽しそうだなぁ。


「そういえばこのノート、体育大会のこと書いてないけど……」


 そう指摘すると、ハイテンションな御倉さんの瞳から光が消えた。と同時に、隣の草薙くんも真顔になる。

 流石ゲーマーたち。運動系のイベントはガン無視だ。もちろん、この世の全員のゲーマーが運動が苦手というわけではないが。


「その前に…」


 先日、ホームルームで大節先生からアナウンスされたことを思い出し、私達はがっくりと肩を落とした。


「中間テストぉ……」


 運動は苦手、では勉強は得意かというと、全くそんなことはないのが私達だ。

 転生者は、元の世界の年齢層の割合的に、元の世界で学生だった可能性は低い。ついていけるだろうか、現役高校生たちの授業に……。


 やっぱり、ゲームは楽でいいなぁ。ただボタンを押して数値を上げれば良いだけだから……。

 そういえば…確か良い成績を取ると、各攻略対象の好感度が上がるんだっけ? で、特に上がるのが、確か……


「―――あ!」


 私の思考を遮って、不意に御倉さんが声を上げた。


「思い出した! テストの後、二者面談もある!」


 ゲーム内ではこの時期、中間テストの後に二者面談がある。

 ただし、あくまで恋愛がメインのゲームなので、用意されているのは、進学か就職かの極めて簡略化された二択。

 だが、この現実とそう違わない世界では、流石にもう少し深掘りされるだろう。


「先生に怪しまれないようにしないとね……」

「違う違う! そっちじゃなくて!」


 御倉さんは大袈裟にかぶりを振ってから、こう言った。


「二者面談、選択肢を全部クリアしたら先生の隠しルートに入っちゃうんだよ!」


 そこで先程の答えも思い出した。

 ツブヤイターで見た記憶がある。中間テストと二者面談、選択肢を正解すると、隠し攻略対象の大節契先生のルートに入ってしまうのだ。


 実際に見たことは無いため、詳細は知らないが―――流石はゲーム。教師と生徒の恋愛なんて現実世界では倫理的に大問題だ。

 …もし、この現実世界と何ら変わらないカムロ*トロイカの世界で彼のルートに入ったら、どんな展開になるのだろう…? 気になるけど、お試し感覚でそんな真似はできないな。

 そしてそれ以前に、一つ別の問題がある。


 ―――誰もその選択肢の正誤を知らないのである!!


「どうしよ、俺先生のルート入ったら……」


 私の代わりに、草薙くんが冗談っぽく項垂れている。


「攻略したいキャラ居ないなら良いんじゃなーい?」

「イヤ何でそうなるんだよ……」


 ……正解が分からないから、ルートに入ったかどうかすら判別できない……。

 何が起こるか分からないこの異世界。なるべく他の攻略対象の好感度は上げたくない。あぁ、まさかここで単純なゲームの知識不足が響いてくるなんて……。


「ねーねー草薙くん、八重垣くんの好感度上がりそうな選択肢知らない?」

「俺だって知らねぇよ。てかそんなこと聞くな―――」


 私の軽口にマジレスしようとした草薙くんだったが、ふと何かを思い出したかのようにハッと静止すると、うってかわって、おずおずとこんな話を切り出した。


「……あとその……八重垣についてなんだが……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