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剣豪ジジイの異世界譚  作者: バチ
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第二話 王国へ

「出れたか…」


森の出口に日が差し込む。 森の中では感じられなかったが、日が高く、今は正午に近いらしい。


「あれです。 あれがダスパール城、そしてその城を中心に作られた町がダスパール城下町です。」


足軽が指さした先には白く美しい城がある。だがその見た目は日本の城とは全く違うものだった。 その城の周りには城と同じような素材で作られた城壁が円状に囲んでいる。


「あの城は石灰岩で作られているのか?」


「はい。 本当はホワイトライン鉱石と言いますが、第三王女様がよく『石灰岩』と呼ぶのでもう一つの名として広まりました。」


日本の城は石垣や木材を使った城が多いが、石灰岩だけで作られた城は初めて見る。 日本の城とはまるで違うが、これはこれで趣きがある。


「いい城だ。」


「ありがとうございます。 ここから10キロ先にダスパール城下町があるので少し走っていきましょう。」


走っている途中に大熊戦のとき隊が離れた後のことを聞いた。

甲獣が現れたことを城に戻って王に報告するつもりだったそうだが、この足軽…いや、この王国騎士が「爺さん一人で大丈夫か?」と心配になり隊を離れ、儂の下へ来たそうだった。


「帰ったら隊長や副隊長にめちゃくちゃ怒られますよ…いやだなあ。」


「馬鹿じゃのう、こんな老いぼれなど心配しておるから隊長に怒られるんじゃろうが。しっかり反省しろ。」


「反省って、一人のご老人が甲獣に立ち向かうなんて心配するに決まっているでしょう!!」


そんな言い争いをしているうちに、城門へ着いたそうだ。そこには、いかにも堅物そうな門番が二人いた。


「おい、止れ!」


「何者だ!」


毎回ここに来る人にいつも言っているからか、無駄に洗練された動きで門を守り、言葉を並べる。


「やだなあ、俺ですよ。 カイですよ。 名前ぐらい覚えてくださいよ。」


その自己紹介を終えると、その門番は笑って答える。


「知ってるよ、カイ。 カイ・レインズ。」


「第6隊の隊長と副隊長にいっつも怒られてる、通称『叱責のカイ』。」


「やめてくださいよ、その二つ名あんまり好きじゃないんだから。」


「ははは、すまんすまん。 よし、通っていいぞ。」


仲間内の談笑の次は儂に話の矛先を向ける。


「待て、カイ。 このご老人は?」


「この人は、俺たち第6隊の代わりにあの甲獣と戦った…えっと……」


そういえば互いの名前を聞いてなかった。なので、こちらから改めて自己紹介をしよう。


「武信。 辻凬武信(つじかぜたけのぶ)じゃ。 ただの老いぼれ剣客じゃが、よろしく頼む。」


「らしい。めちゃくちゃ強いぞ!」


適当な付け加えにさすがの門番たちもこれには困惑する。


「ああ、そ、そうか。」


「まあ、怪しいやつじゃなさそうだし、何しろカイの連れだ。 大丈夫だろう。」


そして、門番たちは声をそろえて言う。


「「通ってよし!!」」


そのまま儂らはダスパール城下町へ入っていった。

カイ…やつのおかげで怪しまれずに町に入ることができた。 感謝しなくてはな。


「さて、街には入れたことだし、まずは王国騎士団の詰所へ行きますか。」


「そうか。 で、どこにあるんじゃ?」


「俺が連れて行くよ、こっちだ。」


カイの後ろについていき、様々な家や店を通り抜けた。 中には、武器を売っているところや、果実を売っている店がある。 奇妙な格好をした道化師や美しい踊り子までいた。


「まるで楽市・楽座じゃな…」


ひとり、町の風景を楽しんでいると、いつの間にか石造りの門の前まで来ていた。


「ここが詰所だ。」


カイが指したものを見ると、詰所とは思えないほど大きな石造りの建物だった。 本来詰所とは、低料金の宿のことで、武士たちが一時的に宿泊したり、仮眠したり、待機する施設のことだ。 こんなにも大きく、大人数で入る場所じゃない。 武士ではない武信もさすがに驚く。


