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第10話 新たなるモブ推し同志

「なーんだぁ~。まーた転生者かぁ……」


 草薙くんから全ての経緯を聞き終えた私は、安堵した拍子に思わず人目もはばからず声を上げてしまう。

 二人から人差し指を口に当てられ、慌てて声量を下げつつ会話を再開する。


「なんだとは何だ。またって何だ」

「この子も転生者なんだよ」

「え……あぁ、道理で」


 納得した様子で、草薙くんは隣でピースサインを掲げる御倉さんを一瞥した。得体の知れないものを見る目をしている。


「さっきやってたみたいに、定期的に集まって変なことがなかったか報告しあってるんだよ」

「草薙くんは、何か変なこととかは……」

「この人以外には特にない」


 背後の御倉さんを指差す草薙くん。それにじりじりと顔を寄せていく御倉さん。草薙くんはおもむろにソファを立ち上がって距離を取る。

 良かった。普通の感性の人みたいだ。


 もし草薙くんもやっぱりこの世界のキャラクターで、「お前はこの世界のバグだから修正する」……的な展開になったらどうしようかと身構えていたけど、杞憂だったらしい。

 それと、もう一つの懸念もこれで完全に払拭された。


「でも良かったぁ……このままだと草薙くんルート確定になりそうだったからさ。幼馴染フるのって辛いんだよね……」

「あー、分かるかも……」


 そんな私の自惚れた心配事に同意してきたのは、御倉さん…ではなく、草薙くん本人だった。


「幼馴染ヒロインとか毎度毎度負けヒロインになるのが可哀想で…ギャルゲーとかルートを外れたプレイヤーの救済措置を担わされてる裏事情も察してしまって……」

「わ、分かるゥ……」


 そこまで早口でまくしたてると、草薙くんは思い出したように顔を上げる。


「ていうか、そう言うっつーことは……やっぱり大姫…さんが八重垣にばっか話しかけてたのって…」

「あー……」


 ミツルくんとは思えない控えめさで尋ねられて、思わずこちらもおずおずとした対応になってしまう。

 やっぱり気付いていたんだなぁ。少し、いやかなり恥ずかしかったが、彼が本当の草薙ミツルでないなら、隠すこともためらう必要もない。


「うん……ゲームでは準レギュラーもいいとこなモブキャラなんだけど、八重垣くんが推しで……」


 そうカミングアウトした後、間を置いて草薙くんから返ってきたのは思わぬ返答だった。


「……分かる。俺もギャルゲーの攻略対象外のモブ女子が好き…」

「何ッ!?」

「もう覚えてないんだけど、気になったキャラがことごとく攻略対象じゃなくて苦渋を味わった記憶がうっすらある……」

「分かる! うちも!!」

「本当に誰?」


 その言葉を皮切りに、早口談義が始まった。オタクが三人も集まっているのだから仕方がない。

 場所が場所なため、日が傾き始めた頃には流石にお開きになったが。


 ほんの二時間程度―――草薙くんの経緯を聞いた時間を省けば、恐らく一時間にも満たなかったが、その間、私達の間に謎の絆が芽生えたことは言うまでもない。





 翌日。学校の廊下にて。


「草薙くんオハヨ~」

「おっは〜ミツルん!」

「おー。おはよー」


 御倉さんと登校し、草薙くんと合流する。草薙くんの隣にはいつものように八重垣くんがいた。

 どうやら八重垣くんは、いつの間にか異様なまでに打ち解けている私たちに困惑している様子。


「……なんか三人、えらく仲良くなってるね……」

「いかにも」

「誰?」


 一歩御倉さんが進み出て、彼に向き直るとこう声を上げた。


「何せ我々、モブ推し同志ですから!!」


 そう声高らかに宣言する御倉さんの口を、二人して草薙くんと塞ぐ。

 その不思議な光景に、八重垣くんは更に深く首を傾げていた。


 きっと、自分がその〝推し〟のモブの一人だなんて、夢にも思っていないのだろうな。

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