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剣豪ジジイの異世界譚  作者: バチ
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第一話 転移

一閃。


先ほどの一瞬で儂が分かったのはそれだけであった。

そして、儂は血を肩口から吹き出し、倒れながらやつの声を聞く。


「さすが剣豪と名乗るだけはあるぜ、爺さん。 真剣勝負で傷をつけられたのはあんたが初めてだぜ。」


刀についた血を掃い、頬のきずを触りながら呟く。

儂、辻凬武信(つじかぜたけのぶ)は剣聖・塚原卜伝(つかはらぼくでん)との真剣勝負に敗れ、死んだ。




目を開けると、儂は森にいた。

ガバッと起き上がり、辺りを警戒するがなにも見当たらない。目に付くのは少し不気味な木ばかりだ。


「何だここは…」


風が吹き、木の葉が静かに騒ぐ。耳を凝らしても、聞こえるのは小動物の鳴き声だけだ。そんな音達をかき消したのは自分の腹の音だった。


「……腹が減ったな……どこか食い物を探しに行くついでに、この森を探索してみるか。」


そう思い、見知らぬ森を駆け出す。森を探索しながらなぜ儂が生きているのか考える。


(あの時…確かに卜伝に斬られた。 だがその時の傷はもう無い。 神隠しだとしても、刀傷までは塞げんだろう…いや、神ならできるか…)


だが、そんな考えも自分の腹の音でかき消される。


「しっかし、食料が見当たらないのう。」


もうかなり走ったが木の実の一つ見当たらない。しかも、森の出口さえもない。

なぜこんな森に迷い込んでしまったのかもわからぬ…そう思案していると、


「グオオオオ!!!」


獣の声だ。犬や狸ではない。人を食い、血肉を欲する獣の声。

そんな声と同時に人の叫び声も聞こえる。


「だ、誰かぁ!助けてくれぇ!!!」

「!?」


声はさほど遠くない。 先に食料を集めたかったのだが、彼らを助け、報酬として食料をもらうのもありだろう。


「…助けてやるか。」


そう呟くと獣の声がする方へ走り出す。




「おい、新人。 何ボーっとしているんだ?」


そう呼ばれて俺はハッと隊長の方へ顔を向ける。


「あっ、えっと、すいません、隊長。 この森の威圧がちょっと…」

「お前な…この仕事が初めてじゃないだろ! シャキッとしろ!」

「……すいません。」

「まったく……」


これで、隊長に怒られるのは何回目だろう。そろそろ心配ぐらいしてくれてもいいのに。


特にアイアンリザードはE級モンスターだから、ボーっとしていたら王国騎士の俺たちでもやられてしまうだろう。 気を付けて相手しないと…


「隊長、全員準備完了しました。」


「ああ、分かった。」


そのまま隊長は隊員全員に喝を入れるように声を上げる。


「仕事内容の確認をする! まずはこの森の中にあるクリアフラワー45本の採集。そして、アイアンリザード20頭の討伐だ。 20頭は少々つらいと思う。だが、俺たちは誇り高き王国騎士団の第6隊だ。こんな仕事、簡単にこなしてやろう!」


「「おおっ!!」」


やっぱり、隊長はみんなに気合を入れるのがうまい。 だから隊長に選ばれたんだろう…


「出発する!!」


その声に呼応するようにみんなが足を運ぶ。 みな気合は十分だろう。 だが、何か胸騒ぎがする。 何か…恐ろしく……




走りながらその声が聞こえる方へ耳を傾けていると、若い男が叫んでいる声が聞こえる。獣にやられたのだろう


(近いな…)


そう思い、さらに加速していく。加速するたび、声が大きくなっていく。叫び声が聞こえるほど、血の匂いが濃くなる。 


「これは…」


音がした現場に着くと、巨大な熊と鉄鎧を着た兵たちが戦っていた。


「うおおお!!」


「はあっ! ぜやっ!!」


と様々な掛け声で自分たちの剣を振り回している。しっかり当たっているはずが、大熊はびくともしてていない。


「グオオオオ!!!」


「くっ、第三列、魔法準備! 放て!!」


大将らしき人物が声を上げる。 すると、巨大な炎が巻き起こった。


(なに…!? 妖術か!?)


だが、その炎かき消され、大熊は少しやけどを負った程度で済んでいる。大熊は腕を振り上げ、妖術を放った兵に振り下ろす。


「グガァ!!」


大熊はその巨大な爪で一人、また一人と兵たちを吹き飛ばしていく


(まさか『まほう』という妖術でも敵わなんか……さすがにまずいか?)


そう思い、武信は鞘から刀を抜刀し、構える。 刀に風が纏い、刃となって敵を斬る、『神龍閃』の構え。


(いいか武信…この刀は人を守るために使え……大天切兼元(だいてんぎりかねもと)……それがこの刀に付けられた銘だ…天にはびこる悪を…人に仇なす邪鬼を……斬れ。)


「銘に恥じぬ戦いを……参る!!」




甲獣…それは、ここ『甲獣の森』に棲むアーマードベアの二つ名だ。


『二つ名』というのは、あるモンスターの凶暴性や体格が大きくなったいわば突然変異で、発見され、その強さがもとになったモンスターをはるかに超える力を持っていたら、ギルドや国から『二つ名』が贈られる。その『二つ名』を持つモンスターは森の主だったり村の守護神だったりと特別扱いされる。甲獣は前者で、この森一番の強さを持っている。


だが、そんな甲獣が、謎の剣撃に、その巨体を揺らした。


「グオオオ……!!」


「……!? なんだ!?」


とんでもない剣撃が放たれた場所には、一人の老人が抜刀したままたたずんでいた。


(まさか、あの老人があの攻撃を!?)