「なんじゃあこりゃあ…」


変な場所で目覚めてからここまで驚きの連続である。


「なんじゃって、そんな驚くことじゃないだろ? ま、ここの騎士団詰所は城に隣接してあるから、その分大きいんだけどな。 ほかの騎士団じゃあこんな大きくないぜ。」


「そうか…」


カイの話を聞きながら、巨大な門を通る。 門を通ると金属鎧を着た兵士たちがたくさんいる。

右には槍術の訓練、左には木剣を使った対人練習をしている兵士たちの姿が見える。


「なあ、爺さん。」


唐突に話を振られる。周りに向けていた視線をカイに向ける。


「なんじゃ。」


「あんたどっから来たんだ?」


そういえば名前のほかに出身国やなぜここに来たのかを説明していなかったことに気づく


「どこからというと…飛騨の国で生まれ、丹波の国へ旅をし…奴に斬られ…気づけばここに……」


「なんだそりゃ、ヒダ国とかタンバ国とか聞いたことないし、何より斬られたって、死んでねえのかよ!!」


「ああ、なぜだか知らんがこの通り、体にはなんら異常もない。」


「わっけわかんねえ。」


カイは鉄仮面をなでながら困った顔をしている。顔は見えないが。

他にも話をしながら詰所内を歩く。 好物の話をしていたら、ある門の前に立ち止まる。その門は詰所内のほかの門と姿は同じだが、中から妙な威圧感が出ている。


「この門は…」


「気をつけろよ…? この先にはクソおっかねえ副隊長サマがいるんだ……気を抜いていると、歯を引っこ抜かれて、顔面ぐしゃぐしゃにされちまう…」


「なら、今すぐ顔面をぐしゃぐしゃにしてやろうか? カイ・レインズ。」


後から女の声が聞こえる。 だがその声は、茶屋にいるかわいらしい小町の鈴のような声ではなく、戦場の中心から放たれる太鼓のような張りのある声。 それと共に後ろの威圧感が強くなる。


「!?」


「ヒイィ!?」


後ろを振り返ると、6尺以上の大きさの筋骨隆々の女が立っていた。 肌は浅黒く、髪は後ろで縛っている。 装備は胸に鉄板一枚に腰巻一枚とかなり軽装備だ。 背中にはとても巨大な両刃の剣を持っている。


「大熊討伐会議に遅れ、一人で老人を助けに行き、挙句の果てにはその老人を連れ帰ってくるバカには、どんな刑が必要かねえ?」


「ヒィィィ!!! ごごごごごご勘弁をおおおおおおおォォ!!!!」


どうやらこの女がカイの言う副隊長らしい。


「まったく…おっとご客人、このアホなんか放っておいて中に入りな。 茶ぐらいは出すよ。」


自分の後ろで子犬のように縮こまり、怯えているカイを起こし、扉の中へ入っていく。

扉の中には両側に大型の椅子、中央に縦に長い机、そして中央奥には中型の机が置けれており、まるで本陣の中のようだった。


「悪いね、今は隊長は留守にしているんだ。 ま、そこに座っていな。」


近くにあった椅子に腰かけると、その隣にカイが座る。 後に両手に二つの湯呑みを持った女性(副隊長)が儂の前に腰かける。


「どっこいせっと」


「あのー、俺の分は…」


「んなもん自分で取ってきな! 働かざるもの食うべからずだよ!」


「はい…」


どこかしょんぼりした様子でカイが奥へと消えていく。


「さて、話を聞かせてもらおうか、ご客人。 おっと、あたしの名前を言ってなかったな。 あたしはエヴァ。 エヴァ・クリエステスっていうんだ。 みんなはエヴァとかクリエとかって呼ばれてる。 ま、後者は一人にしか呼ばれてないけどね。」


