パラレル世界とアナザー妹 その2
「あ、おかえりー」
元の世界の戻ってきた時まず目に入ったのは妹神を名乗る異常性存在の姿だった。
先ほど靴を取りに来た時にもしかしたらと思っていたけど、どうやらこちらの世界に帰って来た時に最初にいるのは自分の部屋のようだ。
でもそんな事よりも気になるのは、目の前の彼女がなんでここにいるかだ。
「あ、私がいる理由? それは、まぁ、お兄ちゃんが別の世界に行った事を感知したからだよ。いやー、さっそく頑張るなぁって思って感心したから、本日2度目の降臨となったわけだよ、ふふーん」
なんか偉そう。
いや、神を名乗るくらいだから実際偉いのかもしれないけど。
「私を褒め称えるがよいぞ、はっはー」
いや、やっぱり偉そう。そんなに神としての位は高くない的な話をしていたような気もするし、普通に偉そうなだけかもしれない。
「おーい、おにいちゃーん、聞いてますー?」
「あー、うん、偉い偉い」
「わーい」
随分とオーバーなリアクション見せる。もしかしたら、僕は茶番に付き合わされただけなのかもしれない。
「さて、茶番はここまでにするとして」
「ああ、やっぱり茶番だったんだ」
「それで、どうだった? 何か新しい情報は得られた?」
いくつか得られた情報あるけど、今はそれよりも相談しないといけないことがある。
「うーん、その。情報は置いておくとして、相談することがあって、その、やっちゃってよかったのか分からないんだけど……」
「うん、なにかしたの」
「あっちの方の妹と会った」
「ほうほう、って、なんだってー!」
彼女は両手をあげて後ろに飛び退く。すごいオーバーアクションだ。あとすごくわざとらしい。
「会っちゃダメだったの?」
「別にそんなことはないよ、まったく干渉せずに何とかなるんだったら、別にお兄ちゃんが行く必要もないだろうし」
「じゃあさっきの反応はなんだったの?」
「いや、お兄ちゃん驚くかなって思って」
「いや、なんか反応がわざとらしかったし流石に驚きはしなかったかな。というか、もし会っちゃダメなら、リモコンに実体化なんて、そんな危ない機能付けないでほしいし」
「まーそうだよねー」
と適当そうにそう言って、宙で斜めになった身体を起こした彼女はごく自然にベッドに腰を掛けた。
「それで、どうだったのさ、詳しく聞かせてよ」
「……とりあえずは気も自信満々な様子を信じて相談することにするけど」
というか、本題は彼女と会ったことじゃなくて、彼女にリモコンの事を伝えたというほうだ。
「うん、それで、どンな事があったの?」
「そうだね、とりあえず一番相談しないといけないのは、リモコンの事かな」
机の前の椅子を引いて腰を掛けてから僕はあちらの世界で会った事や、やったことなどを彼女に話した。そして、リモコンの事を伝えた事でどうなるかなどを尋ねてみた。
「へー、それにしても律儀なものだねー」
一連の話を聞いて妹神はにやにやとしだした。
「なにが?」
「だってさー、おにいちゃんの妹ちゃん……響香ちゃんだっけ? に泣き付かれたとき、別にそこで逃げ帰ってもよかったはずなのに、わざわざ三十分もかけてなだめた上に、自分の事とかリモコンの事の説明もしたんでしょー」
「まぁ、うん。そうだけど」
「りっちぎー」
こちらを指差す妹神。これはもしかしなくても煽られてるよね。
「煽らないでよ、あれはこれからも会うことを考えると、ある程度誠実でいた方がいい方向に向かうと思ったんだよ、あの時は」
そう言うと、妹神は大笑いはやめて、ごめんごめんとほほ笑む。
「私は別に煽ってはいないよー、単純に流石だなーって思っただけだからねー。突如現れた正体不明の存在のいうことを素直にきいて、他の世界に行くだけのことはあるなって、そう思っただけ」
「自分の事怪しい存在だっていう自覚はあったんだね」
「そりゃ、流石にねー、人間から見たらそう見えるよねーってくらいのことは考えられますよ、私でも」
それならもうちょっと怪しさを減らすために態度を改めるとかも出来るはずなのに……。
「それで、なんだっけ、リモコンのことだっけ?」
「そう、響香に話しちゃったけど、大丈夫なのかなって」
うーん、と妹神は顎に手を当てて考える素振りをするが、すぐに口を開く。
「まぁ、大丈夫なんじゃないかな?」
「そんな適当な返答……不安なんだけど」
これ、本当に頼りにしていいのだろうか。