たった一人の老人から放たれたとんでもない風刃もそうだが、その攻撃を食らってもものともしない甲獣の強さに全員放心していると、隊長が老人に向かって叫んだ。


「……助太刀を頼む!!我々ではあいつをどうすることもできん!!せめて、退却する時間を稼いでくれ!!見知らぬものに頼む態度ではないが頼む!!」


断られるのを承知で頼んだのだろうが、


「端からそのつもりじゃ。」


返事は意外にもあっさりしたものだった。老人からの軽い返事を聞き隊長含む隊員は退却の準備をする。


「恩に着るぞ、見知らぬご老人よ!ただ、生きて帰ってきてくれ!帰ってきたら、最高にうまいものをご馳走しよう!この森を抜けた先のダスパール国で待っているぞ!!」




(恩に着る…か。久しぶりに聞いたな……)


何十年ぶりかに聞いた感謝の言葉に浸っていると、それをかき消すように大熊が咆哮する。


「さて、やろうか。大熊よ。」


赤き眼光がこちらを睨みつける。それに呼応するように刀を構えると、大熊が突進してくる。 周りの木々をなぎ倒し、近くに転がっている兵士の亡骸を踏みつぶし、加速する。


(ぬおっ…!)


強く地面を蹴り、横方向に飛び突進を回避する。突進を回避された大熊は、後ろにあった岩を粉砕した。


「まるで破城槌じゃな。」


大熊はぐるりと方向転換してまたこちらに向かってくる。


「また来るか。 ならば…!」


刀を構えなおし、突進を受け流そうとすると大熊の爪が青紫色に光りだした。


「なんじゃ!?」


大熊はその青紫色に光った凶悪な爪を振り下ろすが、武信はとっさに横へ飛ぶ。 すると、雷が落ちたような音が聞こえ、大熊が引っ搔いた地面が爪の形そのままにえぐれていた。


「なっ!?」


混乱する。 儂が知る熊の中でもこんな芸当をする熊は知らない。ましてや爪が光り、雷を放ち、地面をえぐるなど…


「ぐ…まずいな……」


どうすればあの大熊から逃げ切れるか頭の中を巡らせる。

すると、



「ガアアアアアアアアッ!!!」



この世のものとは思えぬ声が空に響く。


「!?」


とてつもない烈風が吹き、大熊が巨大な足に潰される。 その足は赤黒い鱗に覆われ、大熊とはまた違った凶悪な爪を生やしていた。その足の正体は羽の付いた大蜥蜴(おおとかげ)だ。


「なっ…」


黄金色の瞳をこちらに向け、空へ飛び去って行く。鷲掴みにされ飛び去る大熊からは、哀しい叫びが聞こえた。


「なんなんじゃ…今のは……?」


すると、後ろから若い男の声が聞こえる。


「あれは…クリムゾンドラゴン!? なぜここに!?」

「!! そなたは…」


その男は大熊との戦いのとき、大将の後ろにいた足軽(のような立場だった者)ではないか。


「え? …おお、あなたは! 生きていたのですか!」


「ああ、何とか…な。」


「そうでしたか、良かったです。 まさかアーマードベアのほかに、クリムゾンドラゴンも現れるとは…」


ん?


「あぁまぁど? くりむぞん…なんじゃって?」


なんだか聞きなれない言葉がある。 南蛮の言葉か唐人の言葉か…


「え? まさか、アーマードベアやクリムゾンドラゴンも知らないのですか? ……まあ知っていれば、軽ーい返事で〈端からそのつもりじゃ。〉なんて言えるわけないか。A級冒険者じゃあるまいし……」


「何か言ったか?」


そう聞くと、足軽はわざとらしく動揺する。


「あ、ああいや…べつに……そ、そういや、隊長があなたをダスパール王国へ招待すると言っていたな。」


先程聞いた言葉を思い出す。


(恩に着るぞ、見知らぬご老人よ!ただ、生きて帰ってきてくれ!帰ってきたら、最高にうまいものをご馳走しよう!この森を抜けた先のダスパール国で待っているぞ!!)


「ふむ、そんなことを言っていたな……ところで、その…だすぱぁると言う国はどこにあるんじゃ?」


「そんなことまで知らないのか… この森を出てすぐに見える城がダスパール城でその城があるのがダスパール国…ってさすがに知って……」


「知らんが?」


唖然としていた。 何かいらぬことを言ったかと思うが、何も知らずにこんな森にほっぽり出されたのだ。至極当然の質問だろう。


「知らんって……そうか…」


啞然の次は呆然としている。 顔をすべて隠しておるのになんと感情が読みやすい足軽だ。


「分かった、俺があなたをダスパール王国へ連れてってあげましょう!」


「ほう。」


ダスパール王国か…この辺鄙な森にいるより百倍ましかもしれない。 行ってみるのもいいだろう。


「そうじゃな、行くとしよう。その前に腹が減ったのだが、何か持ってないか?」

誤字・脱字があればご指摘ください。

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