「なるほど"えば"か、覚えておこう。」


「"エバ"じゃなくって"エヴァ"! 下唇を軽く嚙んで発音するんだよ。」


「うむぅ、難しいのう。」


「まあ、呼びやすい名で結構だよ。 で、あんたの名は?」


自分の名を聞かれ、少し背を正し答える。


「武信だ。 姓が辻凬、名が武信だ。」


「なるほど、タケノブ・ツジカゼ。 めっずらしい名前だねえ。」


確かに辻凬という苗字はとても珍しいと思う。 儂のもと居た家の近くにも"辻凬"という姓はなかった。 


「ところでツジカゼ殿、あんたはいったいどこから来たんだい? あたしら第6隊が甲獣と遭遇したときに、森の中から突然現れ、甲獣を追い払った。 でもあんたは、なんで助けたんだい?  だけど、カイの話を聞く限りあんたは無知すぎる。 我々のことも知らない、ダスパール国も知らない、この世界の何も知らない。」


「…………」


確かにここ…この世界のことは何も知らない。 奴に斬られ、突然この世界に来て、ここにいる。正直、誰かにこの世界のことを一から聞きたいが、その話を聞かせてくれる友人もいない。


「それすらも分からない…か。」


そう呟くと、巨女は立ち上がり言い放った。


「立ちな、訓練場に向かうよ。」


その行動に自然と疑問がわく。


「なぜだ。」


「あたしの家は騎士の家系でねぇ、いろんなことがあるたびに父さんと剣を打ち合っていた。 剣を打ち合っていると、父さんはあたしが思っていることを何でも言い当てるんだ。 道具屋のおっちゃんに褒められたーとか、近所の男の子と喧嘩したーとか。 あたしは言ったんだ、なんで父さんは何でも知ってるのって。 そしたら、こう言ったんだ。」


彼女は笑顔でこちらに顔を向ける。


「『人と剣を交わしたら、そいつが思っていること、感じていることが剣を通して知れる』ってね。 ほら、ついてきな。」


そう言うと、彼女は足早に訓練場へ向かう。 儂もそれについていく。


「さてと、俺は準備するものがあって……」


「ツジカゼとの『対話』が終わったら、次はあんただよ。 みっちりしごいてやるから覚悟しな?」


「はい…」


そんな話をしていると、訓練場に着いたようだ。


「広いな…」


そこは訓練場と呼ぶにはとても広かった。 床の材質は動きやすいように土で固められており、四方の壁は円状にこの土を囲んでいる。 儂は訓練場ではなく闘技場と思ってしまった。


「じゃあ、あんたはそこで剣の手入れや装備の確認でもしておきな。 あたしは向こうで用意するから。」


彼女はそう言って儂のいる反対方向と扉へ向かう。 が、それを引き留める。


「待て、真剣でやるのか?」


そう質問すると、すぐに回答が帰ってきた。


「安心しな。 この訓練場はちょっと特殊でね、上を見てみな。 薄い膜が貼ってあるだろ? あれは『広範囲回復魔法』ってやつでね、なんと、ここで受けた傷はすぐに治るんだ!」


確かに、上を見ると薄い膜が貼ってあり、わずかだが青色に煌めいている。


「じゃ、あたしは用意してくるから。 といっても、まあ、武器を変えるだけなんだけどね。」


そういってから、扉の中へ吸い込まれる。 閑話休題。


「装備の確認…と言っていたが…」


持っているものは刀、大天切兼元(だいてんぎりかねもと)一本と森で見つけた硬そうな実二つしかない。 だが、この刀さえあれば負ける気がしない。 不意打ちさえなければだが…


「どうだい? 準備はできたかな?」


奥から巨女が現れた。 彼女の全身を見るが特に装備の変更はないらしい。 唯一変わったのは武器だ。 さっきまでは自分の身長に迫るほどの巨大な両刃の剣を持っていたが、今は片手に収まる程度の両刃剣を持っている。 この世界の剣は両刃が普通なのか?


「じゃ、やろうか。」


巨女が構える。 その構えはまるで猛獣だ。 剣を逆手に持ち、姿勢を地面に擦れるまで低くし、草むらに隠れ、ジッと好機を待つ捕食者の目をしていた。


「いざ、参る。」


こちらも構える。 刀を横倒しにし初撃を受ける構えだ。


「はあああああ!!!!!」


巨女が突進してくる。 剣と剣の語り合いの開始だ。

誤字・脱字があればご指摘ください。

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