「いやー、別に駄目って事はないと思うよ、規則的にそういう不思議パワーのこと知らせちゃダメってのはないし、おにいちゃんが教えても大丈夫だと思ったから教えたんでしょ?」
「成り行きみたいなもので教えただけだよ」
実際教えるか悩んだし、つい教えるって言ってしまったから教えただけだし。
「でも、最終的に問題ないと判断して教えたんだろうし別にいいじゃないの? 妹ちゃんは受け入れていたんでしょ」
まぁ、彼女に拒否されるようなことは言われなかったけど……本当に大丈夫なのだろうか。
「いま問題が起きていなければ問題なし! もし問題が起きたら、そのときまた私に相談すればいいよ」
「う、うん、じゃあそうさせてもらうよ」
確かに問題が起きたとしても僕がどうこうできるとも思わないし、そう言ってくれるならいまはそう思っておくことにしよう。
「えーと、あとは……あ、そういえばおにいちゃんが死んでたって言っていたじゃん」
なにかを思い出したかのように、妹神は手を叩きこちらに向き合う。
「うん。あの世界の僕はなんか死んでるみたいだったよ。そのせいで響香に泣きつかれたちゃったわけだしね」
「それで思い出したんだけど……私って、説明してなかったっけ」
そんな風に首を傾げられても何のことか分からない。
「なんのこと?」
なので、そう聞き返してみると、とんでもない返答が返ってきた。
「お兄ちゃんの向かう先のお兄ちゃんは全員死んでいるってこと」
あまりのことで数秒唖然としてしまった。別世界の自分が死んでいると言われた事には少し思うところがないわけではないが、それ以上に、先に教えてほしかった情報がここまで伝えてもらえなかったことにたいしての色々な思いが混ざったものの方が強い。
というか、それを知っていたら不用意に干渉状態にはしなかったのに……。
「先に教えてもらいたかった……」
「ごめんねー、すっかり伝えたつもりになっていたよー」
両手を合わせてウインクされましても、あんまり謝れている感じがしないんですけど……。
「でもなんで、僕が死んでいる世界が行く先に決まっているの?」
気になって聞いてみると、どうやらちゃんと理由があるらしい。
「二つの理由からおにいちゃっんはおにいちゃんが死んだ世界に行くことになっているんだよ」
「二つの理由?」
「うん、その通り、まず、一つ目!」
人差し指を立てて、元気よく彼女が話す。
その様子を見てなんとなく分かったけど、彼女はオーバーなアクションが好きなんだろう。
「お兄ちゃんが別の世界の自分と鉢合わせるのを避けるため。これは、だいじなことでね、同じ世界に同じ人間が二人いるとちょっといろいろと問題が発生するんだ。だから送れないっていうのもあるんだけど、シンプルにおにいちゃんも困るでしょ、別世界の自分と出会うの。絶対面倒臭いことになりそうだしね」
「まぁ、確かにそうだけど……」
「うん、それじゃあ二つ目!」
と中指を立ててピースの形に。問題は両手ともピースにしているところ。満面の笑みでダブルピースをしているけど、それだと二じゃなくて四になるような気がする。
彼女との話はこういったことがあるせいで別のところに気がとられがちだ。もしかしたら本当は別世界の僕が死んでいる事を話していたかもしれない。だとしてももうちょっと集中しやすいような会話を心がけてほしい物ではあるけど。
「二つ目はねー、お兄ちゃんが問題解決しやすいようにだよ。実際どうかは分からないけど、お兄ちゃんがいないことによって問題が起きている可能性の確立が増えるかもしれないから、お兄ちゃんが問題解決して妹ちゃんを救いやすくなるかもしれない……っていうことだよー、たぶん」
「かもしれないに加えて、多分って……」
なんかこの神様随分とあいまいな表現が多いような気がする。もうちょっと確信を持って説明してほしい。というか、確信がないなら二つって言わなければよかったような……いや、ただでさえ脱線しやすいのだからこれは言わないでおこう。
「それにお兄ちゃんがいるなら、問題を抱えている妹の事はそのお兄ちゃんが解決するべきなんだよ。全お兄ちゃんには自分の妹を助ける義務があるんだよー、だからおにいちゃんが行く世界では妹は一人なのかもねー」
「……う、うん」
大分横暴な理論を述べられた気がするけど、うん、同言葉を返せばいいの分からないし、とりあえず頷くだけ頷いておけばいいか……うん、そのはず。
「あー、その顔は納得してないなー」
「いや、まぁ」
流石に顔に出ちゃっていたか……いや、仕方なくない?
