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第9話 原作エアプ勢の攻略(後編)

 彼女とは、その日のうちに接する機会があった。

 それは放課後のことだった。


「……それで早速なんですが、今日以降の放課後、時間はありますか? この周辺を案内しようと思ったんですが…」


 このゲームの委員長キャラ兼親友ポジションの女子生徒だ。名前はそのまま〝トモ〟なんて名前だった気がする。

 その間に「それなら、俺がするよ」と割って入る。委員長はいかにも頑固そうな真面目キャラだったが、俺は幼馴染であることを説明して引き下がってもらった。


 それ以降の原作での二人のやり取りは全く覚えていない。だけど、明らかに原作通りのセリフではないことは明白だった。


「や、八重垣くんも来ま……来る?」

「え?」


 まただ。また八重垣。

 理由を尋ねると「久々すぎて、草薙くんと二人だと緊張しちゃうから」と彼女は慌てて答える。その慌てようは、咄嗟の嘘であることを物語っていた。


 その後、俺は彼女を先に昇降口に送り、八重垣と落ち合った。


「…八重垣」

「おー。どした?」


 気だるげな様子の八重垣。俺も恐らく久々だったので、少し堪えている。


「ヒロイ……ンンッ、いや、アカリに先に会いにいってくれないか?」

「え? 俺が?」


 細長い目を大きく見開いて、呆ける八重垣。困惑するのも無理はないだろう。

 適当に押し通す。


「……忘れ物した。少し遅れると伝えてくれ」

「えぇ……俺が行っても困るでしょ」

「いーから。行け!」


 そう発破をかけると、八重垣は「へーへー」と不服そうに階段を下っていった。

 俺も時間を置いてから昇降口へ向かい、物陰から様子を見る。


 一人で現れた八重垣に、ヒロインは喫驚していた。それから大口を開けて慌てふためいたり、八重垣の言葉を復唱したり、困惑したり、はにかんだり。

 それから何故か八重垣といい雰囲気になってしまったので、思わず間に割って入ってしまった。


「いやー遅れてすまん!」


 俺の登場で、二人は慌てて互いに目線を外す。

 あからさまに訝しげな表情で見つめてやると、ヒロインが適当にその場を取り繕ったので、それ以上は何も触れず、三人で下校した。

 だが下校途中も、俺は彼女への疑念で頭がいっぱいだった。



 ……やっぱりこのヒロイン、可笑しくないか?

 攻略対象ですらない、モブの八重垣にばかり話しかけている。


 ここで俺はようやく、ある一つの可能性を思い浮かべる。


(まさか…俺目当てじゃないのか……?)


 なんて勘違いした小っ恥ずかしいセリフが脳裏に浮かぶ。うっかり口に出さなくて良かった。

 …オレが見た実況でやっていないだけで、特定の条件を満たせば八重垣も攻略対象になるんだろうか? 分からない……。



 そんな風に悶々と疑問を抱えながら、俺は休日を迎える。

 特に予定はなかったので、一人でショッピングモールへと向かった。家にこもっていては、ヒロインのこと、この世界のこと、転生したこと……色々な疑問に押しつぶされてしまいそうだったからだ。

 だが、それがいけなかった。いや、その後のことを考えると、良い選択だったとも言えるかもしれない。


 ショッピングモールの広場で、俺の悩みのタネの一つであるヒロインと八重垣に遭遇してしまったのだ。

 ちょうど、ヒロインがナンパに絡まれているタイミングだった。周囲の通行人は誰も止めに入らず、見兼ねて助けに向かおうと思ったら―――どこからともなく八重垣が湧いて出てきた。


 そこでのやり取りも、やはり奇妙だった。


「ありがと八重垣くん! あ、あとでお礼したいから、連絡先! 交換しない!?」

「急になに? 今度は大姫さんがナンパ?」

「ち、違うよ………!」

「ほい。別にお礼は良いから。さっきみたいなのとは交換しちゃダメだよ」


 ナンパから助けられたと思ったら、今度はヒロインが八重垣にナンパを始めた。

 その後は周囲のざわめきに気付き、デートはせずにすぐ解散。注目の二人が居なくなり、集まっていた野次馬も散り散りになっていったが、俺だけはその場に留まっていた。


「……あいつら、何やってんだ…?」


 よくもまぁあんな茶番を、公衆の面前で堂々と……。

 だが、ここで俺はようやく確信する。


 ヒロインの、八重垣へ向けるあの表情。

 紛れもない。あれは恋する乙女の顔だ。

 …知らんけど。多分そうだろ。


 あれから、二人は一緒に下校するようになっていた。

 そして俺も部活が無い日は、見つけ次第その間に割って入るようになる。

 ……別に嫉妬とかではない。彼女に特別な感情は抱いていない。そもそもこの世界に来て初めて顔を知ったレベルだ。

 何せ彼女は乙女ゲームのヒロイン。原作では指先が出てくる程度の露出度だ。指フェチでもなければ、そんなキャラに恋愛感情を抱くことはないだろう。


 俺が彼女と八重垣の間を邪魔しているのは、もう一つの、ある可能性が頭を過ったからだ。


「ここらへん、懐かしいねぇ」


 ある日の下校途中、不意に彼女が声を上げる。

 何事かと周囲を見渡すと、ちょうど学文路岐神社という神社の手前を通りがかっていた。

 原作では、夏と冬にお祭りが開催され、神社前の道路が出店で賑わう。学園モノでは定番のイベントだろう。


「昔、よく遊んだもんね」

「え? あ、ああ…」


 相槌を打つが、もちろんそんなことは知らん。こちとら昨日この世界に来たばっかりだ。

 ……だがちょうどいい。ここで少し、カマをかけてみるか。


「そういや俺、お祭りで遊んだ時、お前に射的で変なぬいぐるみ当ててプレゼントしたよな」

「あー、あったあった。それ、冬祭りだったよね―――」


 そこまで言い掛けて、彼女は言葉を詰まらせた。


 そう。今俺が語ったのは、彼女と俺……厳密には、草薙光留の思い出だ。なので彼女の答えは間違ってはいない。

 だがそれは、今年の冬祭りで起こる出来事―――つまり、この世界では未来の出来事。


 今はまだ春。夏祭りすら始まっていない。

 なのに彼女は、今後起きる展開を知っている。



 確信した。

 こいつ―――俺と同じ、転生者だ。それも、このゲームを熟知している。

 ……そして、攻略対象ではない八重垣を攻略しようとしている。


 そして、先日のあのやり取りに繋がる。



「だ、誰かに恋してる、とかさ……」

「恋ィ―――!?」


 ヒロインらしからぬ素っ頓狂な驚き方。それから取り乱しながら取り繕う姿は、答え合わせには十分すぎた。


「い、いや…今は勉強に集中したいかなー。行きたい大学とかあるし?」

「そうか」

「……わ、私もお手洗い行こっかな~!」

「あのさ!」


 思わず声を上げて彼女を引き止める。

 問いかけるような口調だったが、俺はこの時点で確信していた。


「お前、まさか転生してきたヤツなのか?」

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