「それは横暴かなって、ちょっと思ったかも」
言うだけ言ってみると、妹神はぽかんとした表情をしたあとにまた微笑んだ。
「ふふっ」
「なにがおかしいの?」
「だってそうは言うけど、おにいちゃんは妹ちゃんの事助けようとしているでしょう」
「それは君に言われたから」
「じゃあ、私に言われてなかったとして、なんらかの理由で同じ状況になったとしたらどうするの?」
そんなことは起きないとは思うけど……考えてはみる。
同じような出会いをしたとして、前情報で妹がいると知らなかったとして……それでも彼女は何か他人には思えないと感じる気がする。だとして、なにか悩んでいる事が分かったとしたら無視は出来ないかもしれない。
「僕に出来る範囲の事ならなるべく手助けはしていたかもしれない……」
「やっぱりー、じゃあ私の理論は間違ってないでしょ」
それは違うような気がするけど、自分がやろうとしている事を考えるとそこまで強く否定はできないのかもしれない。
「さてと、今度こそ全部話したかな、それじゃあ、今回の世界の妹ちゃんの事についてだけど」
「うん、そういえばこれ相談だったね、一応」
「そうだね、私から言えるのは、お兄ちゃんが死んで悲しんでいるだろうから、とりあえずはお兄ちゃんとして接してあげるといいんじゃないかな」
「うーん、その根拠は?」
「全妹を総べる妹神として直感」
やはり、信用しきるには胡散臭さが漂い過ぎている気がする、この神様。かといって騙されているような気はしないんだけど。
「……信じていいかは分からないけど、とりあえずはその直感信じてみるよ……」
「うんうん、それじゃあ、おやすみー、次は月曜日の放課後に行くんだっけ? それなら次に私と会えるのはそのあとだから、夜になるのかな」
「そうかも」
「それじゃあ、妹ちゃんの言葉を借りるみたいだけど、じゃあね、また明後日」
そう言って彼女は光を放つことなくすっと消えて行った。
別に発光しなくても帰れるんだ……。
「いやー、おかえりー」
「うん、ただいま」
さも当然のような顔をして僕の帰りを待ち構えている妹神も心構えが出来ていれば特に驚くことはない。ごく自然にそんな返答をして、椅子に腰を掛けた。
「それで、一日妹ちゃんの事を観察してみてどうだった?」
そう言われて、今日あちらの世界で見聞きしたことを思いだす。
「そうだね……まぁ、彼女が別に困っている訳じゃないんじゃないかと思った」
僕がいなくても響香はいつか立ち直ると思われる。
「そっかー、ということはお兄ちゃんがいるだけで彼女はそれでいいって言うのは本音の話だったのかもね」
うんうんと頷く妹神。
「でも、僕はそうは思わないんだよ」
「どうしたの、何かあった?」
「だって、響香に僕が付いていたら、いつまで立っても彼女自身が本当に立ち直ることはないんじゃないかなって思って」
僕は兄の代わりにはなれるのだろうけど、それが彼女にとってプラスになるかは分からない。僕がいなくてもいつかは立ち直るだろう彼女が、僕を兄代わりにしていることで立ち直れないんじゃないかとも考えられる。
「……そっかー、お兄ちゃんは別世界の妹ちゃんのことも本気で考えているんだね」
妹神が優しい微笑みを浮かべる。
別にそんなつもりはなかったけど、そう言われると少しだけ嬉しいものだ。
「僕の都合で彼女を付きあわせているとはいえ、本当に彼女の事を救えるなら救った方がいいに決まっているし、まぁ、うん」
「それじゃあ、頑張らないとだねー」
珍しく真面目そうな表情をした妹神は優しい口調でそんなことを言う。
「頑張る?」
「うん、だって、どうせいつかは別れないとだし、お兄ちゃん自身も離れる必要があると思っている。でも、妹ちゃんは今、お兄ちゃんのことを必要としている。だから、下手な別れ方したら、また後引いちゃうでしょ」
そっか、響香と分かれるときがいつかは来るんだ。出会った以上、分かれないといけない時が来る。それにまだいかないといけない世界が8つもあるんだ、あまり時間をかけるのも良くないんだ。
「そうだね……しっかり考えないとか」
響香を傷つけないように、出会ってよかったと思って貰えるように頑張らないといけない。
「うん、まぁ、また何かあったら相談には乗るから頑張ってね、それじゃあ、おやすみ」
「おやすみにはまだ早い気もするけど、うん、おやすみなさい」
妹神は特に派手な演出をするわけではなく、スッと消えて行った。




